↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季帝(しきのみかど)、愛のゆくえ  作者: 紫月 京
六の章 新しい命

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

183/299

佰漆拾玖

 

 烏が鍛えた朱夏の隠密たちが、奥宮の入口に密かに配置された。

 一名だけいる女性の隠密が奥宮の内に入ることを許され、輝山家からも女性の武官が呼び寄せられた。

 第二室の私室を囲うように配置され、奥宮への人の出入りが常以上に厳重に管理される。

 重臣の息のかかった侍女は、現在ただ一人。この侍女が、重臣の家へ奥宮の変容の報せを出せぬように、病に伏せっていることにさせた。

 大港から戻った汐之とともに、輝山の大臣が考えた第二室の警護体制であった。


「しかし、入内して一年経たぬ内にご懐妊とは、本来ならめでたいことですがな」

「内々に、我らだけで祝いの品を贈るべきであるか」

 帝不在の執務室で交わされる両大臣の会話に、聞き耳を立てる者はいない。烏は隠密たちと奥宮の黒門に詰め、異変があれば即座に両大臣に知らせることになっていた。

「宮中のどこに重臣方の目があるかわかりませんからな。祝いは公表してからに致しましょう」

 筆を置き汐之が視線を上げる。

「外交官たちの文は先ほど奥宮へ届けました」

「どうやら首尾よく亜伊夜の国へもたどり着けたようで、安堵致したな」

「ええ。来月夏煌丸の帰還に、誰か一人でも戻るとよいのですが」

 善有たち三名は、唱洪の国の外交官の案内で無事に亜伊夜の国へと到着したらしい。

 王政を摂るかの国で、妙葵や煌姫を見つけられるか、両大臣の意識はそこに向けられていた。

「夏煌丸の最初の出航からも、じきに一年が経つ。こうして国元で頼りを待つだけというのは、何とも心許ない」

「ですが、我らが大陸に渡るわけにも参りませんからな」

 帝の決裁が必要な書類を仕分けながら汐之が答える。

「長期戦を覚悟してはいたが……早くご正室さまの無事なお姿を見たいものだ」

「まことに」

 書類の仕分けを済ませ、汐之は再び筆を手に取った。

「西領へ薬草茶の品質改善の指示。北領の冬の果実を使った菓子の開発。それと真珠の確保ですな」

「新たな薬草酒の出来がよければ、来月出航する大船に乗せてもよいが」

「いえ。せっかくですから、帰還した夏煌丸が次に出航する際に乗せましょう。今上さまの御名で交易品にする方がよろしい」

 大船も夏煌丸も、大港に帰還した翌月に次の船が出るという周期である。大船は二隻が交互に出航するが、夏煌丸は一隻しかない。船の傷みが酷ければ、修繕に再び時がかかる。

「今上さまの御子がお生まれになる頃には、吉報があるとよいのですが」

「春の始め頃が産み月であったか。ご体調が安定なさったならば、公表するか」

「そうですね。いつまでも秘しておいても、重臣方がまたうるさい」

 皮肉に笑いながらの汐之の言葉に、輝山の大臣も頷く。

「奥宮の警護は輝山の者で固めたが。湊刃からも信頼できる者を出せるか?」

「また重臣方に突かれるのでは?」

「其方にとっては初孫だ。心配して人を送り込むことは不自然ではあるまい」

 新たに上質の紙を手にし、汐之が筆を進める。

「では、浪嶺の母でも呼び寄せますか」

「其方の乳母であったな?」

「ええ。今は大港に家を構えて悠々と過ごしておりますが。やはり経験豊富な年嵩の者も、第二室さまのお側に控えていた方がいいでしょう」

 浪嶺の母を呼ぶための書状を、汐之が書き始めた。

「封鎖した夏の宮の管理のために残っている、秋穂どのを奥宮に配置するのもよいと思ったが」

 難しい表情で腕を組んだ輝山の大臣に、汐之が苦笑を浮かべる。

「今上さまの乳母を務めた方ですな。しかし、ご正室さまを慕っておいでだったと聞きました。第二室さまの側近くでお世話してもらうのは、少々不安がございます」

「そこよな。子を産んだことのある、頼りがいのある女人なのだが」

 書を書き終え、墨が乾くのを待つ間に汐之が次の紙を取り出す。

「奥宮に残る重臣の家の侍女はいかが致しましょうか」

「病ということにして私室に軟禁してあるが……騒ぎ出すであろうかな」

「さて。私もその侍女と顔を合わせておりませんのでね。ただ、浪嶺の報告によれば、何というか……毒にも薬にもならぬ女、と」

 先に書いた浪嶺の母への書に封をし、汐之が筆を置いた。

「今上さまと第二室さまに害をなさぬのならば、今しばらく放っておくか」

「不審な動きを見せた際に、すぐさま捕らえればよろしいでしょう」

 頷き合い、両大臣は忙しなく残りの書類に目を通し始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。