97話──それぞれの安否
リンの屋台に行ってみると、今日も人が並んでいた。
「お、リンは無事なようだな。ん?」
しかし、よくよく見ると店先に並んでいるのは普通の客達ではない。鎧を身に纏い、青マントをたなびかせた騎士達。全員若いが精鋭揃いの風格。青年騎士団ってとこだろう。
というか、あれって確か······。
「美味いっ! リンっ、君は素晴らしい才能の持ち主だ! よかったら我が騎士団の専業コックにならないか?」
聞き覚えのあるでかい声が聞こえてきた。
近寄ってみると、リンの隣に座り込み山盛り焼きそばを豪快にすする女騎士、脳筋セイディの姿があった。
「これが異国の味、これが東方か! リンよ、さっきはすまなかった。焦げたパスタを食わせる気か!などと言って斬りかかろうとして」
「あ、あははは、そ、そうでやんすね。心臓に悪いから次は気をつけて欲しいです」
そして、苦笑いを浮かべて隣に立つ貧乏露店花魁のリンちゃん。どうやらまた切り捨てられかけたらしい。
とりあえず二人とも無事なようで安心だ。
俺らが近寄ると、二人もこちらに気づいた。
「あっ、ノゾムさん、ハトやん。良かった、お二人も無事でやしたか。あんな怪物が町の真ん中に現れたから心配しやしたよ」
「おう、お前らも無事だったようだな。セイディ、お前もよく最前線を生き残ったな」
「ああ、私は市民の避難を誘導していたからな。現場からは離れていたんだ。君らも無事で何よりだ」
モグモグとたらふく焼きそばを食うセイディ。
「ノゾム、君も食べないか。この焼きそばという物は美味いぞ」
「初日に食ったぜ。今日は食いに来たんじゃなくてリンちゃんに貸してた金を返しに貰いに来たんだ」
「うぇぇっ?! わ、わっちは借りてなかったはずでやんすが?!」
「なっ!? 聞いたかセイディ! こいつは人様から借りた金を踏み倒す気だ! こんな悪党を許して良いのか?!」
「リンっ! 借金を踏み倒すなんて正義に反するぞ! 今すぐノゾムに返すんだ!」
「嘘でやんす~! 信じないで~!」
「もうっ、パパ!」
嘘だという事はすぐにバレ、俺は大人しく焼きそばを食う事にした。
「で、どうだリン。売り上げの方は借金返済の足しになったんか?」
「あい。昨日の売り上げは少し落ちてしまいましたが、今日は朝からかなり売れて。この三日で4万リルク近くの儲けでありんす」
「3万くらい分けろよ」
「そ、それはご勘弁を……」
くそ、こんな不幸属性少女のくせに俺よりも稼いでやがる。
「ノゾム、君も冒険者は辞めてリンと焼きそば屋を始めた方が良いんじゃないか?」
「魅力的な提案だが、俺は人相手の接客商売は得意じゃねえんだ」
「なるほど、確かにそうだな」
「おい、なんで即納得しやがった?」
部下の騎士団員達がクスクスと笑った。
「しかし、ノゾムとハトエルはアイリと一緒に祭りを回ると聞いていたが、今日は一緒じゃないのか?」
「ああ、まあな。実はあの化物が現れた後からは会ってなくてな」
「? 喧嘩でもしたのか?」
「いや、そうじゃなくてな。まあ、単にタイミング合わなかっただけだ」
俺は変身と戦闘による疲労の件は上手く誤魔化して、ずっと疲れて寝ていたと話した。
「なるほど。まあ、あんな騒ぎの後だ。疲れが出るのも無理はない」
「大変でしたしねえ……」
リンも大きなため息を吐いた。
「わっちもあの時は覚悟しやしたよ。故郷を離れた遠い異国の地で、志半ばで散るのかと」
「うむ。私も流石に武者震いしたな。あのイクリプスという怪物とは一度戦っているから恐ろしさは良く分かってる」
セイディも神妙に頷いた。
「ホープが来てくれなかったらどうなっていた事か」
「本当ですなぁ。わっちもこれで二度もホープに助けて貰ったようなもんでやんす」
「なに? リン、君もホープを知ってるのか?」
「あい。実は、カクカクシカジカで……」
「そうなのか、私もウンヌンカンヌン……」
リンとセイディはお互いのホープの認識を擦り合わせていた。
「なるほど。我らは二人ともホープに恩義のある人間だったか。世間は狭い、いや、ホープの活躍が広いと言ったとこか」
「そうですね。ほんと、ありがたい事でやんす」
当の本人は目の前に居るのだが、正体をバラしたらどんな顔をするんだろうか。
軽い飯も食えたし、リンとセイディ二人の安否も確認出来たので、俺とハトエルはその場を後にする事にした。
「それじゃあな。リン、借金したくなったら何時でも頼ってくれたまえ」
「ハハハ……も、もう勘弁でやんす……」
「セイディ、やたらめったら辻斬りするなよ」
「そんな事する訳ないだろ? 何を言ってるんだ?」
二人と別れ、ハトエルを連れてまた町の中を練り歩く。
「良かったですね、お二人とも元気そうで」
「まあな。何だかんだ言って、四天王やイクリプスと一度は遭遇してるのに生き延びた奴らだ。悪運は強いんだろう」
悪運の強さで言ったらアイリなんてヤバいな。ドラゴン、キングガーニン、オニックス、イクリプスと立て続けに遭遇しているのに無事なのだから。
「さて、そのラッキーセイントガールのアイリちゃんにも会いたいんだが、どこに居るのかねえ」
「多分、お祭りを回っているんでしょう。今日が最終日ですし」
「そういやそう言ってたな」
あんな事件があったんで、祭りは予定の五日間から三日間に短縮された。つまり、今日が最終日だ。
「なら、このままブラついていればその内会えるかもな。そしたらさりげなく愛のランデブーだ」
「でも、どうします? アイリさん美人ですし、もしかしたら恋人さんと一緒に回ってたりして」
「なん……だと?」
たしかにあり得る。あんなに性格も良くて器量良しな美少女に男が居ない方が不自然だもんな。
「俺の知らないところでアイリが変な男と仲良くしてるって言うのか……!」
「それ、多分相手側の言葉だと思いますが」
「居たらの話だ! そんな奴居ないっ! はずだ!」
「望さん、必死ですね……」
ばかな、ばかな、ばかな。あ、あの清純派のアイリちゃんに限って彼氏など……!
