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84話──別視点⑫〈四天王の思惑〉

 





 望達が談笑していた頃……。



 ──シャドー帝国、皇城──




「そうか。三人とも無事にアジトへ戻れたか」


 ホッと安堵のため息を漏らすガルネット。机の上は相変わらず散らかっていたが、品の良いハーブティーが置かれていた。


「サフィラの具合はどうだ?」

『もう大丈夫よ。まだ全快ではないけど、問題ない』


 ポットの横に置かれたアミュレットから伝わる報告に、側で控えている少女コリエも安心したように頬を弛めた。



 昨日。ガルネットはアミュレット越しにサフィラが魔法少女との戦闘に入ったのを通信で把握していた。しかし、急にサフィラの悲鳴が聞こえた後返事が失くなった時は流石の彼も焦った。


 そのすぐ後に、まさか魔法少女と話す事になるとはさらに予想外であったが、ガルネットはすぐに機転を利かせて、オニックスとジェイドのアミュレットへ会話が聴こえるように操作しながら時間稼ぎをした。


 結果、ガルネットとホープの会話を聞いたオニックスとジェイドは山の中の補給所の始末を急いで済ませ、サフィラの救助へと向かい見事に成功した。




『けど、ちょっと悔しいわね。まさかあんなに実力差があるなんて……』

「それは仕方ない。何せ我が帝国にさえ語り継がれるほどの伝説の戦士だ。もっとも、本人は別人だと言っていたがな」

『それじゃあ、あいつは何者なんだ?』


 ジェイドの声が割り込む。


『新しく現れた魔法少女って事か?』

「そうなるな。まあ、本当の事を言っているのであればの話だが」

『ふん。武者震いしてきたわ』


 今度はオニックスが声を挟んだ。


『まさかあれ程の猛者と合間見える時が来るとはな。我が人生最大の手向けだ』

『けどよ、あのガキは何で王国の味方してんだよ。ガルネットの調べた限りじゃ、“悪しき者から人々を守る戦士”なんだろ?』

『つまり、あたしらが悪しき者って事かしら』

『ハッ! だとしたらとんだ戦士様だな。俺は正義とか悪なんざ興味ねえが、少なくとも悪しき者ってのは王国だろう』

『その通りだ。魔法少女が何を基準にして我らの敵になったかは知らんが、立ちはだかるなら蹴散らすまで』

『おう、ぶっ殺してやる』

「……」


 ガルネットはふっと手元のカップに目を落とした。琥珀色の水面に無表情な自身の顔が映し出されていた。


 なぜ魔法少女が現れたのか。なぜ王国の味方をするのか。答えは単純で、『魔法少女とは、天使によって選ばれし者が宝具を授かって生まれる存在』であり、『天使は神との盟約を交わした王国の元へ降臨するから』である。

 つまり、どちらに義があるかはともかく、王国にとっての敵を倒すために魔法少女が現れ、王国のために戦うのは自然なのだ。


 しかし、ガルネットの調べた限り、伝説に語られる魔法少女は一つの国のためではなく、全ての人々のために戦ったと記されている。



 800年前。ある一つの国が邪悪なる力を手に入れ、周囲の国々へ侵攻した。

 その悪しき力は強大で、圧倒的。その魔の手は帝国にまで伸びていた。


 当時、まだシャドー帝国は今ほどの国家にはなっておらず、いくつもの国がバラバラに独立した群雄割拠の戦国時代の中にあった。そのため強大な外勢力に太刀打ちなど出来はしなかった。

 一つ。また一つと国が滅ぼされ、命運尽きたと思われた時。可憐なる戦士が降り立った。


 その戦士は魔法少女と呼ばれ、二つの光の力をもって邪を祓い、多くの帝国人の先祖を救った──


 いくつもの資料の情報をつなぎ合わせて、ガルネットが纏めたのは以上のような伝説であった。


 当時は国が無数にあったという事もあり、伝わる内容がそれぞれ違うので、矛盾なく大筋を統合するのにガルネットも苦労した。

 魔法少女は小柄だという記述もあれば、しっかりした戦士の恵体であったとも書かれ、トワール人であったともあれば、リヒトであったともあるし、燃え盛る天使であったともあれば、二人に分裂出来たとか、巨大な蝶になって飛んだとか、伝聞が支離滅裂であった。


