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92話──王都の決戦(前半)

 





 ──バギャッ──



『グルオオオンッ』


 俺の怒りと魂のこもった一撃。イクリプスがもんどり返って、苦しげな声を上げる。


 しかし


『グルルルルルルッ……』


 地響きを立てながらすぐに起き上がってくる。


「はあっ、はあっ、はあっ、タフな奴だ!」


 今までのイクリプスならとっくにダウンしてコアへの攻撃に移れるはずなんだが、こいつは回復が早いようだ。


 これじゃあいつまで経ってもコアへ攻撃出来ない。


 かと言って、この大きさ。奴が立てば、コアの高さは優に10階建てのマンションくらいの位置に行ってしまう。


 一回の跳躍でコアに与えられる打撃は限られている。あの高さではせいぜい三、四撃しか叩き込めないだろう。


 なんとかダウンさせてそのままコアに取りつきたいんだが……。


『ゴオオオオオッッガアアアッ』

「なっ!?」


 なんて考える間も与えてはくれず、イクリプスが光弾をばら蒔いてきた。


 ──ズドドドドッ──


「うわあああっ!?」


 ひょう、(あられ)のごとく降り注ぐ弾幕。身体中にドッジボールの玉を投げつけられてるような衝撃の波。


「いたっ、あいたっ! いてててっ!?」


 周りの家は爆散し、地面は抉れて土砂が雨のように降ってくる。


『グオオオオオッ』


 ──カッ、ドゴオオンッ──


「うっへえええ!?」


 一際大きな光弾が腹に直撃した。息も止まるような衝撃の後、胸や首にバチッとした電流のような痛みも走る。


 身体が捻られるようにキリキリと舞い、勢いよく風を切るのを全身で感じた次の瞬間には、民家に頭から突っ込んでいた。


 ──ズガアアンッ──


「ぐべっ!?」


 ──ドガラガラガラッ──


 崩れ落ちてくるレンガや木材にボコボコと叩かれながら埋もれる。


「あいてて……」


 流石に今のは効いた。まだ腹部がジンジンと痛む。


「ちくしょう、あのクソドラゴン、め……」


 ──ズシンッ、ズシン、ズシン──


『グオオオオオッ』

「えっ、ちょっ!?」


 なんてこった、かなり念入りなイクリプスのようだ。倒壊した建物の下敷きになった俺にわざわざ止めを刺しにきやがった。


 ばかでかい足がすぐ目の前まで来ると、今度はヌっと影が頭上に落ちた。


「いいっ!?」

『ガアアアアッ』


 ──ボタボタボタ──


 そして、ベットベトのよだれシャワーが頭に落ちてきて、大きく開かれた口が瓦礫ごと俺をバックリと覆った。


「のおおーっ!? またこれかあ!?」


 大量の瓦礫ごと掬われるように咥えられる俺。下半身は完全に奴の口の中。牙が腹に突き刺さってくる。


「あいててて! いててっ!?」


 だが、今回の奴はレベルが一段上だ。食い込む牙の力が違う。

 肌を今にも突き破りそうな凄い力だ。


「いてててっ!? シャレになんねえぞ!」


 たまらず、牙へ手刀を叩き込む。


 ──バキッ──


『グオオオッ』

「ぎいいっ!?」


 鼓膜にゼロ距離で直撃する咆哮に、頭の奥ががキーンッと鳴った。


「こっ、の!」


 ──バキッ、ベキッ、ガキイッ──


 肉に食い込んでいた牙を全部叩き折る。

 イクリプスは苦し気なうめき声を漏らしたが、それでも口を開けようとはしなかった。


「わっ、おわっ!? の、飲み込まれ?!」


 ブニョブニョした肉のヒダが足に絡みつき、引っ張られる。体が少しずつ奥へと引きずり込まれている。


「や、ヤバい!」


 なんとか脱出を──


「ホープーっ!」


「!?」


 ドラゴンの口内をつねったりしていると、頭上からハトエルの声がすっ飛んできた。


 顔のすぐ横でバサッと音を立てる白い翼と、ズッと現れるひょっとこお面。


「大丈夫ですか!?」

「見りゃわかんだろ、絶賛捕食され中だ!」

「い、今助けます!」


 ハトエルがイクリプスの顎を掴む。


「んーっ! ふんぬーーっ! ぬぎぎぎぃ~!」


 めちゃくちゃ頑張ってくれてるが、まあ効果は無さそうだ。

 イクリプスの目玉がギョロリとハトエルを睨みつける。


 このままじゃハトエルも食われかねん。


「もういい、離れてろハトエル!」

「で、でもっ!」

「心配すんな。この姿何だかんだ言ってクソつええし、なんとかなるだろ」

「……ホープ」

「ハトエル……」

「言葉遣いが汚いです!」

「そこかよ!!」


 今の感動シーンになってたはずなのに、ぶち壊しやがって。


『グルルルッ』

「わひゃっ!?」

「ほら、お前も喰われるぞ! 早く離れろ!」

「っ、ホープ! きっと、大丈夫だと信じてますから!」


 ピューッと離れるハトエル。イクリプスの目玉が追っていたが、見逃したようだ。


「とは言ったものの、ちくしょう、コイツなかなか離さねえな!」

『グルルルルルルッ』