だがっ、もしかしたらっ……! あのお人好しな性格では押しに押されて言いくるめられて、無理やりモノにされて……変なチャラ男の女にされてるんじゃ……!
こんな風に。
『うぇ~い、アラサー君見てる~? アイリちゃんなら俺の横で寝てるよ~? あ、今夜も帰らないからヨロシク~。つうか明日から俺アイリちゃん家に世話になるからw』
『ごめんなさい、ノゾムさん……私、もう……この人無しじゃいられない身体に……』
「う、うおおおんっ! 脳が~! 脳がおかしくなっちまう~!」
「あ、あばば~! だ、大丈夫ですか望さんっ! しっかり!」
「あれ? ノゾムさん、ハトエルちゃん?」
「!?」
ついに破壊された脳にアイリの声まで再生された。こりゃもうまともな頭に戻れないぜ。
「あっ、アイリさんっ。こんにちは!」
と、元気良く挨拶するハトエル。幻聴ではない。
振り向くと、そこには寝取られ純心ヒロインのアイリが不思議そうに首を傾げて立っていた。
「どうかしたんですか? なんかノゾムさん、様子がおかしいみたいですが……」
「うおおっ! アイリ~!」
「きゃあ?!」
思わずその両肩を掴む。
「よ、良かったぜ……。無事だった(チャラ男君に寝取られてなかった)んだな……」
「は、はい。私もあの事件の時はちゃんと避難してましたから」
「違う、そっちじゃない。もっと恐ろしい敵にヤラレた(性的な意味で)かと……」
「???」
「アイリさん、気にしないでください。パパは今、少し脳が壊されてしまっただけで……」
「それ深刻じゃないかな?」
ふ、そうさ。アイリが俺以外の男と楽しくやってる訳ないじゃないか。やれやれ、別に俺は焦ってなんかないんだけどな。
「ふっ。ちょうど良かったぜアイリ。せっかくこうやって無事に再会出来たんだ。お兄さんと一緒にお祭りを楽しまないかい?」
そう誘ってみると、アイリの顔が途端に申し訳なさそうに曇った。
「あ、すみません。実は私、すでに先約があって……。今はその人と二人で回ってまして……」
「へ?」
え、マジ?
まさかのマジで彼ピッピと?
「だ、だ、だだ、誰かお友達と回ってるの、かな、ななな?」
「いえ、友達ではなく……」
「も、もっと大切な人、だったり?」
「……はい。まあ……」
少し恥ずかしそうにコクっと頷くアイリ。
「…………。の、脳、が……」
「あわわっ、パパ、しっかり~!」
「だ、大丈夫ですか? ノゾムさんっ?」
ふ。効いたぜ。まあ、アイリは別に俺の彼女でも何でもない子だから、寝取られたわけじゃねえが、こいつは効くぜえ。
「そのお連れはどこに居るのかな?」
一発ぶん殴ってやらなきゃな。
俺の顔が狂気に満ちていたのか、アイリが少し引き気味に言う。
「え、えっと、今そこのお店でお手洗いを借りていて……あ、来ました」
ホロっと幸せそうに頬を緩めるアイリ。
この子のこんな顔を一人占めとはな。聖女独占罪で万死に値する。
さあ、どこのクソ野郎だ。すぐにしばいてやる。
と、意気込んだのだが──
「ん?」
こちらに近寄ってくる人物。
それは男ではなく──。
「あ、あれ? アイリ?」
「あら?」
女性だった。それも、アイリに良く似た。アイリをあと20歳くらい熟れさせたら、こんな美人になりそうな……。
「アイリ? この人達は?」
「前に話した二人。ノゾムさんとハトエルちゃん」
アイリが嬉しそうにその女性の腕に抱きついて、俺らにニコッと笑いかけた。
「紹介します。私のお母さんです」
そう、その女性はアイリのやんごとなきお母様であった。
お疲れ様です。次話に続きます。