 ともかく、その有する力は凄まじく、王国や他の国だけでなくかつての帝国の民まで護ったと記録されている事だけは確かであった。




「……ともかく、厄介な相手だ。倒す以外にも交渉という手も考えた方が良いかもな」

『断る!』

『ふざけんな!』


 即、二つの拒否が返された。


「いや、我々の目的は戦争の終結であってだな、アルメ王女さえどうにかすればいいのだから、魔法少女は無理に倒さなくても──」

『奴は俺が仕留める!』

『ぜってーぶっ殺す!』

「気持ちは分からんでもないがな、目的を見失っては──」

『貴様っ、奴は俺の獲物だ!』

『アホ抜かせ! てめえみたいなウスノロには無理だ!』

『ふんっ、手痛くやられた割には吠える』

『んだとコラァ!』

「話聞けよ!」


 ガルネットはその場でがっくりと項垂れた。


「とにかく。サフィラのレイド・ストーンは何とか明日には届けられそうだ。それを揃えてから改めて作戦を練ろう。どうせ今は三限祭だ。こちらも動けん」

『……ガルネット』


 オニックスの静かな声が伝わった。


『この祭りならアルメを狙うのに格好な好機だと思うのだが、お前はどう思うのだ?』

『……』

『それは……』

「……」


 アミュレットの向こうも、ガルネットも押し黙った。


 今、王国は特別な祭りの期間中だ。祭りの最中で事を起こせばたちまち大混乱となり、王城陥落のための奇襲の成功率は上がるかもしれない。


 もちろん、多くの市民に犠牲が出るのは間違いないであろう。



「……いや、この期間は大人しくした方がいい」

『……犠牲が増えるからか?』

「なくはない。が、我々は多くの戦地や実験場で既に市民に犠牲を出している。今さら偽善的な台詞を吐くつもりはない」


 ただ、と言うガルネット。


「逆に、こんな時だからこそ王都の警備は厳重だ。多くの精鋭や兵力で固めているだろう。それに、あの魔法少女も居る。万が一失敗して、お前達を失えばそれこそ打つ手無しだ」

『それもそうね』

「それに、例えアルメ王女の抹殺に成功したとしても、重要な祭事の最中を無差別に攻撃したとなると、王国民の反感感情は更に強まるだろう。となれば、元凶を叩いても戦争継続の声が大きくなって王国側も和睦をしようにも出来なくなるかもしれん」

『『『……』』』


 小さなため息が一つ疲れたように漏れた。


「敵を倒す事よりも、敵が敵でなくなること。それが一番和平に近くなる」


 ガルネットは横に控えているコリエ少女に目を配った。コリエはすぐに側に寄って机の上にコトっと何かを置いた。

 直ったレイド・ストーンであった。


「これからレイド・ストーンを中継地点に送る。到着は明日の午後になるだろう」

『分かったわ。それにしても、直るの早かったわね?』

「もう三度目だからな……コリエがコツを掴んでくれたからだ」

『そうなの? コリエ、凄いじゃない』


 急に柔らかくなったサフィラの声に、耳をピコっと立てて頷くコリエ少女。


「は、はい。壊れた箇所だけでなく、全体を修復するような手法でやると上手く直せまして」

『そうなの。ありがと、助かるわ』

「い、いえ。あの、サフィラ様。危険な任務です。どうか気をつけて。オニックス様とジェイド様も、無理はなさらず……」

『案ずるな』

『土産はホープの棺だ。楽しみにしてろ』

『それじゃあ、終わるわね』


 三人との会話も終わり、執務室は静かになった。


 急に火が落ちたような中、コリエはソワソワした様子でガルネットを伺った。


「ガルネット様。魔法少女とはそんなに強い相手なのですか?」

「ああ。あの三人ですら敵わないんだ。間違いなく最強の敵だろう。恐らく、勇者よりも強い」

「ガルネット様よりも?」

「うん? そうだな……」


 ガルネットは少し宙を見つめていたが、小さく笑った。


「多分な」

「そ、そんなにですか?」


 コリエの耳が伏せる。


「そんな相手が居る王国に勝てるのでしょうか? もし、王国軍がここまで攻めてきたら……」

「心配するなコリエ」


 ガルネットの手がコリエの頭にポンっと乗せられる。


「勝敗はともかく、この帝国はそんな簡単に攻め落とされたりはしない。第一、王国がここを手に入れたい理由なんて無いからな」


 天然資源に恵まれてる訳でもない。特別に優れた産業や立地がある訳でもない。

 何よりここには瘴気がある。

 トワールの民以外ではこの地は魅力的ではないのだ。



「だからこそ、王女の目的は分からないのだがな」

「え?」

「いや。コリエ、少し休憩にしよう。お茶菓子はあるか?」

「はいっ。用意します!」



 嬉しそうな声が弾むように部屋から出ていった。




お疲れ様です。次話に続きます。

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