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6話──冒険の始まり?

 







 光に満ちた世界が薄れていき、徐々に現実的な色彩の溢れる景色へと変わっていく。


 どうやら変身が終わって不思議キラキラ空間が終わろうとしてるらしい。


「なんか戦う前から疲れた……」


 ここからが本番だっていうのによ。




 ──バシューンッ──



 光のベールが消えて世界が元に戻る。



 ──トッ──



 柔らかい草の上に着地。



「たくっ、本当にこんなんでドラゴンを倒せんのかよ──」


『グオオオオオオオオッ』


 ──ドゴッ──


「ぐぅえぇっ?!」


 降り立った瞬間、目の前にドラゴンのでっけえ頭が一杯になった。

 と思ったら、強い衝撃と共に吹き飛ばされた。自分の体がボールのようにヒュ~ンっと飛んでいる。


 ──ズザーッ──


 勢いよく背中から地面へダイブ。砂煙を撒き散らしながら止まった。カッコ悪い。


「いつつ……うおいっ、リスキルなんてアリかよ! この害悪野郎!」


 変身終わった瞬間に頭突きかよ。ていうか、変身直前に攻撃モーション入ってたのか。


「ちくしょうが~っ……うっ!? おえええええええええええっ!?」


 立ち上がった瞬間にとんでもない嘔吐感に襲われ、吐いた。胃は空っぽだから胃液が出た。


 ヤバい。今の一撃で内臓がやられたか?


「オエッ、ウエエエエっ!?」

「だ、大丈夫ですか?! ホープ!」


 吐き気に苦しんでいる所へハトエルが駆け寄ってきた。


「お、おいっ! 全然ダメじゃんかよ! 今の一撃で内臓やられたぞっ……ウエエエエッ!!」

「あ、いえ。それは多分、変身酔いかと」

「へ、変身酔いだあ?!」

「だって、身体構造が男性から女性になるんですよ? それも、成人からまだ未成熟な肉体に。変身時の肉体変化の負担が大きくて内臓がズタボロになってるんです」

「さ、先に言え!! 変身した直後に瀕死になる魔法少女なんて聞いた事ねえよっ!」

「でも大丈夫です! 変身時の負担はリンク・クリスタルがすぐに治してくれます! すぐにそのダメージも回復しますよ!」

「んな訳あるか──よ?」


 お? 吐き気がピタリと治まった。


「おお、スゲー。本当にすぐ治った」

「あっ、安心するのはまだです! ドラゴンが来ています!」

「ふおぉっ?!」


『グオオオオオオオオッ』


 地面をズシンズシン揺らしてこっちに突っ込んでくるドラゴン。


「うわああっ?! やべえええ!」

「ま、待ってください! 逃げちゃ駄目です!」

「んな事言ったって!」


 反転して退却しようとする俺のスカートをハトエルが引っ張る。


「大丈夫ですっ! ドラゴンごとき、魔法少女の相手ではありません!」

「ほ、本当か?!」

「はいっ! 適当に、手を構えて呪文的なアレを叫んでアレすればドドーンのズバーンって感じのアレになりますよ!」


 全然わかんねえ。が、選択の余地はない。大きく開かれた口がそこまで迫っている。


「よ、よしっ! やってやらあ!」

「はいっ! ゴーゴーっ、ホープ!」


 他に解決方法なんて浮かばねえんだ。やってやる。チート魔法、全属性バーストの即死技で塵一つ残さずに完勝だ。

 ドラゴンよ。我が魔法で消し飛べ。


 ──シュバッ──


「出でよっ、聖なる力! マジカルシャイニングホーリーバースト!!」


 これで決まったか。


 ──シーン……──


「お、おいっ! 何も起こらねえぞ!?」

「うえぇっ?! な、なんで?!」


『グオオオオオオオオッ』


 ──ドゴッ──


「べっへえっ?!」


 再び繰り出されたドラゴンヘッドアタック。

 またまた吹き飛ぶ俺の身体。


 ──ズシャアアッ──


「おふっ!」


 地面に叩きつけられる。泥まみれだ。


「いって……おいっ! 何が完全上位のスーパー職業だ! 全然弱えじゃねえか!」


 ハトエルは近くでオタオタしていた。


「お、おかしいですっ。なんで何も出なかったんだろう?」

「たくっ、やっぱりこんなお子ちゃま職業なんざ…………あれ?」


 待てよ? 軽くスルーしてたというか、気がつかなかったけど、俺、なんともねえぞ?

