24.迷宮都市に来たけど明日から頑張ります
冴えなくてモテない商人のおじさんの馬車に揺られて数十日、時折魔物は出るものの、街道は比較的安全だった。
俺は軽く魔物を蹴散らし素材を剥取り、おじさんと2人で野宿を繰り返す日々、そして遂に俺たちは辿り着いた。
俺は呆気に取られた。ハルシオンよりも更に大きな街。その中央に聳える天を突くような巨大な塔。そんな街中を闊歩する冒険者達。
「凄い…」
「そりゃな」
『迷宮都市ミステール』
セイクリッド王国の王都圏と、ルードウィン領の間にある、公爵領にある、この国で王都に次いで2番目に栄えてる街だ。
栄えてる理由は簡単だ。この世界で4つしかない迷宮。その1つがここにあるからだ。
迷宮は100階層あると言われているが真相は不明。そしていずれの迷宮も未だ踏破されていない。現在セイクリッド王国にある『ミステール迷宮』は数十年前の50階層到達が最高記録だ。この迷宮の51層を攻略しただけでそれは偉業…つまり『英雄』と呼ばれるに相応しい伝説だ。
「迷宮都市って聞いた時は驚いたがまさか本当に来るとは…」
おじちゃんは苦笑いしてた。
「王都で地道に頑張るのもいいけど、迷宮都市の方が沢山の魔物との実戦が出来るし、凄いアイテムをゲット出来る確率もあるし、何より英雄への近道だからね。まぁそう簡単じゃないってこともちゃんと分かってるから安心してよ」
俺はジャンヌやルナみたいに才能がある訳ではない。そんな事は百も承知だ。だから実戦を積みながらコツコツと頑張るつもりだ。
なら王都でコツコツ頑張れ?
薬草取りをしている暇があるなら少しでも多く魔物と戦わないと、ジャンヌやルナとどんどん差が開いてしまう。少しでも早く追いつかなければ。
俺はある程度、街中まで入るとおじちゃんと別れた。
「本当に、ここでいいのか?」
「うん、ありがとう」
そこは『ギルド』と呼ばれる建物の前だった。豪華な鎧を纏う騎士。巨大な斧を背負う屈強な戦士。巨大なとんがり帽子を被る魔法使い。中にはセクシーな衣装を身に纏う踊り子のお姉さん等等。
今日からは俺もそんな人達の仲間入りをする。
「寂しくなるな、ユーマ…」
「じゃあこの街に配属される様に頑張ったら?」
おじさんはまたタハハって顔をしている。ここまでくると最早愛嬌すらある。
「そうか…なら、おじさんもチョット頑張るかな…」
そう言うおじさんの顔は少しやる気に満ちていた。
「じゃーな、ユーマ! 元気でやれよ!」
「おじさんも! たまには村の事教えに来てよー!」
おじさんは手を振りながら人混みの中へと消えていった。
「よし、行きますか」
♢
ギルド・迷宮支部
子供の俺には巨大な扉を力一杯押し開けた。ギルド内は賑わっていた。奥には何人もの受付嬢さんのいるカウンターがあり、絨毯の敷かれた中央の道を挟む様に幾つものテーブルが並んでいた。
そんなテーブルには、沢山の冒険者がいて、飲み食いする者、作戦会議をしている者、会話をする者など、様々だった。
壁には大きなボードが掛けられており、そこには沢山の依頼書が貼られていた。
「ゴクリ…」
緊張する。
俺は中央の絨毯の道を真っ直ぐに進んだ。すると段々と周りにいた冒険者さん達がこちらを見だし、ざわつき始めた。
「子供だ…」
「ガキか…」
「はっ、今年もまた馬鹿なガキが夢を見にきたか…」
「いや、もしかしたら…」
「そうだ、たまにいるぜ…とんでもねースキルや魔法を持ったガキが」
「もしかしてコイツも…?」
侮蔑の眼差しは、俺がカウンターに近づくほど何故か期待の眼差しへと変わった。やめて欲しい。俺にそんな凄い才能はない。ジャンヌやルナの方が余程凄い。
「ようこそ、冒険者ギルド迷宮支部へ。ご用件は冒険者登録でしょうか? それとも素材の換金ですか? はたまた依頼の発注でしょうか?」
真っ直ぐに進んでいた筈の俺は緊張からか、いつの間にか1番左端の受付嬢さんの前に立っていた。まぁここが空いていたって事もあるけど。
「えっと…冒険者登録と少しですが素材の換金もお願いします」
ギルド内がどよめいた。
「おいおい、冒険者登録前にもう魔物を狩ったのかよ」
「やべーぞ、こりゃとんでもない期待の新人が来たぞ」
「一体どんなスキルを持ってやがんだ」
「どんな魔物の素材を持ってやがんだ」
「もしかして勇者とか?」
「馬鹿野郎! 異世界勇者じゃあるまいし、それは流石にないだろ…いや、まさか…?」
皆の俺への期待値がどんどん上がっていく。勘弁してほしい。
「では先ず冒険者登録をいたしますので、こちらの鑑定水晶へ手を翳してください」
受付のお姉さんはカウンターから人の頭程度の水晶を取り出してカウンターへと置いた。俺はそれに手を翳した。
「ゴクリ」
「ゴクリ」
「ゴクリ」
「ゴクリ」
俺ではなくその場にいた冒険者全員が唾を飲んだ。
水晶は一瞬だけ光ると、受付嬢さんにだけ見える程度の大きさでステータスが表示された。
「こ、これは…えっと…冒険者スキル…Lv5、ですね…」
なんでお姉さんまで少しガッカリしたみたいなテンションなんですか!
俺なにか悪い事しました?
勝手に期待して勝手にガッカリしないで欲しい。
「えっと…職業スキルは3つあるみたいですけど残りの2つは文字化けしてますね…」
お姉さんは更に追い打ちをかけてきた。
鑑定の儀で既に知ってますけど?
何故わざわざ言うのだろうか?
「…あれ?」
「意外と…大したこと…ない?」
「そ、そうだな…なんか、普通…?」
「だな。冒険者スキルはあるみたいだけど…」
「レベルも5か…」
「うん、普通だな…」
「普通だ…」
周りの冒険者の人達も見るからに落胆の色をみせた。そして、今日から俺の二つ名が決まった、らしい。
『普通の冒険者』ユーマ
英雄を夢見て都会に出てきた10才の俺にはとんだ冒険者デビューとなった。
この後、魔物の素材を出して換金するも別に盛り上がる事もなく終わった。まぁ大した魔物でない事は知ってたけどね。
いいんだ、コツコツ頑張るって決めたんだ。
でも…
取り敢えず今日は立ち直れそうにないので、明日から頑張ろう。




