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9話──さあ、王の城へ

 






「なんで逃げるんですかー、ホープ」

「こんな恥ずかしい格好を何時までも衆目に晒してられるか」

「可愛いのに~」

「そこが問題なんだよ」


 俺自身はやさぐれたアラサー野郎なのに、あんな美少女を好意的に眺めるような目で見られてたら脳ミソがバグる。



 俺らは一旦森の中へ戻り、太めな木の裏に回った。


「ふう。さ、もう変身解除していいよな?」

「はい、魔力の消費も激しいですからね。もう大丈夫でしょうし、解除して平気です」


 胸元のクリスタルを握り、心の中で元に戻りたいと念じてみた。


 ──ヒュイイイーンッ──


 ──バキッ、ボキッボキッ、ベキッ──


「ぐげっ?! がっ!? ほんげええっ?! も、戻る時もこれかよ!?」

「が、頑張って! 変身する時よりはダメージ少ないはずですから!」


 まさかの解除も同じような目に遇わされた。


 全身バッキバキにへし折られる感覚が止んだ後、地面に投げ出された。凄まじい吐き気が容赦なく襲ってくる。


「く、クソが……ウオエエエッ! なんで戦闘よりもこっちでダメージ受けるんだよ……」

「で、でも元通りですよっ! はい、鏡」

「うぅ……よ、よし。戻ったな……」


 鏡の中には濁った目とやさぐれて痩けた頬のナイスガイな俺がいる。


「!! そうだっ、息子よ!」


 大事な箇所を慌てて確認する。

 手に、柔らかな愛おしい温もりが感じられた。


「よ、よかった! 本当によかった……! 息子よ、会いたかったぞ……」

「あーあー。可愛いかったのに~。また元の意地悪アラサー望さんに戻っちゃった~」


 よし。ここは人気(ひとけ)もない。ここならロリ天使を思う存分わからせてやり、調教しても助けは来ないな。薄い本よろしく、たっぷり身体に大人の恐さを教えてやる。


「それでは望さん。初クエストも終わり、一件落着となった事ですし、私達の本来の目的に戻りましょう」

「んあ? 本来の目的? なんだよそれ」

「やだなー、忘れたんですか? 私達はこの世界に着の身着のまま放り出されたんですよ? そんな私達に至れり尽くせりの支援をしてくれる王家に行くのですよ」

「ああ」


 そういやそんな事言ってたな。


「でも、本当にそんな支援とかしてもらえんのか?」

「当然ですよ! だって王家ですよ、王家! 王とは人間の頂点、代表。財産だってナンバーワン! いくらでもお金がジャラジャラです! きっと金貨風呂に毎日入ってる事でしょう」

