8話──俺は通りすがりの魔法少女(♂)
「しゃおらあっ!!」
──ドゴオオッ──
『『『ギャギイイイイイッ』』』
力いっぱいに繰り出した反社キック。その一撃だけで列になっていたモンスター達は紙吹雪のように散り散りに吹き飛んでいった。
『ガウアッ』
「しゃっ!」
──メッキイッ──
身体のしなやかさを活かしたサマーソルトキック。死角から飛びかかってきたフェンリル的なモンスターが頭蓋骨から地面にめり込んだ。
『ウゴオオオオッ』
最後に残されたオークが棍棒を振り下ろしてくる。
「らあっ!」
唸りを上げて落ちてくる棍棒を蹴りで迎えうつ。人の腕よりも太い棍棒は爪楊枝みてえにポキッと呆気なく折れ、勢い余った爪先がオークの腹を貫通した。
『ゴッ……』
一瞬で絶命したオークがその場に正座するかのように崩れ落ちる。それでも顔の高さが俺の背と変わらないくらいだ。ズズっとこちらに僅かに倒れ込んできそう。
「ふいー……終わったか……」
勢いと流れでやっちまったが、とんだ殺戮ショーだった。今まで虫くらいしか殺した事ねえのに、人外とは言え色々殺しまくっちまった。
あんましいい気分じゃない。
「わりいな……俺も必死でな」
だが、これで目の前の危機は去った。
そんな風にモヤモヤしていた時だ。
「う、う~ん……」
「おっ?」
それまでずっと気を失っていた腕の中の少女が小さく呻いた。
その目がうっすらと開かれる。
明るく綺麗な瞳がボーッと揺れている。
「あ……あれ? ここ、は……?」
まだ寝ぼけたように、ゆっくりと瞬いていた瞳の焦点が俺にピタリと合う。
「貴女……は?」
「え? あー、えーっと……」
何て答えるか。この姿で『はい、日吉望、アラサーの転生ニートです! 趣味は無名のセクシー女優の名前をなんとか調べあげる事です!』なんていう、正直な自己紹介をする訳にもいかんしな。
かと言って『みんなの光、ティアラ・ホープだよ! よろしくね、てへぺろーん!』というのもな。
「えーっと……通りすがりの魔法少女。かな?」
「魔法、少女?」
ぼんやりとした表情のまま首をゆっくり動かす少女。その顔が、こちらに傾いているオークの顔面と吐息のかかるガチ恋距離で向き合う。
「……」
「あ」
「……………………ぃ……」
「い?」
「きぃやあああああああああ!!?」
すんげえ悲鳴で大絶叫した少女は、くてんっ、と頭を垂れて再び気を失った。白目を剥き、口から泡を吹いている。
「あー、気の毒に……」
オークの死体から離れて少女を揺さぶる。
「おーい。大丈夫か?」
返事は無い。今のショックで事切れてなければいいんだが。
「ホープっ、無事ですか?!」
頭上からバサッとハトエルが降りてくる。
「お怪我はありませんか?!」
「おう。意味分からんくらいにこの姿つええみたいだからな。何ともねえぞ」
「よかった~。そちらの少女は……あ、あれ? な、なんだか顔色が悪いような?」
「お目覚めにちょいとキツい気付け薬を処方されたんでな」
ハトエルは困惑するように目をパチクリさせていたが、何かに気づいたようにスンっと静まり、その場で手を組んで何か祈り始めた。
「何やってんだ?」
「死んだモンスター達への祈りです。今ごろは冥界へ魂が誘われているでしょう。どうか安らかに」
「そうか」
襲い掛かられたとは言え、手にかけたのは俺だしな。俺も祈っておこう。
黙祷しておく。
すまないな、モンスター達。
代わりになんかならねえだろうけど、俺はこの世界で生きていくからな。ああ、生きるとはかくも残酷な事なのか。いただきますの精神を持つ日本人なら、こんな時でも祈ってやらねばな。しんみりしちゃうぜ。
「……それはそれとしてっ! 凄いです、ホープ! いやー、獅子奮迅、八面六臂の活躍とは正にあの事! なんてシリアルキラーキックを持ってるんですか! いよっ、この歩く虐殺兵器っ、人の皮を被った全身凶器! やさぐれアラサーのコスプレ変態バーサーカー!」
「切り替え早すぎだろ! しかも全然褒めてるように聞こえねえ!」
俺のしみじみとした感傷をぶち壊しやがって。
「さあ、危機は去りました。先を急ぎましょう。私の第六感によるとギルドはすぐ近くです」
「おう、そうか」
その場を後にして、またハトエルに導かれるままに森を進む。
何分かして。
際限なく続くと思われていた木々の向こうに、明るい日の光が見えてきて、広い草原が幹の合間から覗かれた。
森の出口だ。
「出ましたよっ、ホープ!」
「お、おお~っ!」
この世界に来てからずっと先の見えない森の中だったからテンションが上がり、思わず走って飛び出した。
森から抜けた瞬間、緑の風が全身をバッと駆け抜けていった。
