76話
「魔女、それをどうするんだ?」
血抜きが終わった魔物の肉を、アイテムボックスにしまったところを見た殿下からの問いに、私は一瞬だけ言葉に詰まった。
それは魔物の肉を食べることを、伝えなくてはならないから。私たちとは違い、人がそれを口にするのは、食べ方を知っている一部の冒険者くらいだ。
(食べたこと、ないだろうなぁ。でも正直に言わないと、ずっと聞いてきそう)
「えっと……魔物に残る魔素を抜いてから、食べます」
そのまま焼いても、食べられないことはない。ただ、味は落ちる。二、三日かけて魔素を抜き、少し熟成させるとぐっと美味しくなるのだ。
「……食べるのか」
「はい」
「あの、ローサン殿下。遠征や長期間ダンジョンに潜る冒険者たちも、魔物の肉は食べますよ。食料に困ったときには、かなり助かるそうです」
アルバートが、自然な調子でそう補足した。
「ダンジョンか。なるほど、冒険者たちも食べるのだな。中々、勉強になる」
「よかったですねぇ。では、あたりに魔物の気配もありませんし、戻りましょう」
森を駆ける兄の背に乗りながら、アルバートが話した、ダンジョンが気になった。
確か、ここから西、アースロン国の中央にそびえる塔型のダンジョンがあると聞いた。その塔がいつの時代に造られたのかは不明だが、大魔女だった母なら何か知っていそうな気もするけど、興味がなさそう。
アースロン国の塔には、冒険者になった者が一度は登ると聞いた。塔の上へ行くほど敵は強くなり、各階層にはボスがいる。
(ボスを倒すと、珍しい宝物がもらえるんだったかな?)
そうだ、兄は外で暮らしていたし、知っているかもしれない。
〈ねぇ、兄。ダンジョンに行ったこと、ある?〉
〈ん、ダンジョン? 俺はアースロン国の塔型ダンジョンなら行ったぞ。確か、半分くらいまでだな。それ以上は敵が強くて……仲間が全滅した〉
〈全滅?〉
〈ああ。でもダンジョン内なら、各階にある水晶のポータルに登録しておけば、女神の加護で生き返る〉
〈生き返る? へぇ……すごいわね〉
それに冒険者ギルドへ登録すれば、ステータス画面とかで、自分のレベルやランクが確認できるし。
ギルドに登録している魔法使いは、ランクアップで新たな魔法を得たり、ダンジョンで見つけた書物から魔法を覚えたりする。中には、古代魔法を研究する変わり者もいるらしい。
新しい魔法を書物から、覚えるのは面白そうだけど。私は魔女で、使うのは独自の魔女魔法。新しい魔法が欲しければ、自分で作ればいい。
ダンジョンに眠る宝には、少しだけ心が惹かれる。けれど、ルルーカ街にあるギルド経営の〈ダンジョンの宝屋〉へ行けば、珍しい品は手に入る。
一度ギルドに納品したあと、店を覗いてみるのも悪くないかもしれない。
――あ、そうだ。
もっと希少な品なら、夏の終わり頃に森へやってくる行商人。長い銀髪、青い目の見た目のいいエルフ、力持ちのセロから買えばいい。
村の女の子に渡した、白い花飾りのついた髪飾りも、もとはセロから買ったものだ。そこへ私が魔女の祝福を施した。
(今年は、どんな品を持ってくるのかしら)
セロが大荷物を背負って、森を訪れる姿を思い出すだけで、胸が弾んだ。




