7話──この姿で強いのは嫌だ
謎の気絶少女をお姫様抱っこしながら森を歩く。しかもフリフリスカートの姿で。
俺が知ってる転生物の冒頭シーンじゃねえぞ、こんなシュールな光景。
「おい、ちゃんと当てはあるのか? 俺らはどこから来てどこへ行くんだ?」
「安心して下さい! これでも私は天使。天使とは迷える子羊を導くのが仕事。こんな森なんてすぐに抜け出せますって」
「本当かあ?」
「はい! こう、第六感的なアレで分かるんですよ。行くべき道が」
胡散臭いが、磁石も何もないしここはハトエル頼みなのも事実だ。コンパス代わりくらいにはなるだろう。
「ところで、この子はどこに連れてくんだ?」
「えっとですね、この世界には冒険者ギルドなるモンスター討伐組合的な組織が存在するのですが、この子はそこの所属のようなので、そこへ運んであげましょう」
「なんで分かる」
「ほら、腕章があるでしょう?」
言われて見てみると、なるほど。なんか剣とドラゴンの紋章的なロゴの入った腕章を着けてる。
「ですので、この近くにあるギルドへ連れていってあげましょう」
「近くってどこにあんだ?」
「えっと、こっちです」
薄靄立ち込める木々の中を、ちっこい天使に誘われて進む。
「んで? この冒険者風の気絶少女をどこか安全な所へ届けたとして、その後俺らはどうするんだ?」
「私達は王都に向かいます。天使たる私と、魔法少女たる望さんが降臨したんです。早く王女に挨拶に行かねばなりません」
「王女?」
お姫様に会いに行くか。ますます王道RPGっぽい展開だな。格好以外は。
「で、王女様に会ってどうするんだ? 魔王ぶっ殺す代わりに結婚させろとか要求すんのか?」
「なんですかその押し入り脅迫強盗みたいな思想は!」
「勇者の王道パターンだ」
「王家とは、古くから天界の神に忠誠を誓った人間の代表みたいなものです。なので、会いにゆけば色々と私達に取り計らってくれるでしょう。今の私達は裸一貫で異世界に放り出された状態。これから生活していくための諸々を用意してくれるはずです」
「ふーん?」
よく分からんが、目的地があるだけ行動はしやすい。何が目的で、これからどうなるかなんざ全然分かんないが、これからこの異世界で生活してかなくちゃならないんだからな。
「ここから王都までは遠いのか?」
「歩いたら10日間くらいでしょうか」
「マジかよ、それまで水も食い物も金も無しでどうすんだよ。身売りでもして稼いでくれんのか?」
「天使に向かってなんて失礼な事言うんですか! そんな事しません! 私の力でなんとかします!」
プンプン怒るハトエル。
「もうっ! 望さんは魔法少女の姿なのに中身は意地悪アラサーニートのままですね!」
「おいっ、人の生前プロフィールからネタを引用しやがって! 天使ってのは個人情報の取り扱いすらまともに出来ねえのか?!」
「いーっだ! 天界には人間界みたいなちんぷんかんぷんな法律なんて無いですよーだ!」
あっかんべーしやがって。やっぱり腹パンだな。人間様の怖さを分からせてやる。
「このクソガキ鳩ポッポ天使めっ。さっきはよくも嘘ついてくれやがったな。何が魔法少女だから魔法が使える~、だ。結局頼ったのは拳だったぞ」
「そうなんですよ。変ですねえ。魔法少女なら何かしらのミラクルマジックがパパーンって感じで発動するはずなんですけど……」
「まあ、勝てたから別にいいんだけどよ」
「よくないです! 魔法少女なのにステゴロだなんて、そんなバイオレンスな戦い方は!」
「徒手空拳でバチバチに肉弾戦を得意とする魔法少女も居るんだからいいんじゃね?」
「そんな野蛮な魔法少女居ませんよ!」
「俺の世界には居たぞ! 謝れこの野郎!」
「そんな話信じられません! 大体、天使たる私に暴力振るったりするような不敬者の言葉なんて聞く耳持ちません!」
両手の自由が利いたら絶対腹パンしてやる。ついでにほっぺムニムニの刑とおみ足スリスリペロペロの刑も追加だ。
「今いかがわしい事考えましたね?!」
「なぜバレたし」
「望さんみたいな、ひねくれ者ならそう考えると思ったんです」
人を性格で判断しやがって。
「それにしても……この少女起きねえな」
俺の腕の中の少女はぐったりして、固く目を閉じたままだ。こちらがやかましく騒いでるのに目を覚ます気配がない。
ハトエルの第六感とやらに案内されて歩いていくと、ただの森の中に明らかな人工の道が現れた。木が無く、草も取り払われ、平らに踏みならされた道が続いている。