真っ白な太陽が真上で輝き、何物にも遮られず突き抜けるように青くて高い空の下には、緑の大海原のような草原が果てしなくゆっくりと揺れている。
そんな景色が地平線まで、遠方に聳える峰の青い稜線にまで霞んで続いている。
その圧倒的なスケールで、ようやく異世界ファンタジー味を感じた。
「すっげー。大草原だな」
「はいっ、私もこういう人間界の大自然は初めて見ました! 感動的ですね。あっ、そうだ! 記念撮影しておきましょう!」
「おう、そうだな……て、撮影?」
ハトエルがどこからともなく一昔前のインスタントカメラらしき物を取り出して、レンズを俺に向ける。
カメラはハトエルが手を離してもその場に浮遊していた。
「これでよしっ! ホープ、笑ってくださーい!」
ハトエルが隣に走り込んできて、ニコッとピースした。
──カシャッ──
シャッター音がし、カメラが回収される。
「撮れましたー! うわ~、嬉しいな~、私の初めての人間界写真! ね、ホープも嬉しいですよね?」
「何をどう突っ込めばいいんだ……」
なんか、さっきまでファンタジー気分が盛り上がりかけてたのに、俗世的な代物の登場で萎えた……。
「ていうか、なんで天使がんなもん持ってんだよ。しかも微妙に古いし」
「天界では人間界の技術を応用して新しい道具を作ったりするんです。でも、これは凄いですよ! 電池とかフィルムとか要らないんです。何枚でも際限なく撮れるし、その場で写真が出るんですから」
カメラのフィルムが入ってるであろう部分からペッと二枚の写真が吐き出される。確かに普通のカメラではない。
「はいっ! 私達の冒険初日写真です。後でお渡ししますね!」
「お、おう」
「えへへ、楽しみですね~。きっと将来、この写真を見ながら『ああ、懐かしいな』とかしみじみ言うんでしょうねっ」
「そうかあ?」
なんか興は削がれたが……
ま、いっか。
妙な気分にはされたが、確かに記念写真を撮ったのは良いかもしれん。
もっとも。こんな格好の写真ではあるが……。
と、壮大な自然の景色に魅入れられたり、ハトエルの変な奇行があったりで気がつかなかったが、すぐ近くにコテージらしき建物があるのを発見した。
「お、なんか建物があるぞ」
「多分ギルドです。行ってみましょう」
近づくと、複数の人影が周辺をうろついているのが見えた。
「おおっ」
ここでもファンタジーを感じる要素が。
騎士っぽい鎧を着た奴、いかにも魔法使いって感じのローブを纏った少女、軽装のエルフっぽい姉ちゃんに、ヒゲがモシャモシャのオッチャン。
そんな奴らが、剣やら槍やら弓やら斧やらを携えて闊歩してる。まさに冒険溢れる異世界な住民の日常風景ではないか。
「すげー。コスプレ会場じゃないよな?」
「この世界の冒険者や旅人などのオーソドックスな姿ですね。むしろ、ホープの姿こそコスプレのような」
それはその通りだ。
「ん? あっ!!」
そんな風にウロウロしていたら、近くに居た剣士っぽい兄ちゃんが俺らの方を見て驚きの声を上げた。
「アイリ! 無事だったのか?!」
兄ちゃんの視線は、俺の腕の中でぐったりしている少女へ向けられていた。駆け寄ってきて、俺を見るなり目を丸くした。
「あれ、君は?」
「え? あ~、えーっと」
「なんだ、どうした?」
「お? なんだあの子?」
「え、かわいい~。お人形みたい」
「あっ、あの子の抱えてるのってアイリちゃんじゃない?」
兄ちゃんに続くように、そこらに居た冒険者らしき輩がワラワラと群がってきた。
どいつも物珍しそうに俺の事を見てる。
「うおっ、めっちゃ可愛い子だな……」
「ヤバくない? 超可愛くない? ほら、あのポンポンとかリボンとかっ」
「ねー、可愛い~!」
「ずいぶん若いな。しかし、一体なんでアイリを?」
「すげー。どこの地方のファッションだ?」
「俺、惚れちまったかも……」
「あれ、隣の子も背中に翼があるぞ」
「まるで天使だなあ」
なんだか騒ぎになってしまった。つうか、こんな格好なのに見られまくってクッソ恥ずかしい。
さっさとずらかろう。
「えーっと。この子、森で倒れていたんだ。後は任せる」
最初に近寄ってきた兄ちゃんに気絶少女を押し付ける。
「おっと。アイリ、大丈夫か?」
「じゃあ、そゆことで」
「あっ、君!」
さっさと去ろうとしたところで呼び止められた。
「君は何者だ?」
「えーっと……あ、あれだ。通りすがりの魔法少女」
「え?」
「じゃっ」
長居は無用だ。
ハトエルの手を引いて逃げるようにその場を後にした。
ここまでが序章となります。もし、
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