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96話──二夜明けて

 





「ふぁ~……」


 朝だ。




 ──ガチャッ──


「あっ、望さん! おはようございます!」


 居間に入ると、違法幼妻感満載のエプロンフォームハトエルがオタマを持って出迎えた。


「今日は体の具合はどうですか?」

「おう、まあ悪くはないな。昨日よりは断然良い」

「よかった~。あ、ご飯出来てますよ」

「おう」


 テーブルに着くと、コトコトっといくつもの皿が並べられた。


「麦のリゾットに、豆のサラダと目玉焼き。くるみ入りパンとハム。おいおい、朝から豪華じゃねえか」

「はいっ。快気祝いです! たーんと召し上がれ」

「いただきまーす」


 少し味が薄めだが、リゾットが美味い。ハトエルの異世界クッキングスキルも相当レベルアップしてきたようだ。


「何点ですか?」

「うーん。悪くないな。75点」

「むむ。80の壁は高いですね」







 一昨日は大変だった。


 祭りに突然と現れた化物、イクリプス。

 何時もとは違う強力な相手に死闘を繰り広げ何とか撃破出来たが、流石に疲れた。


 戦闘が終わって変身解除したまでは良かったのだが、途端にクラッときてしまい、家に戻ると同時に倒れ込むようにベッドへとダイブした。


 しかし、一日寝ても疲労感は抜けきらず、結局次の日──つまり昨日だ──俺は一日中寝て休んだ。


 今朝はだいぶ疲れも抜けて、食欲もモリモリになったから良かった。ハトエルが言うには『急激な魔力消費による疲労』だとの事だ。


 だが、今はすっかり回復した。これならまた今日から動ける。



「ごちそーさん」

「はーい」


 健全な満腹感を抱え、そのまま床にだらけて寝る。板のひんやり具合が心地よい。


「もう、お行儀悪いですよ?」

「ここが俺のフェバポジだからいいんだ」


 それに、床からの角度。これなら流しに立つハトエルの素晴らしい景色が堪能出来るはず。


「あっ! もう! ほんとに望さんはエッチなんだから!」


 ズイっと椅子を邪魔な位置に配置するハトエル。ちくしょう、見えねえ。


「おい、減るもんじゃないんだからケチケチすんなよ」

「そういう問題じゃないです!」

「ちっ、分かったよ。なら代わりにその椅子に座ってくれ。こっち向いてな」


 代わりに顔の上に雑巾を落とされた。






 ややして。

 町の様子を見に、ハトエルと共に家を出た。寝てる間気になっていたのだ。



 ボーボーに茂った庭を越え、近所の道を歩くが、特に変わった感じはしない。


「ここら辺は被害が無かったみたいだな」

「はい。望さんの迅速な対応のお陰で、あれほどのモンスターが暴れたにも関わらず被害は小さかったそうです」


 ハトエルは昨日の内にアルメと密談に行っており、色々と情報を聞いてきたと言う。


「それにしても、今回のイクリプスは手強い相手でしたね。今までの相手とは違いました。むむ、また次もあんな強力なのが襲ってくるのでしょうか」

「……なあ、少し思ったんだけどよ。あれって本当にイクリプスだったのか?」

「え?」


 パタっと立ち止まるハトエル。


「イクリプスだったじゃないですか。確かに、少し変な感じはしましたが……」

「それなら、なんで四天王が居なかったんだ? 何時もなら召喚者の誰かしらが居るはずなのに一昨日の時は誰も居なかった」

「た、たしかに。あれ? なんで居なかったんだろう?」


 うーん、と考え込むハトエル。


「もしかして、近くで指示しなくても遠隔操作出来るイクリプスを産み出せるようになった、とか?」

「なくはないかもしれんが、やっぱりどうも妙なんだよな」


 腑に落ちない。確かに遠隔操作出来るタイプのイクリプスなら自身は安全な場所で指示さえ出せば良いだけだろう。奴ら四天王はみんな俺に負けてる訳だし、警戒して出てこない可能性は無くもない。


 だが、だとしても目的が分からない。

 わざわざ祭りの最中にイクリプスを出した目的は?奴らの最終目的は何だ?