「お? ポンコツ天使かと思ったが、意外に有能っぽいぞ」
「正直も行き過ぎるとただの失礼ですね!」
その道を歩く。辺りに切り株や、焚き火の跡らしき物なども見受けられ、人の気配が感じられる。
「人の生活圏に近づいてる感じがするな」
「はい。あっちに──あっ?!」
はたっと止まるハトエル。
「なんだよ。いきなり大声上げて。もよおしたなら待っててやるから済ませてこい」
「なんで一々ノンデリなんですか?!」
「大きい方か? なら、あそこの茂みなんかなら見えなく済むぞ」
「違いますっ! そうじゃなくて、多くの魔力を感じます! 周囲をモンスターに囲まれたようです!」
「なんだって?!」
──ガサガサッ──
──ザッ──
──バサッ──
『ガルルルッ』
『ギャギイッ』
『グゴオオッ』
『シャーッ』
ハトエルの予言通り、そこらの茂みや木の陰などから野蛮な殺気を孕んだモンスターらが現れた。
クソデカ狼と、ゴブリンと、オークっぽい奴にリザードマンっぽい輩、スライムみたいなのに肉食アント的な奴。
なんかRPGで見かけなくもない類いの連中だ。
「お、おい。どうすんだよ、囲まれてるぞ」
正面に現れたとか、行く手を阻むとかではなく、四方八方全てに涌いてやがる。完全に包囲された。
「ふっ。大丈夫ですよ安心して下さいホープ。こんなモンスター達、相手じゃありません」
「おおっ、頼もしいじゃねえか」
ハトエルが一歩前に出る。
「闇の僕達よ、悪い事は言いません。すぐに居るべき所へ帰りなさい。さもなくば、容赦はしませんよ! ホープがね!」
「うおいっ! そんな自信満々に一歩前に出ておきながら他力本願かよ!?」
「さあっ、どうなんですか? どかないと、ホープのミラクルスーパーマジカルパンチが貴方達をコテンパンにしますよ!」
「あのよ、意気揚々なとこ悪いんだが、ハトエル、こっち見てくれ」
「え?」
くるんと振り向くハトエルに両手で抱えた少女を見せる。
「ご覧の通り、俺は両手塞がってるんだ。パンチなんか出来ん」
「………………し、しまったあっ?! そうだったじゃないですかあ!?」
こいつ、クソガキプラス相当なアホ天使っぽいぞ。なんでこんなのが神の使い出来るんだ?
『グルルルル……』
『ギギィ……』
『シャーッ……』
じわりと迫るモンスター達。
前に出ていたハトエルがピューッと俺の背中に回って隠れる。
「ホ、ホープ! 助けて下さい!」
「うおいっ!? 俺を盾にするんじゃねえ! 天使のクセに肉の壁使う気か?!」
「だって怖いんですよう! 代わりにホープ戦って下さいよ!」
「いやっ、俺この少女抱えてんだぞ!?」
「足があるじゃないですか!」
「足しか無えだろ! お前はその背中の手羽先合わせて賞味四本の腕あるんだからお前が戦えよ!」
「ともかくバトンタッチ!」
このクソガキポンコツ天使が!
『グルルルル……』
「き、来ました! 助けてホープっ!」
「このポンコツハトが!!」
『ギャッギイッ!』
正面に居たゴブリンが棍棒を振り上げて襲ってきた。
「くそ!」
問答無用かよ。やるしかねえ!
「おらッ!」
──ドゴオッ──
『ギッ……』
やけくそに繰り出した蹴り。
それはゴブリンの身体を折り畳み式の椅子みたいに歪めて吹き飛ばした。
「うええっ?! マジかよ、これ本当にパワーがエグくねえか?!」
自分での感覚は単にやけくそキックを繰り出したくらいのものだが、相手は全速力のタンクローリーに撥ね飛ばされたかのような有り様になって飛んでいった。
『グゴオオッ』
次いで襲ってくるオーク。
「しゃあっ!」
──ベッキイッ──
『ゴゲッ……』
『シャーッ』
「ふんっ!」
──ズドオッ──
『ジュッ……』
『ガルルルッ』
「おらあっ!」
──バキイッ──
『グッ……』
──ズダアアンッ──
その他も同じく。こちらは本当に単純な蹴りを繰り出してるくらいの感覚だが、当たった当人達は10トントラックに撥ね飛ばされたかのようになっていく。
迫ってきたモンスター達は見るも無惨に朽ち果てて、そこらの地面に叩きつけられた。
ピクリとも動かない。全員即死してる。
「我ながらエグ過ぎる……」
正当防衛とは言え、その惨たらしい光景に心が動揺した。
「ホープ! まだ来ます!」
「えぇ?! まだあ?」
辺りに散っていたモンスター達が全て俺の方に殺気だって向かっていた。
「ちっ! アホ天使っ、空にでも飛んでろ!」
「は、はいっ!」
ハトエルを逃がし、少女を抱えたままモンスターどもを迎え撃つ。
お疲れ様です。次話に続きます。




