98話──アイリの母さん
「改めてまして。私はローザ。アイリの母です。貴方がノゾムさんですね。娘がいつもお世話になっています」
「い、いや~。とんでもない。世話になってんのは俺だよ。お母さん」
道端のベンチに四人で並んで座り、やんわりとした挨拶を交わす。まさかのアイリママとのエンカウントイベントが発生するとは思ってもみなかった。
ローザことアイリママは本当に娘に良く似ていた。正しくはアイリが母親に似てるって事なんだが。
見事な赤髪、人の善さそうな穏やかな顔、ほんわかとしてお人好しそうな雰囲気。
アイリをおっきくした感じなんだが、背は娘より高いし、大人の成熟した肉付きもある。やはり子持ちの人妻の独特な色香とでも言うべき物も持ち合わせている。しかし、それよりも純粋に母性というか落ち着いた大人の雰囲気が勝っている。
女としての色気よりも、母親としての美しさの方が勝る。そんな綺麗なお母さんだ。
「俺は望。で、こっちが……」
「ハトエルちゃんですよね? 娘さんの」
「はいっ! 初めましてっ! 天使っ……のように可愛いと評判のハトエルです! パラパッパッパ~!」
「ふふふ。アイリの言う通り、本当に天使様のように可愛い子ね」
「でしょ~?」
親子で揃ってそっくりな微笑みを交わすアイリとローザ。
「それに、ノゾムさんも話に聞いてた通り。何だか楽しそうな方」
「いや~、そっかな? は、はははっ!」
NTR予測からのママカミングによって俺の脳内シナプスは曲芸ダンスのクロスロードだ。
要約すると、絶望したり安心したり、驚いたりで情緒が定まらん。
「それにしても、ママは娘にそっくりだな?」
「えへへ。そうですか?」
普段とは違う、子供っぽい笑顔で母親に甘えるように寄り添うアイリ。
「綺麗で、優しくて、自慢のお母さんなんです」
「まあ。ありがとう、アイリ」
ローザも幸せそうに目を細めて笑った。かなりデレデレに仲の良い母と娘のようだ。
「そっか、そっか。そういや、前に言ってたな。病気から回復したお母さんと一緒に祭りを回るって」
「はい。本当は最終日の五日目にそうしようと思ってたんですが、短縮されて今日が最後ですから」
そうだった。そもそも俺がアイリと祭りを下見したり回ったりしたのはお母さんとの本番デートのためだったんだ。今日、その本番が行われていたんだ。
「話は娘さんから聞いてるよ。あんた、身体の具合が良くなったんだってな」
「ええ、本当にお陰さまで。アイリにはたくさん苦労をかけてしまって……」
「ううん。私はお母さんが元気になって嬉しい。苦労だなんて思った事ないよ」
ローザの肩をさするアイリ。
「こうやってお祭りに来れて本当に良かった」
「ありがとう、アイリ」
俺は別にこの親子に何かしてやった訳でもないし、むしろ迷惑をかけた側なんだが、人並みに良かったと思った。
「ノゾムさんも。娘の冒険者活動を手伝ってくれたとよく聞いていました。本当にお世話様です」
「いや、それは逆さ。俺らの方が世話になりっぱなしでな。そうだ、お礼にお母様には俺から全身マッサージ二時間コースをプレゼント……」
「ノゾムさんっ!」
「と、思ったが、アイリちゃんの許可が降りなかったんで止めとこう」
珍しく怒ったようにこっちへ目力のある視線を突き刺してくるアイリ。
ローザがおかしそうにクスクス笑う。
「本当に、アイリから聞いていたとおりね。ノゾムさんは冗談が好きでいつも笑わせてくれるって」
「いや、冗談じゃないぜアイリママ。あんたさえ良ければ念入りマッサージ三時間コースだって……いや、冗談だ。アイリちゃん、杖をしまってくれ」
「クスクス」
「ごめんなさいローザさん、アイリさん。パパは本当に見境無しですから」
何時もとは違うアイリの素顔と、そんな愛娘の努力の原動力になったローザに会えた時間だった。
「それじゃ、俺らはそろそろ行くとしますかね」