「こっの、しつこい野郎はっ……モテねえぞ!」


 ──グニョッ──


 手先に手繰り寄せた柔らかい感覚。多分、舌だ。


「ふんぬうっ!」


 ──ギュイイイイッ──


『ギャオオオオオオオオッ』


 舌を掴んで力任せに引っ張ると、またもや耳をつんざく咆哮を上げるイクリプス。


 しかし、それが効いたのか、噛む力が弱まった。


「っ! らあっ!」


 少しだけ動くようになった足で、上顎の内側に膝蹴りを食らわす。


 ──ズドオオッ──


『ゴガオオオオオオッ』


 下半身にベチャベチャとした汁が染みる。


「げえっ、気持ちわりいっ! 人の事吹っ飛ばしたり、喰ったり、汚ねえ汁ぶっかけたり!」


 ──ズドオッ、ズドオッ、ドゴオッ、メギイッ──


『ゴガガガオオオオオオオオオッ』


「俺はリョナ系ヒロインじゃねえっつうの!!」


 半開きになった口から脱出ざま、思いっきり鼻先を蹴飛ばすと、そのまま頭をガクンっと仰け反らせながら後ろへと倒れていった。

 地響きと砂ぼこりを上げ、民家を押し潰しながら、仰向けになる巨竜。


 そう、まさにその瞬間、チャンスが訪れた。


「っ! 今だ!」


 俺は空中に放り出された格好だが、運の良い事に落下する方向にコアがちょうどある。


 このチャンスを逃す手はない。


「おっりゃああああーー!!」


 ──シュルルルルルルルッ──


 フィギアスケートのスピンみたく高速で回転し、風を巻き込みながら足先に全ての力を集中させる。狙うはコア一点のみ。


 体重と落下速度、そして身体のしなりを加算した必殺技。きりもみスピンキック。


「はあっ!!」


 ──バッギイィッ──


『ギャオオオオオオオオッッ』


 その一撃は見事にクリティカルヒットした。


 まるでダメージが伝わったのを告げるかのように、漆黒のコアが薄く光を帯びて点滅する。


「っ! おりゃりゃりゃりゃっ!」


 ──ズドドドドドドドドッ──


 そのままコアの上で地団駄を踏むように連続蹴りを浴びせまくる。

 コアの大きさも今までのイクリプスを上回るが、この連撃なら長くは耐えられまい。


「しゃっ! らおっ! おりゃあっ!」


 ──ズドッ、ドゴオッ、バキイッ──


『ギャオオオオオオオオッ』


 必殺三連蹴り!からの~!


「はっ!」


 ──タンッ、クルッ──


「でやああー!」


 ──ドゴオオッ──


 大車輪踵落とし!


『ゴオオオオオオオオオオオッ』


 ──ピシッ──


「っ! よしっ!」


 コアに亀裂が入った。

 あと少しで──


『グオオオオオオオオオオンッ』

「っ!?」


 止めの一撃を繰り出そうとしたその瞬間。

 イクリプスが頭をもたげて、その口を大きく開けた。その奥でキラリと瞬く光。みるみる内に妖しい光が膨らんでいく。


 肌にピリピリと伝わる不穏な気配。この世界に来てから感じるようになった独特の感覚。

 そう、魔力とかいうのが高まる気配だ。


「っ、これヤバッ──」

『ガアアアッ』


 ──バシュンッ──


 嫌な予感に退避しようとした瞬間。これまでのとは比にならないサイズの魔力の弾が飛んできた。


「!」


 視界全てを埋める光。


 駄目だっ、避けきれ──


 ──ズダアアンンッ──


「うわあああああっ!!?」


 身体を駆け巡るバチッとした衝撃。一瞬、頭の中が白くチカッと感光した。


 ぐるぐると回る世界。

 空が、夕焼けが、夜が、町が、地面が。体が何もない虚空を掻いている。


 何がどうなってる。俺は今どうなってる?


 ──ドオオッ──


「ぐっは!?」


 背中にドンッときた重い衝撃。肺の中の空気が唾と共に全て口から吐き出される。


「うっ、いつつつつつ……」


 今のは効いた。この世界へ来て一番堪えた。


 軽く麻痺しかけた思考が回復し、今の状況が分かってくる。


 どうやら俺はめちゃくちゃ吹き飛ばされたらしい。土が捲れ上がるほど強く地面に叩きつけられたようだ。体が半分くらい埋もれている。


「いてて、う、マ、マジで効いた……」


 いてえ。まだ手足が痺れてる。さっきのビックバンキャノンの直撃はヤバかった。全身がヒリヒリするし、よく見ると手や腕から少しだけ出血がある。


「野郎……」


 俺も無敵ではないって事か。


『グオオオオオッ』

「!!」


 起き上がろうとした俺の視界に、巨大な翼を広げてこっちに飛んでくるイクリプスの姿が映った。


『グオオオオオオオッ』

「っ、く、あ、足がっ……」


 痺れて思うように立てない。

 迫りくる巨体。あの大きさだ。このまま突っ込まれればますますヤバくなる。

 まずい。


 と、焦りに思考が絡まりかけた時だ。


 ──ドゴオンッ、ドゴオンッ──


『ギャオオオオンッ』


 イクリプスの横っ腹にいくつもの爆炎が上がった。



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