 一方的にボコられてるけど、どこも怪我してねえし、ほとんど痛くねえ。


 立ち上がってみるが、どこも痛まない。手をグーパーとやってみると力が溢れる感覚。


 逞しい木々を軽く薙ぎ倒していったあの巨体のクリティカルアタックを二度も食らってるのに、体は何ともない。


『グオオオオオオオオッ』


「……もしかしてよ」


 みたび迫るドラゴンの頭。野蛮な殺意剥き出しのモンスターヘッド。


 本来なら絶望的な光景。


 そんな迫りくる死の突進を真っ直ぐに迎えて俺は拳を握りしめた。


「魔法少女。マジで強かったり?」


『オオオオオオオッ』


 拳を腰の後ろまで引いて力を込める。


『グルオオオオオオオオオオオッッ』


 繰り出されるドラゴンアタック。目と鼻の先に来た頭。


「おっりゃあああああああああ!!」


 そこへ渾身の右ストレートを放つ。


 ──ドゴオオオオッッ──


『ギャオオオオオオオオオオッ』


 次の瞬間、とんでもない衝撃波が周囲を席巻した。


 放った右ストレート一発。

 それだけだ。

 拳から爆裂魔法が出た訳じゃない。ただのパンチ。


 なのに、その一撃はドラゴンを軽々と吹き飛ばし、拳圧が突風を巻き起こして森中を揺らした。


 ──バキッバキッバキッ、ズドオオンッ──


 ドラゴンの巨体は木々をへし折りながら吹っ飛んでいき、遠くで土煙を上げて止まった。


 辺りにはドラゴンが吐き散らしたであろう大量の血痕に、根本から取れた牙が転がっていた。


 もう起き上がってくる気配はない。


「……マジ?」


 森はサラサラと風の囁きだけ奏でている。


「勝った、のか?」


 信じられない気分で拳を見る。綺麗で可愛らしいおててが木漏れ日を溜めている。あんな民家サイズの化け物を殴り飛ばしたのに無傷だ。


「凄いっ、凄いですよホープ!」


 凄まじい力に軽く戦慄を覚えていると、ハトエルが弾んだ声を上げて隣に駆け寄ってきた。


「まさか一撃でドラゴンを倒してしまうとは! しかも、魔法少女の真価を一切発揮せずに!」

「あ、ああ。そうだな」


 確かに。ぶん殴って終わりで、魔法少女らしく魔法とか使ってないな。


「流石ですっ、ホープ! あっ……」

「あ、おい」


 それまでキラキラと目を輝かしていたハトエルだったが、途端にペタンと座り込んでしまった。


「おい、どうした?」

「すみません、安心したら腰が抜けてしまって……あははは……」


 困ったように笑うハトエル。天使だからだろうか、さっきの腕の傷はもう治りかけていたが、まだ顔色は優れない。


「ほら、立てるか?」

「は、はい」


 そっと手を引っ張ってハトエルを立たせてやる。


「さっきの襲われ少女は無事か?」

「はい。ホープのおかげで無事ですよ」

「なあ、さっきから気になってたんだが、そのホープってのは何だ?」

「何って、貴方の名前ですよ?」


 俺、ホープなのか。


「さっきの解除コードでも言ったでしょう? 貴方の名前は〈ティアラ・ホープ〉ですよ」

「ホープねえ。なんか微妙な名前だが、まあいいや。そんな事よりよ、この変身ってどうやって解除するんだ?」

「えっとー、クリスタルを掴んで心の中で解除を願えば変身が終わります」

「そうか」


 何時までもこんなバリバリ不審者コスプレなんかしてられるか。いや、まあ身体も少女になってるから変ではないかもしんないが。


 クリスタルを掴むと、ハトエルが止めてきた。


「あ、森の中は危険です。まだ周囲に危険なモンスターが居るかもしれないので、そのままで居た方が良いですよ」

「マジかよ。はぁ、仕方ねえな」


 非常に癪に触るが、この状態が強いっぽいのは今しがた証明されたばかりだ。ここは提言通りにするか。



「んで? この後はどうすんだ? これから俺らは何すればいいんだ?」

「ちゃんと計画はありますっ。ですが、その前にあの女の子を助けましょう」


 そう言って気絶少女の元へ駆けつけるハトエル。


「大丈夫です。気絶してるだけでほとんど怪我もしてません。今ヒールしますね」


 サラッとファンタジーお馴染み、万能の癖に誰もがポンポン使うすげー魔法ヒールをかけるハトエル。


 ふんわりとした聖なる光的なのが少女の体に注ぎ込まれ、小さな傷が消えていく。


「はい、これでオッケーです! ではホープ、後はお願いしますね」

「あん? なんだよお願いって」

「この子を安全な所まで運ばなければなりませんっ。さあ、お姫様だっこです!」

「なんでそんな事までやんなきゃなんねーんだよ。お前おぶれよ、人の子慈しむ天使だろ」

「わーお。この女の子、若いのに中々の発育ですねー。むむ、この胸の大きさは上位数パーセントの逸材」

「おい、そこどけハトエル。俺は早急に人命救助しなきゃなんねーんだ。それこそ魔法少女の崇高な使命なのだからな」


 ぐったりした少女を抱き上げる。全然重くない。魔法少女の力のおかげか。

 ついでに言うと、別にそんなにボインでもない。普通だ。

 やはりこのクソガキ天使はいつか腹パンしてやる。


 ハトエルはニコニコと満面の笑みで目の前にステップして躍り出た。


「さあ、行きましょう! 私達の冒険の始まりです! チャララーラン!」

「はぁ~……俺の憧れたファンタジーの始まり方じゃねえな……」



 夢見てたのとは程遠い冒険の一歩がこの時始まったのだった。



お疲れ様です。次話に続きます。

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