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93話──王都の決戦(後半)

 






『ギャオオオオオッ』


 ──ズズウゥンッ──


 黒煙を上げながら民家に墜落するイクリプス。その衝撃が振動となって俺の体を突き上げるように伝わる。


「危なかった……」


 幸いにも手足の感覚は今しがた全快した。


「よっと!」


 ──ボゴッ──


 土や石を払いのけて飛び起きる。

 まだ体に痛みや疲れが残っているが、問題なく動ける。


「うっし! それにしても、今のは……?」


 目前まで迫っていたイクリプスを何者かが撃ち落としたようだが。

 周囲に目を凝らすと、少し離れた高台に無数のかがり火が揺れているのが見えた。


「おっ! 王国軍か!」


 大砲らしき影がいくつも見える。どうやらあれで砲撃したらしい。町のど真ん中で無茶をすると思うが、お陰で助かった。


『グルオオオオオオッ』


 ──ズゴオオオッ──


「うっ!?」


 そんな感心をしてる場合じゃなかった。撃墜されたイクリプスが怒り狂ったように雄叫びを上げ、瓦礫を撒き散らしながら起き上がる。


 そして、その恐ろしい首は俺ではなく、今しがたの発射地点へと向いていた。


「!? まずいっ!」


 ──ダンッ──


 一気に跳躍し、大きく腕を振りかぶる。


 イクリプスの口が再び妖しい光を帯び始める。


「させるかああっ!」


 跳躍の突進力と体重を乗せたオーバハンドスマッシュを、奴の長首に突き刺す。


 ──ドッグンッ──


『ギャオオオオッ』


 拳がめり込んだ肉は爆ぜて、骨を砕き、皮膚を突き破って向こう側の景色を映す穴を空けた。

 不自然なほどに首を曲げながら、倒れ込むイクリプス。


「よしっ! 今度こそコアをっ──」


 ──ビュウウゥッ──


「えっ?」


 不気味な風鳴りがしたと思った瞬間、目と鼻の先に壁が迫っていた。


 それは壁ではなく、倒れながらも繰り出してきたイクリプスの尾であった。


 ──ベジイッッ──


「うっぶぇっ!?」


 パアンッと顔面に波紋を打つ痛み。またもや視界がぐわんぐわんと回り、体が風の中を突っ切る感覚。


 そして、待ってましたと言わんばかりの背中を強打する衝撃。


 ──ドゴオッ──


「ぐへえっ!!」


 いってえ。

 またぶっ飛ばされて地面に叩きつけられたみたいだ。


「いっつつつ、今日は散々だな……」


「大丈夫ですか!?」


「へ?」


 今、アルメの声がしたような。


 起き上がって振り向くと、勘違いではなくアルメがこちらに走りよってくるのが見えた。


「ア、アルメ?」

「お怪我はありませんか?!」


 飛び付くように俺の腕を取ってくるアルメ。


「な、なんてこと……こんなにボロボロに……」

「え? あー……」


 確かに泥まみれ、擦り傷だらけ、血も至るところに滲んでいる。


「いや、そんな事より。なんでお前がこんな所に……」


 と、ここで気がついたが、どうやら俺の落ちた場所はさっき見えた高台の辺りだったようだ。すぐ近くで揺れるかがり火や、ざわめく兵士らの姿が見える。


「立てますか?」

「あ、ああ。大丈夫だ」


 立ち上がってみるが、痛みはあまり残ってない。何時もよりは若干疲れてはいるものの、問題ない。


 しかし、どうやら他人からはかなり痛々しい姿に見えるらしく、アルメは取り乱したようにオロオロとして俺の傷を押さえたりしていた。


「ああ、こんなにかわいい魔法少女にこんな仕打ちをするなんて。あのモンスターは許せません。あと千発は砲弾をぶちこまなければ」


 なんかキャラ変わったような気がするが、ツッコまないでおく。


「いやっ、そんな事よりイクリプスはっ?!」


『グオオオオオオオンッ』


 周囲の家を瓦礫に変えながら起き上がるイクリプス。怨念の籠ったような咆哮を轟かせながら、こちらへと向かってきていた。


「っ! 砲撃準備!」


 我に返ったかのように号令をかけるアルメ。勇ましく、凛々しい王女の声を受けて兵士達が統率のとれた動きで砲身へ弾を運ぶ。


 しかし。


『グルルルルルッ』


「!!」


 イクリプスの低い唸り声。そして、辺りで乱れる魔力の流れ。

 口を大きく開けて、砲撃隊へと向ける。


 これはあのヤバい弾を吐く前兆だ。


「アルメっ、王女! 離れて!」

「あっ!」


 ──タンッ──


 光が一層強くなる。ギリギリの所でイクリプスの真正面へと出た。


 ──バシュッ──


 俺の体を優に上回る光弾が放たれ、向かってくる。


「くっ!」