「金属臭くなりそう。そんな馬鹿な成金キングなんか居ないと思うぞ」


 まあ、札束風呂なら一度入ってみたいけどな。


「では、いざ王都へ!」

「張り切ってるとこ悪いんだがよ。さっきもチラッと言ったが、歩いて10日の王都までどうやって行くんだ? 俺を乗せてその羽でぱたぱた~って飛んでってくれるのか?」

「そんなファンタジーなやり方で行く訳ないじゃないですか~」


 ここファンタジーな世界だけど。


「ちょっと待ってくださいね。今用意しますから」

「用意?」


 ハトエルはそう言って懐から手帳を取り出した。


「えーっと、転移呪文は……あ、あった!」


 嬉しそうな声を上げて、ニコッと笑う。


「王家ははるか昔に天界との盟約を交わしてますからね。そういった所には、何時でも天使が赴けるようにワープ装置が設けられているんです」

「マジ? そいつはすげえな」

「それでは王城までトラベルです! 望さん、私の肩に手を乗せて下さい!」


 言われた通りにすると、ハトエルが早速呪文らしきものを唱えだした。


「ヒョイヒョイヒョ~ッのパッパラパーッ、キラキラピュ~ンっと一直線! 私達を乗せてポイ~ンっとレッツラゴー!」


 なんかダサい詠唱だが、足下の地面にそれっぽい魔方陣が浮かび上がってきた。


「さあ、飛ばしますよ~!」

「大丈夫だろうなぁ?」


 周りの景色がグニャリと歪み、内臓が浮かぶような無重力感に襲われる。


「おぉ、おおぉ~っ!?」


 変身する時のように、光に満ちた世界へと吸い込まれ、身体中に強い負荷がかかるのを感じる。


 なんかヒョイヒョイヒョーッのパッパラパーみたいな感じだ。そんな感覚だ。



「着きますよー!」


 というハトエルの声と共に、パッと景色が変わった。


 眩い光の洪水は消え、いきなり薄暗い石の部屋みたいな所に出たと思った瞬間


 ──ドサッ──


「いって?!」

「あうっ!」


 ケツから石の床に落ちた。地味に痛い。


「いっててて……」

「あうち~……」


 自分でワープ魔法使ったくせに、ハトエルも不時着して尻を押さえていた。


「つ、着きました。望さん。ここが王城です」

「見事なフライトだったな。着地以外は」

「うう、意地悪」


 王城に着いたと言うが、ずいぶんと薄汚くてカビ臭い陰気な部屋だ。


 頭より高い位置にある明り窓から入る日の光がわずかに部屋を浮かびあがらせてる。

 広いようだが、何もない。冷たい石の壁や天井に囲まれた薄暗い牢獄のような場所だ。


「おいおい、本当に目的地なのか? お前の事だし、間違えて死刑囚の個室にでも入っちまったんじゃねえのか?」

「知り合った日から信頼度低すぎないですか?! 大丈夫です! 天界公認の転移装置なんておいそれとあるものじゃないから、ここで合ってます~!」


 プンプンするハトエルを押し退けて、とりあえず辺りを調べてみる。


「なんか陰気くせえな」


 だが、確かに牢獄ではないようだ。

 目を凝らしてみると、俺らが着地した場所は祭壇のようになってるし、周りの造りもそれ相応の儀式場的な雰囲気を醸している。


「この造りは天界の祭壇を模した物のようですね」

「けどよ、せっかくの天使様と魔法少女様の降臨なのに出迎えが無しなんて、この城なってないんじゃね? SNSあったら星1付けてクソミソにレビューだぞ」

「あんなに魔法少女嫌がってたくせに、いきなり態度が大きい……」

「やっぱ、お前みたいなのが天使じゃ、人間もやる気出ねえか」

「しかも責任を押しつける! もうっ!」


 ポコポコと叩いてくるハトエル。


「事前に知らせてなかったから用意出来なかっただけですよ! いいから、王女を探しますよ!」


 幸いにも、出口らしき扉はすぐに見つかり、鍵もかかっていなかったので、すんなりと脱出できた。


「お、らしくなったな」


 部屋の外は立派な廊下になっていた。


 分厚いガラスの大窓がズラーっと並んだ広い廊下。敷いてあるカーペットも高価そうだ。外の明るい光が華やかな色彩を放つ。

 あちこちに気取った絵画が飾られたり、金ぴかの燭台があるのもコテコテだ。


「よーし。ここが王城らしいと言うのは分かった。で、どこに行けばいいんだ?」

「分かりませんっ!」

「オーケー。お前を頼りにするのは馬鹿だけだと悟った。今後は気をつけるよ」

「もうっ、一言余計です! とにかく、歩き回って探しますよ!」

「結局そうなるのか」


 仕方ないので、ハトエルと共に適当に歩き出す。


「しかし、ここが本当に王城なら、ちょっと味気無いよな」

「何がですか?」

「ファンタジーの醍醐味と言えば旅だろ? 田舎の少年が、可愛い幼馴染みとか森で出会った謎の美少女を連れて、冒険しながらラッキースケベと鈍感モテムーブを堪能しながら珍道中を繰り広げて王都に到着! 着いて早々、都会でのカルチャーショックにより衛兵に追い回され、ヤバくなったところで謎の美少女に出会う。謎の美少女は色んなお店に行きたいと言うので、一緒に回ってやってたら実はお姫様だった! みたいなのがファンタジーの王道展開だろ?」

「あ、見て下さい望さん。この絵画のリンゴすごく美味しそう!」

「おいっ! 人の話聞けよ! なんか悲しいだろうが!」

「だって、長いですよ~。それに、よく分からないですよ~」


 ちくしょう。俺はそういうご都合主義も織り込んだ夢とワクワク溢れる異世界ファンタジーを望んでいた。

 なのに現実ときたら、話も聞かねえアホ天使と闇雲に王城を散歩だ。


「ところで気になってたんだが。お前、頭の上の天使の輪っかはどうしたんだ? この世界に来てから無いみたいだが」

「天使の輪は人間の世界ではあまり長く顕現させる事が出来ないんです。マナの消費が激しいので」

「ふーん。でも、輪っかが無ければお前みたいなのが天使って人間は分かんないんじゃねえの?」

「どういう意味ですかっ! ちゃんと背中の翼だってあるでしょう!」

「だって今のお前は飾り物の翼を付けたアホの娘にしか見えんからなあ」



 そんな風に、無駄話をして歩いていた時だった。


 ──ガチャ──


「ん?」

「あ」


「え?」


 すぐ近くにあったドアが開いて、中から可愛いメイドさんが現れた。


 ホウキを持ったままその場に固まって、俺らをまん丸な目で見てる。


「……」

「あっ、人ですよ! よかった~。どこ行けばいいか途方に暮れていたんですよ~。やりましたよ望さん、ワクワクな美女の登場ですよ!」

「やっぱ、こうでなくちゃな~!」


 本物のメイドさんだ。テンション上がるぜ。


「それでは、メイドさん。私達を王女の元に連れてって下さいな」

「…………だ……」

「だ?」

「誰かああーーー!! 侵入者よー!!」

「「?!」」


 悲鳴を上げながらバタバタと逃げ出すメイド。


「あ、あのー! 私達は怪しい者ではっ……」


 ──ドタドタドタドタ──


「居たぞー! こっちだ!」

「怪しい二人組だー!」

「一人は頭の悪そうな子供! もう一人は性格の悪そうな男だ!」

「捕らえろー!!」


 俺らは駆けつけてきた兵士らによって、悪口も言われながらあっという間に縛り上げられた。



「な、なんでこうなるの~~!?」

「なあ、お前ほんとに天使か?」


 王城に着いた俺らは熱烈な歓迎を受けたのであった。


 ふざけやがって。




お疲れ様です。次話に続きます。

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