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四季帝(しきのみかど)、愛のゆくえ  作者: 紫月 京
四の章 失われたもの、奪われたもの

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佰拾肆


輝山から連れて来た兵たちに、妙葵の屋敷を制圧させた。

とは言え、それほど数の多くない使用人たちを、一室に集めて見張りをつけただけのことだ。護衛の武官がいるわけでもなく、制圧にそれほどの時間はかからなかった。

屋敷と外との出入りを使用人たちに禁じ、朱夏は宮廷まで馬で必死に駆けた。妙葵の屋敷で見つけた、外国との盟約らしき書状は懐に厳重にしまい込んで。

己だけで判断はとてもできなかった。頭の中が真っ白で、その場で卒倒しなかったのは烏と凛慈がいたお陰だと朱夏は思う。

何故。どうして煌を――。

側にいるはずの春香はどうしているのか。

妙葵の企みに、あの春香が手を貸しているのだろうか。

そんなことばかりが朱夏の脳裏に浮かび、少しも考えが纏まりそうになかった。

今すぐ飛び出して、国中を探し回りたい。だが、闇雲に動いたとしても無駄に時が流れるだけだ。

経験豊富な祖父の知恵を借りたかった。

書状に書かれていた「貴国」がどこを指すのかも、まだわからない。

妙葵の狙いが、この四季の国を出て外国で出世することだったのだとしたら。

その手土産に、煌姫を差し出すということならば。

到底許せるはずもなかった。


一気に大通りを駆け抜け、馬を下りた朱夏は表宮の執務室に駆け込んだ。

薬師からの報告を受けていたらしい輝山の大臣が、目を丸くして朱夏を迎え入れた。

「日嗣宮さま?どうなさいまし……」

「妙葵はっ!妙葵が懇意にしていた国はわかるかっ!」

朱夏の勢いに気圧され、薬師が一歩下がった。歩み寄った烏が、何事か囁いて薬師を執務室から下がらせた。

本宮の門で別れた凛慈は、櫻花楼でもう一度黄駕の話を聞くと言って去っていった。

「日嗣宮さま。まずは落ち着かれませ。妙葵の屋敷はいかがだったのですか」

「これをっ」

懐から取り出した書状を、有無を言わさず輝山の大臣に押しつけた。息を切らし、流れる汗を拭いもしない朱夏の様子に、ただ事ではないことを察した大臣は書状を開く。

文面に目を走らせた輝山の大臣の顔が、みるみる青くなっていく。

「これは……」

「妙葵は、どこかの国と交易していたか!?」

書状を元通りに畳み、封を戻しながら大臣は首を横に振った。

「個人でどこかとやり取りしていたとなると、我らにはわかりかねます」

「ではっ、煌は……!」

「落ち着かれませ!」

普段声を荒げることのない輝山の大臣の大声に、ようやく朱夏も我に返る。

頬を伝う汗を手の甲で乱暴に拭い、じっと祖父を見つめた。

「済まぬ。だが、一刻の猶予もない。屋敷に妙葵はいなかった」

「どこと交易していたかはわかりませぬが、妙葵の交友関係を当たれば或いは……」

「そのような悠長なことはしていられぬ」

ぴしゃりと跳ね除けた朱夏に、輝山の大臣は眉を寄せた。

「では、しらみつぶしに探し回るのですか?外国への船が出る港を、すべて回るのですか?一つを調べている隙に、別の港から船が出たならどうなさいます」

「……っ」

「少しでも可能性の高い場所を、掴まねばなりません。闇雲に動いて、取り返しのつかないことになっては困ります」

祖父の諭すような口調に、朱夏は唇を噛む。

「私が妙葵の朋輩を集めて聞き出します。その間、少しでも体を休めてください」

「休んでなど……」

「食べて、飲んで、寝る。そうして体力を回復しておきなさいませ。いざという時に動けませぬよ」

「……」

この数日、確かに碌に眠っていなかった。最後にしっかり休息を取れたのは、櫻花楼で黄駕の尋問をする前だったろうか。

「酷い顔色をしておいでです。そんなお顔では、煌姫さまにお会いした時に、心配をかけますぞ」

朱夏の肩から力が抜ける。

だらり、と下げた腕に輝山の大臣がそっと手を添えた。

「燃えた夏の宮に戻れなどとは申しません。そちらは、復興の手配をしております。籠宮で、今上帝さまのお部屋のお側で、少しでも休まれてください」

「……」

「何かわかれば、必ずすぐにお知らせ致します」

唇を噛んだまま、朱夏は縋るように祖父を見た。背の伸びた朱夏が見下ろす形になるが、頼もしく大きな祖父であった。

安心させるように大きく頷いた輝山の大臣に、朱夏は溜息を零して執務室を後にした。


一人残された輝山の大臣が、険しい表情で側に侍る小姓を呼びつける。

「妙葵の同輩を、すべて連れて参れ。文官であろうと武官であろうと、宮の下働きに至るまで、あれとつき合いがあったと思われる者はすべて、だ」

底冷えするような声で命じる大臣に、小姓は静かに頭を下げて出ていった。



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