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83話──少女達の邂逅

 





 なんてこった。あの、沸点が低温殺菌牛乳くらいしかない刃物女こと女騎士セイディに目をつけられた哀れな生け贄はバザー花魁のリンちゃんだとは。かわいそうに。これは面白れー見物だぞ。



「貴様っ、どこの部隊だ! 階級は?! 四天王か?! まさか、最後の一人が貴様かー!」

「ぶ、舞台? か、緩急? してんのう?」

「シラを切るつもりか。なら、私は……貴様を斬る!」

「ひょえええ~?! お、お助けぇ~! 命だけは~!」

「よし。なら命は助けてやろう。速やかに投降したまえ」

「と、刀工? も、申し訳ありやせんが、わっちに出来るのはせいぜいちょっとした細工くらいでして……」

「細工? 四天王のくせに堂々と戦わんのか?! 私は小細工は嫌いだー!!」

「ひ、ひいぃっ?!」

「やはり──斬るしかないか!」

「結局斬りたいだけじゃないんすか?!」


 うーん。

 なかなかの見物だ。


「パパ! そんなニヤニヤ見てないで助けてあげましょう!」

「えー。もうちょっと見てたい」

「悪魔ですか貴方は!?」

「セイディ、待って!」


 と、俺のしょーもない悦楽のショーにアイリが乱入した。


「うん? あ、アイリ」

「アイリさんっ?!」

「ぬ? 貴様、アイリを知っているのか? さては……アイリを襲ったオニックスとかいう四天王か!」

「ち、違いやす~!!」

「ま、待ってセイディ! この人はリンさん! 四天王でもなければ怪しい人でもないの!」


 少女による、少女への、少女のための説明がなされた。






「すまなかった。本当に申し訳ない。私は、どうしても思い込むと一直線になるタイプで……」

「い、いえ。分かってもらえればいいでやんす……」

「いや、んな訳にはいかねえよなあ? て事でだ通り魔女騎士。代わりに俺へ5000リルク払いな」

「君は関係ないだろう! だから払わない! 君は馬鹿だ!」

「お前にだけは言われたくねえ!」



 近くのちょっとした休憩スペース。町のあちこちに設けられた憩いの空間だ。ガセボみたいな、屋根つき風吹き抜けのお洒落な空間だ。


 そして、そんな一堂に会した三人。

 アイリ、セイディ、リン。

 俺がこの世界で知り合った少女三人衆だ。


「いや、しかし本当に申し訳なかったリン。君のような少女を見かけた事がなかったし、見慣れない風体の衣装だったからつい……」

「あ、わっちの服は東方の衣装ですから……」

「で? リンよ。今度はどんな犯罪に手を染めて女騎士に詰め寄られたんだ?」

「人聞き悪い事言わないでください! わっちは生まれてこの方犯罪に手を染めた事はないでやんす!」

「嘘つくな。最初は違法薬物の運び屋をしていたじゃねえか」

「何?! そうなのか? リン、どうやら詰め所まで同行してもらわねばならないようだ」

「信じないで?! わっちは無実でやんす~!」

「パパ!」

「ノゾムさんっ」


 ちょっと悪のりしてたらハトエルとアイリに怒られた。


「しかし……」


 なんというか。変な組み合わせだな。

 三人ともこの世界に来てから知り合った人間だが、偶然にも歳が近いようだし、四天王やイクリプスの騒動に巻き込まれた者達。まさに異世界被害者の会だ。


 奇妙な縁でもあるようだな。



「ところでセイディ。お前がまた刃物振り回してたってことは、やっぱり巡回でもしてんのか?」

「ああ、そうだ。知っての通り明日からは三限祭だ。ただでさえ騒ぎを起こす輩が増えるようなイベントなのに、こんな時だ。何が起こるか分からんからな」

「ふーん。騎士も大変だな」

「それが使命だ……私は刃物を振り回してなんかいないぞ!」

「今さらかよ! つうか嘘つくな!」


 アイリとハトエルが困ったように笑い、リンは怯えたように肩をすぼめていた。


「なるほどな。それで巡回中に怪しいリンを発見したってわけか」

「わ、わっちは怪しくないでやんす! 

「そいつはどうかな。お前には前科がある。怪しい白い粉を大量に運び、たまたま近くを通りかかった目撃者をその粉を浴びせて薬漬けにして口封じしようとした前科がな。しかも二回だ」

