75話
そういえば、マサトだったかな? 彼の姿にも、かつての家族の面影は残っていなかった。正直にいえば会いたくなかった相手だ、会わずにすむのならそれでいい。
見回りのため、ヤスラ村を離れて迷いの森へ入る。私は兄の背に乗り、周囲に神経を張り巡らせていた。
あ、いる。
〈ねぇ兄。まだ、近くに魔物がいるわ〉
〈ん? ああ……いるな。数は多くない。これくらいなら、一体だけ晩飯用に狩って、あとは追い返すか〉
〈えぇ、そうしましょう〉
リィーネの森では見かけない大型の魔物。
解体さえ丁寧に行えば、肉は上等だ。
狩を始める兄と私は、同時に気配を消す。
私は杖を握り、魔力の流れを整える。兄は低く身構え、威嚇のタイミングを測っていた。
そのとき、背後から声が森に響いた。
「魔女! やはり森の見回り、僕も手伝う!」
「シャーリー、私も一緒に行こう!」
振り返ると、ホウキに乗った魔法使いアルバートと、ローサン殿下の姿があった。
これはまずい。魔物はまだ距離がある。だが、この声量だ。次の瞬間、イノシシ型の大型魔物が首を上げ、こちらを捉えた。
〈わっ……気付かれた〉
〈……アルバートはともかく、ローサン殿下まで連れてくるとはな。シャーリー来るぞ、守りに入れ〉
〈えぇ、わかった〉
私は杖を振り、アルバートと殿下まで包み込むように、防御壁を張った。
その直後、ドンッ!!
イノシシの巨体が、防御壁に叩きつけられる。
魔法の壁は耐えたが、地面が揺れ、衝撃が足元から突き上げてきた。
「……へぇ。これは、なかなかの大物ね」
「肉付きもいい。ポスか。なら、こいつを狩って、残りは森の奥へ追い返す」
「それでいきましょう。兄、いくわ。ローサン殿下、アルバートはその中から出ないでください」
私は防御壁の外に出て杖を構え、兄は隣で低く唸り、牙を剥いた。
〈初手は雷でいい?〉
〈いいが、焼きすぎるな〉
〈わかってる〉
雷魔法「《雷》」放たれた雷は、正確にイノシシの額を貫いた。一瞬、身体が硬直し、次いで魔物は目を回して、その場に崩れ落ちる。
(少し、強かったか)
兄は瞬時に魔物の背後へ回り込み、森へ向けて大きく吠えた。
「ガオオオオォォォーーーン!!」
遠吠えが森に響き渡り、ざっ、と複数の足音が奥へ遠ざかっていく。この一体を残し、他の魔物は兄の威嚇におののき、森の奥へと逃げたようだ。
「兄、この一体以外の気配は消えたわ」
「そうだな。まぁ言いたいことはあるが……結果オーライだ。さっそく血抜きするぞ」
私は頷き、ポシェットから大型のナイフを取り出す。イノシシの首元、動脈の位置を正確に捉え、刃を入れた。
十分に血を抜いた後、大型のためアイテムボックスを開き、魔物を収納する。地面に残った血痕はシャボン魔法で洗い流しす。他の魔物が寄ってくる原因になるから森には残さない、それが掟。