 がっつりと防御の姿勢をとってその一弾を受ける。


 ──ズダアンッ──


「ううぅっ!」


 腕がギリギリと音を立てるような感覚。重い衝撃に吹き飛ばされる。


「くっ!」


 だが、今回はちゃんと受け止める姿勢だったから、ダメージは軽いし体勢をすぐに立て直せた。


 ──ズザアッ──


 何とか着地し、踏ん張って堪える。


「うっ、くっ!」

「ホープ!」


 アルメが走りよってくるのが見え、思わず叫ぶ。


「来るっ……来ないで! ここは危ないっ!」

「っ!」


 しかし、イクリプスの目はアルメの方を向いた。


 俺ではなく、彼女に狙いを定めたようだ。


『グオオオオオッ』

「!?」


 巨大な足が上がり、それがアルメの上へと落ちていく。


「くっ! させるかあっ!!」


 地を蹴って、一気にアルメの元へ。

 滑り込むように彼女の脇に立ち、両手を上げる。


 ──ズゴオッンッ──


「ぐうぅっ?!」


 車よりもでかい巨竜の足を何とか受け止められた。

 が、手に、腕に、肩に、腰に、足に。上から下までとんでもない負荷がかかった。


「ぐ、ぐぎぎぎっ、ぎっ……お、おもっ……」

「ホ、ホープ!? 大丈夫ですか!?」

「そ、そっち、は?」


 何とかアルメの方に首を回すと、しりもちを付いたままのアルメが驚きの顔を上げて頷いた。


「私は大丈夫ですっ、しかし貴女が!」

「い、いいから、逃げて……!」

「で、でもっ!」

「~! 早く逃げろって!」

「!!」


 腕がプルプルしてきた。長くは持たない。


「ホープ~! 王女様~!」


 そこへ正に天使の声が響いた。どこからともなく飛来したハトエルがバサッと隣に降り立った。


「ホープっ! 大丈夫ですか!?」

「ハト、エル! アルメ、を!」

「えっ?」

「急げっ、もたないっ!」

「っ!」


 察したのか、ハトエルはすぐにアルメの手を引いて、イクリプスの足下から脱出した。


「く、ぐおおっ!」

『グオオオオオッ』


 頭上にガンガン響く咆哮。今にも折れそうな腕。



 まったく。


 なんだってんだよ。


「に、にぎぎっ、ぎっぎっ、ぎぎぎぎいぃっ……!」

『グゴオオッ』


 俺はよ。ただ夢ある異世界生活がしたかっただけなんだよ。


「ふんぎぎぎぎぎぎっ……!」

『ゴアアアアッ』


 ──ゴゴゴゴゴゴ……──


 なのに、こんなぶりっ子変態コスプレはさせられるわ、不死身の化け物と戦わされるは、四天王とかいう中二軍団に殴られるわ蹴られるわ、吹っ飛ばされるわ、喰われるわ、踏み潰されるわ。


 マジでよ。


 なんで俺がこんな目に。


 ──ゴ、ゴ、ゴゴゴ、ゴゴゴゴゴゴ──


「い、い、か、げんにっ……しろおおおーー!!」


 ──ズオオオオオッ──


『ゴアアアアアアアッ』


 溜まりに溜まった鬱憤と共に、一気に力を解き放つ。


 上に覆い被さっていたクソでけえ足を突き上げ、放り出す。


 片足をすくわれた格好のイクリプスがバランスを崩してその場でひっくり返った。


「あったま来た! こうなったら……!」


 地面に投げ出された尻尾を掴む。


 ──ガシッ──


「ふんぬぅぅっ!」


 ──ズズズズズ、ズズズズズッ──


 渾身の力で握りしめる。指が表皮を突き破って肉に食い込み、爪の間に気持ち悪い感触が侵入してくる。


 だが、そんな事かまってられない。


「ぬ、ぎっぎ、ぎいいいいいっ!」


 ──ズズズズズッ──


 全身を使うように尻尾を掴んだまま、踏ん張って引っ張る。

 それを、自分の体を軸として引きずり回し、遠心力を少しずつ乗せていく。


『グロロロロロロッ』

「おっりゃああああーー!!」


 ──ブウンッ、ブウンッ、ブンッ、ブンッ──


 足にとんでもない負荷がかかり、代わりに重さが消えていく。イクリプスの巨体が完全に浮き上がり、グルグルと振り回される。

 ジャイアントスイングの進化、ドラゴンスイング。


「らああああーっ!」

『グオオオオオオンッ』


 地面や建物にぶつかりながら振り回されるイクリプスの体がみるみる内にズタボロになっていく。


 奴の漆黒の翼が破れる。


「おっりゃあっ!」


 最後に角度を変え、空に向かってイクリプスを振り上げ、そのまま手を放す。


『ゴオオオオオオッ』


 巨大な暗黒の竜が空へと打ち上げられる。


 その胸元に、キラリと緋色の光が煌めいた。

 地平線に半分浸った夕陽の色を受けて輝いたコア。


「はあっ!」


 そのコアの光目掛けて、大地を蹴る。





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