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四季帝(しきのみかど)、愛のゆくえ  作者: 紫月 京
八の章 嵐のような客人

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弐佰陸拾肆

 

 表宮の大広間に重臣たちが集う。

 突然の招集の理由に、どの顔も不安と好奇心に染まっていた。

 御座にどっしりと腰を下ろし、朱夏は扉が開かれるのを待っていた。

 すでに客人は表宮の湯殿に案内され、つき添ってきた親雪も別の湯殿で軽く埃を流させた後である。朱夏の隣には、異例のことではあるが通訳のために築岳が控えていた。

 高々と客人の来訪が告げられ、固く閉ざされていた大広間の扉が開け放たれる。

 褐色の肌を晒した大柄な男性が、小柄な親雪に伴われて入ってきた。現れたその姿に、重臣たちがどよめく。

 絹糸のような白髪は一つに編まれ、体の横に垂らされている。海色の双眸は興味深げに大広間を見渡し、己の国との相違を確かめるように壁や柱に視線を走らせていた。

 薄布を腰に巻き、足には金で縁取られた草履を履いている。さすがに少しは肌を隠そうと思ったのか、素肌の上から浴衣のような上衣を羽織っていた。しかし前を留めることはせず、上衣からはがっしりとした胸元から腹部にかけてが丸見えであった。

 朱夏の御座から数歩離れた場所で立ち止まった親雪に倣って、客人の足も止まる。拝礼した親雪を、薄い唇に笑みを浮かべて眺めていた。

「世を遍く照らす今上帝さまに、ご挨拶申し上げます。亜伊夜の国より、国王陛下が外遊においでになられました」

「うむ。急な訪いに驚いたが、新たな友人を歓迎しよう」

 朱夏の視線が王へと向けられた。それに気づいたのか、親雪を見ていた王の瞳も朱夏に向く。

『我が名はアイーヤ国第二百代国王、シャファング三世である。突然の訪れを受け入れてくれて感謝するぞ』

「亜伊夜の国の王、シャファング三世陛下でございます。突然の訪れへの受け入れに、感謝を述べておいでです」

「朕は四季の国の帝、朱夏である。しゃふぁんぐ三世どの、『初めまして』。四季の国へ『ようこそ』。貴殿の来訪を『歓迎する』」

『陛下、こちらは四季の国の帝、朱夏さまにございます。陛下を歓迎なさると』

『俺の国の言葉を覚えてくれたのか。熱烈な歓迎、ありがたい』

 両腕を広げて御座に近寄ろうとするシャファング三世に、武官たちが警戒したように身構えた。だが、朱夏はそれを手で制し、御座から立ち上がる。

『ツィキタケも久しいな』

 朱夏の隣につき従う築岳に微笑み、シャファング三世が壇上から降りてきた朱夏を抱きしめた。

 ぎょっと目を見開いたのは、重臣たちである。思いもしなかった出来事に、朱夏は大きな腕の中で固まった。

『ん?この国では、こういった文化はないのか?』

 首を傾げたシャファング三世が、追いかけてきた親雪を振り返った。息を切らした親雪が、嗜めるような声を出す。

『……陛下。以前にも善有どのが申し上げました。四季の国では、人前で抱擁などはしないのだと』

『お堅いゼンアの言うことだからな。話半分に聞いていたが』

「親雪。王は何と仰せだ?」

「あ、はい。亜伊夜の国では、親しい相手とこうして抱擁し合って、友情を確かめ合うものなのです。我が国にはそういった風習はないと、ご説明申し上げておりました」

「……そうか」

 親雪の言葉に頷き、朱夏はおずおずと大柄な背中に手を回した。その行動に、シャファング三世の瞳が見開かれる。

「抱擁し合うのが、友情の証なのだろう?」

『我が今上帝さまは、友情の証として陛下の抱擁にお応えになりました』

『ほう。なかなか柔軟な考えをしているのだな。俺好みだ』

『……陛下』

 頭を抱えそうになった親雪ではあったが、心配そうな主君の表情に我に返り軽く咳払いした。

「今上さま、陛下は今上さまとの友情をお喜びでございます」

「そうか。それはよかった。この後は、宴の用意がしてある。ともに酒を酌み交わすことを、受け入れていただけるだろうか」

 朱夏の言葉を親雪から伝えられ、海を渡ってきた国王は破顔して頷いた。

『宴は俺も好きだぞ。美酒も美女もこよなく愛している』

『陛下。恐らく美女はおりません』

『何だつまらん』

 ようやく抱擁を解かれ腕の中から抜け出せた朱夏は、ほっと息を吐きながら唖然とする重臣たちを見回した。

「これより、大内殿で歓迎の祝宴を開く。さすがに外国の王に対して無礼講というわけにはいくまいが、我が国の美酒や肴を振る舞い、存分にお楽しみいただこう」

 驚くべき振る舞いの客人ではあったが、それでも一国の王である。胸の内の驚きは飲み込んで、深く頭を下げる重臣たちなのであった。



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