74話
その母の気持ちが、素直に嬉しかった。
リシャンの母の想いが、今回「魔物が出た」という形で北の村々を巡る機会を生み、そしてこの村がいまだいけにえを使っている事実を、王家に示す結果となった。
(これで……村長が迷いの森に、生贄をささげることは許されなくなる)
〈シャーリー、よかったな〉
〈えぇ。これから犠牲になる子はいなくなるわ〉
兄とうなずき合った。私はポシェットの中を探り、魔力を抑える魔法を込めた、白い花の髪飾りを取り出した。そして、先ほどまで生贄として差し出され、今は両親の腕に抱かれている少女のもとへ歩み寄る。
「よく頑張ったわ。……これは、私からのプレゼント」
この髪飾りは、身につけなくても彼女を守ってくれる。魔力を抑える魔法と、魔女の祝福を込めてあるのだから。
「可愛い! ありがとう、お姉ちゃん」
「えぇ。……兄、森へ帰りましょう」
「ああ、帰ろう」
ドラゴン夫婦の卵も見つかり、生贄にされかけた少女も救えた。この村の壁は十分に堅牢で、新たに手を加える必要もない。依頼はすべて果たした、そう判断して帰ろうとしたそのとき。
「ずるいです。僕にも何かください。今回、僕も頑張りましたよ」
まだ完全には動けないのか、アルバートは地面に座ったまま、こちらを見上げている。少女を見つけ、首飾りを回収した彼の働きは確かに大きかった。
「……わかったわ。これは前に作ったものだけど」
「なになに? 僕にくれるの?」
私はポシェットから、魔女の祝福を込めたラベンダーのポプリ袋と薬水の代わりに、苦いガラーナ飴を取り出して彼に手渡した。
「飴と魔女のポプリ⁉︎ もらっていいの?」
「いいよ。本当に、魔法使いアルバートは頑張ったもの。でもその飴、魔力は回復するけど……かなり苦いから覚悟してね」
「ありがとう。大切にする。……っ、うわ、本当に苦い!」
ガラーナ飴を口に放り込んだ途端、苦さに顔をしかめるアルバート。あのときのお茶会とは違い、素直に喜んでくれるその様子に、私の口元も自然と緩んだ。
「魔女」
村長が騎士に拘束されている場所から離れ、ローサン殿下と騎士団長ミハエルがこちらへ歩み寄ってくる。
「村に出入りしていた商人の話を聞くため、村長はしばらく拘束する。それと魔女、近くに魔物の気配はあるか?」
「いいえ。魔物寄せの首飾りはアルバートの魔法の玉の中ですし、卵も元の場所へ戻しましたから、いま魔物の気配はないです。……気になるのでしたら、兄と一度、森を見回ってきますか?」
殿下は一瞬考え込み、まっすぐ私を見つめて言った。
「……頼んでいいか?」
「はい。兄、行こう!」
「おう!」
私は兄の背に乗り、迷いの森へと向かった。