 サフィラはアルメを亡き者にする事が目的だと言っていた。だとすれば、あのイクリプスはそのために産み出されたのだろうか。

 しかし、仮にアルメを殺すために作戦を展開するなら、警備が厳重になっている町の中心にいきなりイクリプスを投入するか?しかもイクリプスは王城を目指すのでもなく、その場で暴れるだけだった。目的もなく──いや、まるで破壊その物が目的かのように。


 例えば、イクリプスを囮として使ったならまだ話は分かる。奴が暴れて、皆の注意がそちらに行ってる間に四天王でアルメを奇襲して亡き者にする、とか。


 だが、四天王は現れなかった。


 一昨日のは本当に、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()暴れたように思うのだ。一種の勘のようなものでもあるが……。



「そう言えば、私も気になる事がありまして」

「気になる事?」

「これまではイクリプスを倒した後は、マナの水晶体が落ちてました。おそらく、あれを媒体にして特殊な魔法を展開してるのだと思いますが。でも、あの時倒されたイクリプスはそれを落とさなかったみたいなんです」

「なに?」


 ハトエルがますますウーンと唸る。


「それらしい物はどこにも落ちてなかったし、誰か不審な人物……つまり四天王らしき人物が持ち去ったという報告も無いそうです」

「……」


 そう言えば、コアを破壊した時。イクリプスの体は全部塵になって消え、後には何も残らなかった。


 じゃあ、やはりあれはイクリプスじゃなかったのか?


「分からん。何も……」

「……のーぞーむさんっ」

「ん?」


 ──モニュッ──


 ほっぺに小さな指が刺さった。ハトエルが背伸びして精一杯手を伸ばしていた。


「なにしやがる」

「らしくない顔しないで! そんな恐い顔してると老けちゃいますよっ」

「んだとこいつ!」

「わまま~!?」


 こざかしく逃げるハトエルを追いかけるが、逃げる割には楽しそうに笑っていた。


「ちっ。まあ……確かに俺が考える事じゃねえか」


 あれが何だったのかは知らんが、次来ても同じようにぶっ飛ばすしかねえってことか。


 魔法少女は辛いわ。



 通りに出ると、屋台などの露店は少し減っていたが、まだ祭は健在のようだった。


「お祭りは予定より早く終了するそうですが、それまでは露店や屋台での販売も行われるそうです」

「へえ。ずいぶんと逞しいな」

「町の人達は『我らには魔法少女がついている。希望がある』と、前向きなんですって!」

「希望ねえ……」


 一度失った人生の経験則から言わせてもらえば、んなモンは無いと思っている。希望だなんて、安くて軽い言葉だ。ま、言うだけならタダだがな。


「タダとはいかねえが、美味いモンをまた飲み食い出来るのは魅力的だな。また回るか」

「あ、それならリンさんのお店に行きましょうっ。きっと今日も大変でしょうし」

「おいっ、俺は手伝わねえからな! あの詐欺師の言いなりは二度とゴメンだ!」

「こ、興奮しないでくださいよ~」


 まあ、食うだけなら協力してやるか。



 リンの店を目指しながら大通りを歩く。この道は特に変わった事はないが、人通りは祭り初日に比べると半減していた。


「ここも被害は無さそうだな」

「主にあっちの北東部の被害が大きかったらしいです」


 それに兵士の数がさらに増えている。


「各地から兵隊を可能な限り召集しているそうですが、人手不足も深刻だとか……」

「だろうな」


 これが狙いだったのだろうか。王都へ奇襲する事によって各地の守りを薄くしようとしての奇襲か?


「仕方ねえ。どこも人手不足だってんならリンの店の手伝いくらいしてやるか」

「! えらいっ! ノゾムさんっ、成長しましたね! 花丸あげます!」


 その場で大きく手で輪っかを作る天使。相変わらずその挙動だけはかわいい。


「おら、とっとと行くぞ」

「はい!」


 もちろん、飯と手伝い賃だけはしっかり貰うつもりだがな。


「そういや、アイリ達は無事なのか気になるな」

「セイディさんとリンさんは分かりませんが、アイリさんなら無事ですよ。昨日、望さんが寝ている時に様子を見に来てくれましたから」

「そうだったのか」

「そうだっ。今日はセイディさんとリンさんが無事かどうか確認しに行きましょうか!」


面倒っちい、と少しだけ思ったが、すぐに『その方が良さそうだな』と思った。



俺とハトエルはとりあえずリンの店がある方向へと行く事にした。




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