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四季帝(しきのみかど)、愛のゆくえ  作者: 紫月 京
五の章 即位、外交への舵取り

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151/299

佰肆拾玖

 

 表宮の奥にある大広間で、新たに選出された外交官の任命式が行われる。

 高位の貴族の出ではない三名には、豪奢な装束を誂える時間も金もなかった。下位の文官に支給される装束を身に纏って臨む式となった。

 だが、三名とも期待に瞳を輝かせ、御座に座る朱夏の姿をじっと見つめている。

「覇杵の善有、秀聯の親雪、そして商家の築岳。帝の名の下に三名を新たな外交官として任じる。我が命を受け、我が国の益となるように励むがよい」

 朱夏の言葉に深く頭を下げ、三名が「はっ」と声を合わせて返事を返した。帝の名において任命されたことを示す玉《ぎょく》が、輝山の大臣から三名へと渡される。

 誇らしげに玉を受け取り、三名は再び頭を下げた。

 式に参列する重臣たちは、苦々しい表情を隠しもしない。だが、今回選ばれた三名の試験結果が提示され、己が家の子息の成績が振るわなかったことに臍を噛んだ。

「平時ならばこの後酒宴を開いてやりたいのだが、これより旅支度に入る三名には時がなかろう。それでも新たに任命した其方らとは朕もゆっくり話がしたい。表宮の我が居室にて、歓談の場を設ける」

 朱夏は立ち上がり、両大臣を従えて大広間を出た。その後を、外交官に任命された三名が、小姓に先導されながらついてくる。


 大広間に残ったのは、代々宮廷に仕える文官の家の当主たちであった。

「今上帝さまはお若すぎますな」

「左様。いきなり外国との交易を重要視なさるなど」

「長くお仕えする我らを蔑ろになさるなど、どこかでお諌めして差し上げなくては」

 ひそひそと会話を交わし、重臣たちは苦い表情を浮かべた。

「やはりここは、我らの娘を参内させてしまうのがよろしいのではないですかな」

「息子たちは、役に立ちませんでしたからなぁ」

「しかし、表宮も籠宮も、侍女たちは年嵩の者を集めております。差し込む隙はございますか」

 大広間から出ず、壁際に立ちながら会話は続く。

「我が家の娘は、それはもう美しく、気立てよく育ちましたぞ。今上帝さまも、きっとお気に召すでしょう」

「ああ、それは頼もしいことですな。何、侍女として送り込めずとも、表宮の回廊ででもすれ違わせればよろしい」

「我が娘の肌に耽溺されれば、下々に目を向けている暇などなくなることでしょう」

 にやりと笑う重臣の一人に、あとの二人も厭らしい嗤いを浮かべる。

「身籠られれば、さらに重畳ですな」

「そうすれば、奥宮の予算は奥宮の予算のままお遣いになるしかなくなりますな」

「左様。ご正室さまの奪還が叶わなければ、ご寵愛深い姫が正室の座に就かれることもできるでしょう」

「まこと、仙螺もよい仕事をしてくれたものです。血筋正しい姫君がおられねば、他の旧家から由緒のある娘を娶るしかございませんからなぁ」

 下卑た笑いを浮かべながら密談する彼らは気づかない。寄りかかった壁の裏で、帝の隠密たちが聞き耳を立てていることになど――。


 表宮の帝の居室。

 日中の休息所として使われるこの部屋に、三名の外交官が招き入れられた。

 中央の椅子に座った朱夏は、向かいの長椅子を指し示す。

「何を突っ立っておる?腰掛けるがよい」

 そう言われ、戸惑ったように顔を見合わせる三名の後ろから、両大臣が入ってきた。

「ほら。後がつかえておるぞ。早う座るがよい」

 輝山の大臣の言葉に、三名は飛び上がった。恐る恐る振り返り、両大臣が頷くのを確認して緊張の面持ちで朱夏の向かいに腰を下ろした。

 朱夏は三名をじっと観察する。

 覇杵の善有。深い緑の髪を短く刈り、ひょろりと背の高い青年である。髪と同じく深緑の瞳は理知的な光を湛え、恐れずに朱夏を真っ直ぐに見つめている。

 秀聯の親雪。淡い茶色の髪を編んで横に垂らし、朱色の瞳をくるくると動かしている。善有より頭二つ分ほど背が低いが、引き締まった体をしているのは装束の上からでもわかった。

 そして、商家出身の築岳。三名の中では最も大柄でがっしりとした体躯をしている。外国へ渡るために、きちんと体を鍛えているようだ。だが、その藍色の瞳にはやはり思慮深さを感じさせる光が乗っていた。

「烏、薬草茶を」

「はっ」

 隠密の一人から何事か報告を受けていた烏が、扉から壁際へと戻って茶を淹れ始めた。帝の側近に手ずから茶を淹れてもらうことに、三名は恐縮しているようである。

「そう固くならずともよい。まずは、朕が好んで飲んでいる唱洪渡りの薬草茶を飲んでみてほしい」

 その言葉に、三名は瞳を輝かせた。市井では滅多にお目にかかることのない珍品である。

 爽やかな香りが広がる帝の居室で、朱夏と三名の外交官、両大臣の歓談の時間が始まった。



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