「何を食べたら事実である事をそこまで完璧な嘘に改造出来るんですか?!」

「リン。やはり君には一緒に来てもらわねば……」

「だ、だから誤解でやんす~!」


 リンの悲痛な叫びは、苦労している人間の哀愁漂う嘆きの音色であった。


 ここで一句。


 シラを切り  鳴いてはばかる  粉ムスメ



「セイディはお祭りには出ないの? その、お仕事じゃなくて遊びに」


 アイリが尋ねると、セイディは少し考えるような仕草をした。


「元々はずっと巡回するつもりだったんだが、他の団員達からは私も祭を楽しむようにと言われていてな。しかし、部下が使命を果たしてる間に私だけ呆けるのもな」

「そっか」


 どうやら生真面目ちゃんなりに遠慮してるようだ。


「それに、私は祭りの楽しみ方がイマイチ分からない。何をすれば良いのだろうか」

「お前ひょっとして友達いない?」

「失礼な。友達ならたくさん居る。例えば……………………アイリとか」

「そうか。アイリしか居ないのか」

「な、なぜ分かった?!」


 まあ、もしかしたら他にも何人か居たんだけれど、みーんな斬っちまったのかもな。


「それならセイディ。私達とお祭り回らない?」


 と、ここで。唯一のお友達が誘ってあげた。


「ノゾムさんとハトエルちゃんと一緒にお祭り回ろうって話してるの。セイディもどう?」

「いいのか? 私が一緒でも」

「もちろん。昔は一緒にお祭り回ったじゃん」


 セイディは感激したようにジーンっと酸っぱいような顔をした。


「私は本当に良い友と巡り遭えた。天使様、感謝いたします」

「いえいえ、そんな~」

「? なんでハトやんが照れてるんでやんす?」

「そうだ、リンさんも一緒にどう?」


 今度はリンを誘うアイリ。リンは驚いた後すぐに嬉しそうな顔をしたが、それもしゅっと消えて暗い表情になった。


「うぅ。物凄く嬉しいお誘いですが、わっちは出店する予定でして……残念ながら一緒には回れないです」

「そっか。なら、当日は遊びに行くね。どこに出店する予定?」

「き、来てくれるでやんすか?」

「うん。いいですよねノゾムさん?」

「おう、十割引きにして、売上金を全部くれるなら遊びに行ってやる」

「野盗ですか?!」

「リンさんは何のお店を出すんですか?」

「わ、わっちは焼きそば屋をと」

「「ヤキソバ?」」


 アイリとセイディが声をハモらせて首を傾げる。


「ヤキソバとは?」

「なんだお前ら焼きそばも知らねえのかよ。焼きそばってのはな、安っぽい麺にキャベツとかモヤシみたいなコスパ良い野菜を適当に混ぜて、味覚破壊濃厚ソースで仕上げたクソうめえ粉物だ。まあ、野性的なパスタみてえな物だ」

「野性的なパスタとは?」


 リンが感心したような目を俺に向けた。


「よくご存知で。もしかしてノゾムさんもわっちと同じ東方人で?」

「似たようなもんだ」


 こちとら大和男児じゃぞ。


「しかし、そうか。リンは店を開く側か。残念だな。お前とも一緒に回りたかったんだが」

「そうなんですか? それは、その。なんと言いますか、光栄でやすなぁ」

「ああ。俺に粉をかけた罰として全部奢ってもらって回ろうと思ったのによ」

「わっち弄ばれてる?!」

「あ、それじゃあパパ! 私達はリンさんのお店のお手伝いをするのはどうでしょうか?」

「は?」


 何言ってんの?このアホ天使。


「せっかくのお祭りにも仕事をして大変そうなリンさんを手伝ってあげましょうよ!」

「おいハトガキ。わたあめしか詰まってないその頭によーく叩き込んでおけ」


 ──スゥー……──


「俺はなぁ、一銭の得にもならねえ事はしねえんだよおおぉ!!」

「ひょま~~?!」


 俺のブレイクシャウトによってハトエルはコロコロとベンチから落ちた。


「ノゾム。いくら自分の娘だからって、そんな躾は良くないぞ」

「そうですよ。ハトやんが可哀想でやんす」

「駄目ですよノゾムさん」

「ちっ!」


 どいつもこいつも。この能天気アホに振り回されてみろ。仏ですらあの鋼鉄パーマで頭突きしたくなるレベルでイラつくぞ。



「さて。私は巡回に戻らなければな」


 セイディが立ち上がる。


「アイリ、後で家に寄らせてもらうよ。その時に予定を立てよう」

「うん。お仕事頑張ってね」

「ああ、ありがとう。それじゃあ私は失礼する」

「おう」

「お疲れ様ですっ」

「お、お気をつけて」


 雑踏へと消えていくセイディ。彼女が居れば事件も防げるだろう。


『ぬっ! 貴様っ、なんだその怪しい格好は!』

『えっ、これはお化け屋敷という催し物の衣装で……』

『さては魔族だなー!? 斬る!』

『えぇー!?』


 ……事件を起こす側だった。


「それじゃあわっちも準備に戻りやす。お三方、わっちはここら辺で出店する予定ですから、ぜひお越し下さいまし」

「私達も手伝おうか?」

「いえいえ。皆さんにはただでさえ借りがある身。これ以上助けられたら返せる物も返せないざんす」


 ペコペコと頭を下げながら、道端の小さなリヤカーのような物の元へと戻るリン。



「それじゃあ、俺らも散策に戻るか」




 その後、一通り下見を済ませた俺らは別れ、明日からの祭りを楽しみにして家へと帰ったのであった。




お疲れ様です。次話に続きます。

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