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91話──魔法少女☆

 





『グオオオオオオォォッ』


 地響きが伝わる。


 ──ゴオオオオオッ──


 ドラゴンの口から目が痛くなるほどの真っ赤な炎が吐き出された。

 他の全ての光を搔き消すような毒々しい火。それが町を一気に飲み込む。


「野郎っ……!」


 よく見ると、小さな爆閃がイクリプスの体を纏うように瞬いている。既に迎撃が始まったのだろう。


 急がなくては。


「っ、あそこが良さそうだ」


 近くに物置小屋らしき小さなあばら屋を発見。

 周りの人間達もどこかへ避難したのだろう。誰も居ない。


 よし。


 ──ガタタッ──


 壊れかけた扉を開けて中へと入る。廃墟らしい。誰も居ない。


「ふぅー……」


 ポケットに手を突っ込む。指先にはお馴染みのクリスタルが触れた。


 それを取り出して胸元に掲げる。


「……シャイニーリンクル!」


 ──ヒュイイィーンッ──




 ──バキッ、ボキッ、ベキキッ、ボギッ──



 ──ドサッ──



「ウオエエエッ、ウエッ……」


 ち、ちくしょう。今日は祭りでかなり食ったからな。反動が大きいぜ。


 焼きそばを食っただけあって、床には見事なもんじゃ焼きのタネが出来上がっていた。


「オエ、ウップ……っはあ、はあ、よし」


 今日は一段と変身による副作用が効いたぜ。



 まだ込み上げる吐き気を何とか堪え、外へと出る。もう日没間際だからだろう。一気に空が夜へと変わりかけていた。


「はあ、はぁ、あの化物は……あっちだな」


 蠢く巨大な影。それが町を蹂躙している。

 今までの相手よりは手応えがありそうだ。


「うっし。やるか」


 足に力を溜めて一気に解き放つ。地面が凹む感覚の後、体が笑えるくらいグンッと空へと弾き出された。


 冷え始めた夕闇の風が頬を掠める。スカートの中へとスーッスーッと風が通るのがちょっと気持ちいい。

 しかし、すぐに町の中心で燃え盛る凶悪な炎が見え、焦げ臭い臭いも届き、爽やかな時間は終わりを告げた。


『グオオオオオオォォォォッ』


 不吉な気配を撒き散らしながら暴れ狂うイクリプスドラゴン。夕日に燃える町は、今本物の業火によって焼かれてる。


「……」


 何もこんな時に攻撃しなくたってよ。


 ふと目の前に礼拝堂らしき建物が見えた。

 その屋根の上に降り立つ。イクリプスはすぐ目の前だ。


「よしっ。さっさとぶっ倒して祭りを再開せにゃな──」


『ワアアアァァァ、ワアアアァァァ』


「……」


 眼科に見える光景。

 そこには暴れ狂うイクリプスと戦う兵士達。そして、逃げ惑う民衆。

 めちゃくちゃ大勢の人間が居た。


「……」


 いや、ここへ飛び込みたくねえー。


 ただでさえ、着るだけでも恥ずかしい格好なのに、こんな大観衆の前に姿なんか晒したくねえー。


「帰るか……」

「駄目ですっ!」

「うわあっ!?」


 突然耳元で発せられた声に思わず甲高い悲鳴を上げてしまった。


 振り返ると、そこにはひょっとこ仮面が。


「って、ハトエルか! なんだよ驚かせんなよ!」

「すみません。いえ、そんな事より! ノゾムさんっ、あのイクリプスは何か変です」

「あ? 変?」


 イクリプスを見てみる。ドラゴンのような形で巨大ではあるが、これまでのイクリプスと同じような感じだ。


「いつもの化物だろ?」

「いえ、それが妙な気配を感じるんです。何か、これまでのイクリプスとは違う何かを……」

「何かって何だよ」

「それは分かりません。が、ともかく何時ものようにやっつけるしかありません!」

「いやぁ、けどよ~」


 めっちゃ沢山人が居る。この中にこの格好で飛び込むのはなぁ。


「恥ずかしいから嫌なんだが……」

「もうっ、今さらじゃないですか! 頑張って!」

「分かってるけどよぉ……」

「あ、ちなみに先ほど王女様にもお会いしました。その伝言です」

「あ?」

「戦う前にはぜひキメ台詞をとの事です」

「あいつ馬鹿なのかな?」

「ちなみに、キメ台詞言ってくれなきゃ出資する気が無くなるかもしれないとも」

「あいつ馬鹿だよな!?」


 嘘だろ?この状況でそんなアホなオーダーがあるのか?


