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リィーネ森の魔女  作者: にのまえ


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77話

 森の見回りを終え、ヤスラ村へ戻った私と兄、殿下、アルバート。そのとき、ルルーカの街で会ったタケシが、遠く離れた場所からこちらを見ていた。


 その隣には、かつて両親と呼んだ人たちと、兄弟だった人たちの姿もあった。幼い娘を「バケモノ」と言い、森へ生贄にするために捨てた彼ら。


(この村の村長が禁止された、生贄を使っていたと知れ渡った今……彼らは、もう何も言えないはず)


 私は静かに、視線を外す。

 もう、振り返らない。


 彼らを気にすることなく、ローサン殿下へと向き直った。


「殿下、私は森へ帰ります」


「なに? 森へ帰るだと? 待ってくれ、魔女」


 殿下は慌てたように、私の手を捕まえる。


「依頼金とは別に、今日の礼をしたい。ルルーカの街まで来てくれないか」


 三つの村を巡り、気がつけば昼をとっくに過ぎている。お腹はぺこぺこで、早く帰って温かい食事がしたい。


 どうやら、兄も同じらしい。


〈シャーリー腹減ったな。ルルーカに戻るなら、昼飯と晩飯も買って帰ろう〉


 切実な声に、思わず小さく笑ってしまう。


〈そうだね。今日は疲れたもの。そうしよう〉


 私は殿下に向き直った。


「わかりました、ローサン殿下。ルルーカの街まで参ります」


「魔女、ありがとう」


 殿下は安堵したように頷き、ヤスラ村へ持ってきた物資の残りを他の村へ分け与えるよう騎士たちへ命じた。


 やがて移動が始まる。


 殿下と騎士団長は馬に跨り、

 アルバートはホウキに乗って空へ舞い上がる。私はその後ろで仮面を外して、兄の背に乗り、頬を撫でる風を感じていた。


(無事に、すべて終わってよかった)


 ドラゴンの夫婦に卵を返せたこと。

 生贄にされるはずだった女の子を救えたこと。


 重くのしかかっていたものが、ようやく胸から下りていった。魔法を使った空腹と疲労と、それでも確かな安堵を抱きながら、私はルルーカの街へと向かった。


 ⭐︎


 ルルーカの街へ戻ると、冒険者ギルドへの報告を済ませ、騎士団長は借りた馬を馬貸し屋に返した。


 そこに。


「ローサン殿下、支援、傷の手当てが終わりました」


「副団長、ご苦労だった」


 他の村の支援や傷の手当てを終えた、騎士や魔法使いたちも、続々と街へ戻ってきた。みんなが揃い次第向かったのは、街でも評判の食堂だった。


 殿下は迷いなく店を貸し切りにし、中央の卓へ立つ。片手にはビールではなく、ジュースの大きなジョッキをかかげた。


「ご苦労様、今日は本当にありがとう! 好きなだけ食べてくれ!」


 豪快な声に、店内がどっと沸いた。


 私はこの店に来たことはない。けれど、名物が“ギューギューのステーキ”だということは知っている。兄は魔獣の姿から人型へ戻り、隣に座り、真剣な顔でメニューを睨んでいる。


「シャーリー、何にする? 俺は三百グラムのサーロイン三枚。焼き方はミディアム。パン五個、スープ、サラダセットかな」


 お腹が空き過ぎて、真剣そのものだ。

 私もメニューを見ながら答える。


「私は三百グラムのリブロース五枚。焼き方はミディアム。パン十個とスープ、サラダセットにするわ」


 今日は三つの村を回った。森を飛び、魔法を使い、お腹はぺこぺこだ。

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