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四季帝(しきのみかど)、愛のゆくえ  作者: 紫月 京
四の章 失われたもの、奪われたもの

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佰壱


聳え立つ冬の宮の建物を前に、朱夏は気を引きしめた。

半歩後ろに烏が従い、その後ろに輝山家の兵たちを引き連れている。

冬の宮の入口を護る武官が、訝しげな視線を送ってきた。

朱夏は懐から輝山の大臣の署名入りの書状を取り出し、朗々と読み上げる。

「これより、日嗣宮の名において、冬の宮の捜索を行う。

 今上帝さまへの投毒と、国庫の帳簿の偽造。宝物殿の目録の隠匿。第六室迦陵どのへの冤罪による毒殺。以上の嫌疑がかけられている。これは、国に対する重大な謀反である。速やかに我らを内へ通すように」

ざわり、とその場の空気が揺れた。淡々と告げられた罪状は、ただの武官では想像もつかない恐ろしい内容だ。二人並んで立つ武官が、視線を交わして宮内を窺っている。

「抵抗するならば、日嗣宮の名の下に斬り捨てる」

書状を畳んで懐にしまいながら、朱夏は武官に目を向けた。みるみる青ざめる様子をじっと観察する。

蓮黄と黄駕の企みは、こうして下で働く者たちには知らされていないだろう。秘密は知る者が少なければ少ないほど、上手く運ぶ。

一歩踏み出した朱夏に、武官が後ずさる。次の瞬間、武官の一人が冬の宮へと駆け出した。

「冬廉親王は、宮においでだな?仙螺から来ている者は、すべて冬廉親王の側で待機するように」

「お……お言葉ですが、日嗣宮さま。貴方さまにそこまでの権限は……」

「今上帝さまが動けない今、私に全権があると心得よ。其方が抗う意味などない」

武官の言葉を無視して進む朱夏の後に、烏を先頭として輝山の兵たちが続く。狼狽えた武官を、輝山の者が取り押さえた。

「抵抗しなければ、傷をつける意思はこちらにはない。大人しく従え」

武器を取り上げられた武官が、その場で膝をついた。


本宮の北に位置する冬の宮に、朱夏が足を踏み入れるのは初めてのことだった。

物々しい朱夏一行の姿に、宮に仕える者たちが青ざめた顔で遠巻きに見ている。輝山から来た兵たちに宮中をくまなく探るように命じ、朱夏は真っ直ぐに奥を目指した。

夏の宮とそれほど造りは変わらないように見える。ということは、主の部屋は最奥だ。

入口から順に、どれほど小さな部屋も漏らさず捜索し始めた兵たちの姿を確かめる。冬廉の寝所に目的のものがあるのはわかっていたが、正しく捜索したという姿勢を見せておかねばならなかった。

青い顔をした侍女が護る扉を開かせようと、朱夏は足を止めて口を開いた。

「冬の宮の主に、お目通り願おう」

「おっ、恐れながら……」

「抵抗すれば、其方も罪人として捕らえられるぞ」

ひっ、と小さく呟いて、年若い侍女が震えながら扉を開いた。

烏だけを引き連れ、朱夏は弟の部屋に足を踏み入れる。

広々とした部屋の中央で、冬廉が菓子を頬張っているところだった。一人で座っている様子に、朱夏の眉が寄る。

「これは、兄上。何ごとですか」

口に菓子を入れたまま、両手で押さえながら冬廉が立ち上がった。

「冬廉、其方一人か。煌はどうした?」

「煌、ですか。そういえば、今日はまだみていません」

「見ていない……?」

声が尖るのを止められなかった。己の正室にするのだと連れ去ったくせに、居場所を把握していないとは。

大股に弟に歩み寄り、朱夏はしゃがまずに冬廉を見下ろした。目線を合わせてやる余裕がない。

「其方の母上と伯父上、そして祖父上にな。恐ろしい疑いがかかっている」

「うたがい……母上、に?」

「そうだ。其方の寝所も、探させてほしい」

朱夏の言葉に、冬廉ではなく壁際に控える侍女たちが息を呑んだ。兄弟といえども、寝所に踏み込むことは非礼とされる。

「わたしの、しんじょにですか?」

「この宮の内は、すべて調べる。輝山の大臣の署名入りの書状もある。其方が抵抗することはできない」

しばらく考え込んだ冬廉は、にっこり笑って頷いた。

「兄上に、わたしのみやへ来ていただけてうれしく思います。お気のすむように、なさってください」

「親王さまっ!」

悲鳴のような侍女の声に鋭い視線を向け、朱夏は弟に微笑んでみせた。

「其方が賢い弟で、私も嬉しく思う。では、私の配下を其方の寝所に立ち入らせてもらうな」

烏に目配せし、扉外に控える輝山の兵に伝えさせる。

「兄上、おわるまでわたしとお茶にいたしませんか」

「ありがたい申し出だが、煌を探さねば。煌に与えていた部屋へ連れて行ってもらえるか?」

最後に会った時、月の障りで体調を崩していた煌姫。随分長い間、会えていない気がしていた。

これ以上、冬の宮に置いておかせるつもりは、朱夏にはなかった。

「では、わたしがごあんないいたします」

機嫌よく歩きだした弟の背を苦笑とともに見つめ、朱夏は戻ってきた烏を伴って冬廉の私室を出た。



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