「なあ、俺は今までの疑惑が確信に変わったんだが、あの王女って馬鹿なんだな」

「それより! 早くイクリプスを倒さないと!」

「マジかよ……なあ、本当にキメ台詞やんなきゃなんねえのか?」

「多分、どこかで見てますよ」


 どうして。どうして俺がこんな目に。



「はぁぁぁぁ~~~…………ハトエル、下がってろ」

「はいっ! 頑張ってホープ!」


 まあ、たしかに。今さらだよな。恥ずかしがるのも。


 こうなりゃヤケだ。



 ──カッ──


 屋根に力足を踏む。前方では恐ろしい唸りを上げるイクリプス。


 ああ、ここでクールに登場して渋いセリフを吐けばマジカッケエのによ。



「……すぅ~っ、止めなさいっ!!」


 自分でも恥ずかしくなるかわいらしい声。それを発してイクリプスへと浴びせる。


 その瞬間、イクリプスの光の無い目がこちらに向いた。

 と同時に、数えきれない者の視線がこっちへと一斉に向けられた。



「あっ、あれは!?」

「もしかして!?」

「本当に現れた?!」


 俺の姿を見るなり、観衆からどっと歓声が沸き上がった。


 ワアーワアーっと口々に何か叫ぶ民衆。

 噂が広まっていたのだろう。一目で俺が魔法少女だと分かったようだ。

 喜ぶ者、驚愕する者。困惑する者。

 しかし、みんな俺を注目して熱狂してるようだった。特に男どもからの熱烈な視線が全身に突き刺さるぜ。


「……ふ、ふふふふふ……」


 あ、泣きそう。

 もちろん感極まってとかじゃない。

 恥ずかしくてだ。


 途端に風に揺れるスカートが気になるし、ちょっと無防備な肩とか気になるし、何が悲しくて30過ぎのオッサンが乙女みたいな恥じらいを感じなきゃなんねえんだよ。


 あー。やんなきゃいけねえんだよな。キメ台詞。


 逆にこの恥ずかしさで吹っ切れた。


「心無き闇の化身よ! 光に還りなさい!」


 無心で出た訳わからんセリフと共に飛び立つ。

 会場のボルテージは一気に高まり、凄まじい歓声が上がった。


『グオオオオオオオッ』


 迎え撃つイクリプスへ正面から突っ込む。


 巨体が唸りを上げて、腕を振り下ろしてくる。ドラゴンの腕にしちゃあ立派で武骨な腕の先にはギロチンみてえな爪が生え揃っていた。


「はっ!」


 それを上手く手で弾いて流す。大きいが故に緩慢な攻撃は、器用に力を相殺出来た。


 空ぶった攻撃により、巨竜に隙が生じた。


「てやあっ!」


 その腕を蹴り上げると、相手の体勢が崩れた。その一撃の反動をさらに加速させて身を捻り、追撃の回し蹴りを繰り出す。


 ──バキイッ──


『ギャオオオオオオオオッ』


 かなりの手応えと共に、胴体を打たれたイクリプスが後方へと倒れるように吹き飛ぶ。

 が──


『グオオオオオッ』


 倒れざま、口から妖しい光を帯びた弾を吐き出してきた。四天王達の放つ攻撃に似た物。


「せいっ!」


 それを手刀で弾いて防ぐ。当たった瞬間ビリリとした痛みが走ったが、攻撃はそのまま弾かれて誰も居ないエリアに飛んでいった。


「ふっ!」


 一旦地上に降りてグッと力を溜める。

 大地を蹴って飛翔し、再び暗黒のドラゴンへと肉薄する。


「はあっ!」

『ギャオオオオオオッ』


 迫りくる爪に牙、巨体その物。イクリプスの巨大な体はそのまま全身が凶悪な武器と化し、全てが殺気を帯びて襲いくる。


 ──バシイッ──


「くっ!」


 俺の体を優に上回る手を受け止めるだけで全身に重い力がのし掛かる。


「おりゃあっ!」


 それを気合いで弾き飛ばし、逆にこちらの拳を叩き込んでやると、手が爆発するように弾け飛ぶ。


『グオオンッッ』

「らあっ!」


 そのまま相手の腕を掴んで引っ張りながら着地する。


「しゃあっ!」


 グラリと揺れてこちらに倒れかける巨体の中心目掛けて飛び蹴りを食らわすと、咆哮を上げながら倒れた。


『グオオオッ』


 巨体をひっくり返したまま、長い首をもたげて顔を向けてくるイクリプス。その口から目も眩むような炎が吐き出された。


「うわあっ!?」


 全身が真っ赤な炎に包まれる。

 まるで熱々の温泉が鉄砲水になって襲ってきたかのような感覚。


「あちちちっ! あっち!?」


 これは熱い。

 たまらず横っ飛びに避けると、待ってましたと言わんばかりに飛んでくる尻尾。


「! でやっ!」


 目の前に迫ったその土管みたいな尻尾を殴る。


『ギャオオオンッ』


 悲鳴を上げて飛び上がるイクリプス。音もなくはためく暗黒の翼が空を覆う。


「せいやーっ!」


 こちらも地面を蹴って追撃する。


 ──ズドオオッン──


 突きだされた爪に真っ向からカウンターを入れる。辺りに旋風が生じ、凄い衝撃波が建物を震わせる。


 何度も互いの肉体をぶつけ合い、押し合う。


「でやあーっ!」


 ──ベッキィッ──


『ギャオオオンッッ』


 なん十倍もあろう化物をぶん殴って吹っ飛ばす。


 力と力。それで押す。押し退けていく。




「頑張れー!」

「負けるなー!」

「頑張ってー!」

「我らが救世主!」

「魔法少女!」


 嗚呼。ああ、ああぁ……。


 沢山の声援が聞こえる。


 多くの人が俺を応援している。


 まるでヒーローだな。感動的だな。俺ってば正義のヒロインみたいだな。


 けどな。


「せいっ!」

『グオオンッッ』

「やあっ!」

『ギャオオッ』

「はあっ!」

『グオオーッ』


「きゃーっ! 素敵~っ、魔法少女ー!」

「かわいいー!」

「つええええ!!」

「強くて可愛いとか最高かよおおお!」


 こんな姿で。こんな格好で戦って、応援されて。しかも、かわいいとか言われて。


「でやああっ!」


 なんで。


「頑張れー!」


「たああーーっ!」


 なんで、なんで。


「我らが魔法少女ー!」


「っ、えいやあああーーー!!」



 なんで俺がこんな恥ずかしい目に合わなくちゃなんねえんだよおおおおおおおお!!


「せいっやああああ!!」




お疲れ様です。次話に続きます。

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