ハトエルの頭をポンっと叩いて立ち上がる。
「行くぞハトエル」
「あら。行ってしまわれるんですか?」
ローザが柔らかく見上げていた。
「良ければご一緒しませんか?」
「ありがたいお誘いだが、親子水入らずの所を邪魔するのは忍びないんでな。今日は遠慮しとく」
「そうですか」
「けど、またの機会にゆっくり話させてもらいてえな。アイリの好みのタイプの話とか、結婚相手に求めるものとか、どんな婿が良いかとか」
「ノ、ノゾムさんっ! 何言ってるんですか」
「お義母さん、娘さんの相手を決める時はぜひ私に清き一票を!」
「もうっ、ノゾムさん!」
恥ずかしそうに怒るアイリと、おかしそうに笑ってくれるローザ。
「お母さんの前で変な事言わないでください!」
「ぬ? なら仕方ない。その件は諦めよう。が、代わりに。娘さん、どうかお母さんを僕にください!」
「そっちは本当に駄目ですっ!」
アイリのポコポコ連打を食らう事になった。
「あのアイリさんをまたもや怒らせるとは……。パパ、恐るべし!」
「じゃ、またな~。またクエスト手伝ってくれよなー」
「はーい。また~」
アイリ親子と別れ、俺とハトエルはまた二人で祭りに戻る事となった。
「ふふっ。アイリさん、幸せそうでしたね」
「そうねー」
「どうですか、望さん! 自分で守ってきた人達が幸せそうに過ごしてるのを見ると嬉しいでしょう?」
「いや、別に」
「ええっ?! そこはそんな即答なんですか?!」
だってな。別に俺が何かしたからあいつらが幸せになってる訳じゃないからな。あの二人は、あの二人だから幸せなんだ。
「俺が居ようが居まいがあの親子は幸せに暮せるぜ。関係なんて無い。俺が願いを叶えてやった訳じゃないんだから、それで得意気になったってしょうがねえだろ」
「すごく偉い考え方です! でも望さんが平和を守ったからこその幸せですよ? もっと胸を張って良いんですよっ」
「別に……いや、待てよ…………。そうだっ、俺があんなふざけた格好でしかも最低賃金以下で戦ってるから幸福が保たれてるんじゃねえか! くそーっ、やっぱいかがわしいご褒美貰わなきゃ損だぜ!」
「私の感心を返してください!」
ちっ、まあいい。元気になったってんなら娘ともどもまた会う機会もあるだろう。そん時は親子丼をご馳走になろうかぁ。
ぐへへ、アイリちゃんやったな。兄弟が増えるかも。
「望さんのそのだらしな~い顔を見れば何を考えてるか何となく分かりますね」
「やかましい。それより、せっかくの美人親子を逃したんだ。代用品として俺を癒せ」
「やっぱり意地悪っ!」
文句言うハトエルをからかいながら、二人でわたあめを買ったりしてゆっくり過ごす事にした。
「う~、わたあめもこれが食べ納めですか」
「そうだな。来年の祭までは我慢だな」
「それは流石に長いですっ! 明日まで我慢します!」
「それは流石に短いぞ堕天使!」
「私は堕天なんかしてません!」
ハトエルのお小遣いは底をついたし、俺もお小遣いが侘しい。今日の屋台でしばらくは贅沢も食い納めだ。
「望さんっ」
「ん?」
ピトっと手を繋いでくるハトエル。
「えへへ。お祭り、楽しかったですね」
「……まあな。だが、祭自体は邪魔されちまったから、手放しで盛り上がれた訳でもねえけどな」
「なら、来年の1000年祭はもっと楽しみましょうよ! 悲しい争いなんて終わらせて、またわたあめを一緒に食べ歩きましょう! そのために、これからも頑張りましょうね」
「ま、ほどほどにやっておくわ」
まあ、悪くはないよな。
ちょいと癪に触るが、こんな可愛い天使と来年の祭りの約束なんてよ。
これからどんな戦いが待ってるかなんてわかんねえけど……。
魔法少女。少しは頑張ってみるか。
ポケットの中で、クリスタルが少し温かくなったような気がした。
お疲れ様です。次話に続きます。




