78話
私と兄が向かい合って座るテーブルに、ドン、と豪快な音を立てて鉄板が置かれる。その上には焼き立てのステーキが、じゅうじゅうと音を立てながら湯気を上げていた。
我慢なんてできない。最高級の“ギューギュー”と弾力のある霜降り肉に、たっぷりとソースをかけた。
鉄板にこぼれ落ちたソースが、ジュッと弾ける。香ばしい匂いが一気に立ちのぼり、空腹を容赦なく刺激する。
「いただきます! んんっ、美味しい……! 霜降りのお肉、最高!」
「いただきます。ああ、美味いな。シャーリー、一枚交換しないか?」
「いいよ。交換しよう」
兄の皿からリブロースを受け取り、代わりに私のサーロインを差し出す。
リブロースは脂の甘みが濃厚で、とろけるよう。サーロインは上品な旨みが際立ち、噛むほどに肉の力強さが広がる。
これは――
「「何枚でも食べられる!!」」
声がぴたりと重なり、思わず顔を見合わせて笑った。
近くのテーブルに座るローサン殿下は笑い、同じ席のアルバートや騎士団長と副団長は、私たちの勢いに目を丸くしている。
〈……魔力が回復する! 兄、父にお土産を買っていこう!〉
〈ああ、そうだな。帰りに肉屋に寄って、明日の分も買おう〉
〈いいね、買って帰ろう〉
⭐︎
ステーキをぺろりと平らげた皿を前に、私は満足げに息を吐いた。お腹はほどよく満たされ、体の奥を巡る魔力もほとんど元に戻っている。
食後のオレンジジュースをひと口含むと、甘酸っぱい香りが喉を通り、張りつめていた気がふっと緩んだ。
(……もう、二度とヤスラ村には行きたくないなぁ)
あの村での思い出は、懐かしさではなく、ただ悲しい記憶だけ。
ローサン殿下たちは、このまま街の外で野営し、周囲の様子を見守るらしい。ならば明日の早朝、転移魔法で王城まで送ればいいかな。
兄と森へ帰ったら、温室の手入れに各森の見回り。瘴気で枯れてしまった、木々の状態も確認しておきたい。一応かけた保存魔法が効いている限り、侵食の広がりは止まったはずだが、早めに対処しなければならない。
(本当は、木々を元に戻したいけれど)
浄化魔法は聖女、聖職者にしか扱えないと聞く。私は魔女。できるのは、瘴気の侵食を抑え、土地を整えるか、時間はかかるが新しく木々を植える。
(侵食を止められるか、ひとまず帰ってから試してみよう)
食事を終えた騎士団と魔法使いたちは、夕食の買い出しへと街へ散っていく。ローサン殿下とアルバート、騎士団長と副団長は魔物と生贄の件を報告するため、冒険者ギルドへ向かうと言った。
依頼が終わったのなら、私たちは森へ帰ろう。椅子を引いて立ち上がり、軽く一礼する。
「ごちそうさまでした。ローサン殿下、皆さま、本日はお疲れ様でした。明日の早朝、転移魔法で王城までお送りしますね」
「ごちそうさまでした。お疲れ様でした」
兄も続いて頭を下げた。
帰りに肉屋へ寄り、兄と一緒にたっぷりと肉を買い込む。森に戻れば忙しくなるのだから。
「魔女、今日はありがとう。報酬は振り込んでおくよ」
「またね、シャーリー」
「魔女様、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
手を振って、みんなと別れた。




