表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/139

81話──三限祭とな?

 




「いててて」

「大丈夫ですか~、望さん」

「く、くそ。まさかこんなに体がなまっていたとはな」


 たった一日、しかもほんの少しの登山で筋肉痛とは。昨日のプチ登山、なんちゃってハイキングで俺のふくらはぎちゃんが悲鳴を上げている。


「うぅ~。今日は休みだ~」

「クエスト行かないんですか?」

「冒険者にも休養は必要だ」


 一銭の稼ぎにもならず、おまけに休業とは。やはり貧乏王女(アルメ)のオーダーで山になんか行くんじゃなかった。


 今日は大人しく休むぞ。



「それなら望さん。今日は少しお散歩しませんか? この世界に来てからゆっくり休日を過ごす事なんてありませんでしたし、町を散策しましょうっ」

「おい、話聞いてなかったのか? 俺は筋肉痛で動きたくないから今日は一日ゴロ寝するんだ」

「もったいないですよ~。お天気も良いですよ?」

「なら絶好の引きこもり日和じゃねえか。よーし、今日はニートに返り咲きだ」


 呆れて食器を片付けていくハトエル。朝飯も食ったし、早速だらけるか。


 自室に戻りベッドへ


「ふぃー。久々にゆっくり出来るぜ。さあーて……」


 ……。


 枕元に手を伸ばしてみるが手応えがなく、指がシーツをさわさわと撫でていた。


「そうだ、スマホは無いんだったな」


 休日モードになった途端、無意識にスマホを探しちまった。


「よーし、ならば休暇の定番積みゲー消化大会でも……」


 ゲームどころかテレビも無い。


「……たまには読書も──」


 本棚すら無え……。


「……こういう時はアダルトなビデオで……」


 …………。







「あれ? どうしたんですか望さん」


 居間に戻ると、掃除していたハトエルが首を傾げた。


「お昼ご飯はまだですよ」

「いや、そうじゃない。ハトエル、今ヒマか? 出かけるぞ」

「はい?」


 目をパチクリな天使。


「だってさっき『今日はもう最高のサボタージュデイだ。俺は新ジョブ、引きこもりニートに進化したぜ~』って言ってたじゃないですか」

「勝手に改良すんな! なんで何気に解像度高いんだよ!」


 馬鹿にしてんのかクソガキ。


「最初はそう思ったんだが、よく考えたらここには暇潰しになるもんなんて何も無えからな。スマホもゲームもパソコンも無い空間なんて時間の消費の仕方が分からん」

「なるほど。カルチャーショックというやつですね」

「まあ、そんなようなもんだ」


 正直あんま外にも行きたくねえが、暇過ぎて30分もたなかったからな。こんな調子で一日過ごすなんて無理だ。


「それならバザー行きませんかっ? 私、新しいお洋服欲しいです!」

「予算10リルク以内ならいいぞ」

「ケチっ!」


 慎重な審議の結果、『せめて、わたあめ一本!」というハトエルの貪欲な要求を飲んで屋台での飯代等の予算も含めて300リルクを持って遊びに行く事にした。








 うららかな町の中。


 ぽかぽかと柔らかい陽気に包まれ、往来の活気ある声が響きわたる。楽しげな声が前を過ぎたり、横を通りかかったりして、それぞれの日常へと戻ってゆく。

 買い物帰りなのか、母親に手を引かれた子供が布の袋を提げながら笑い、若い青年達が走り回って弾んだ声をたてている。


 異世界なのに、どこか既視感があるというか、懐かしいような穏やかな時間だ。


「今日は人通りが多いですね?」

「そうだな」


 相変わらず、兵士達があちこち警戒しているようだが、今日は子連れや家族連れが多いような気がする。


 なんとなく、町中が浮かれてるというか、和気あいあいとした空気が満ちてる。


「何かイベントでもあんのか?」


 心なしか屋台や露店が多い気がするし、通りのあちこちに太陽を型どった飾り付けがある。他にも、どんな意味を持ってるかは分からないながらも、何かめでたそうな装飾が色んな所で煌めいている。


「この町の風俗習慣には詳しくないからな。天使様、お前ならこの飾り付けの意味とか分かるよな?」

「うーん……ポカ~ンっ、分かりません!」

「ポンコツが」


 天界で一通りの情報は得てきたとか言ってた割には頼りにならねえ。


「ま、いいや。ちょっとお祭りっぽいし、フラついていくか」

「はいっ。わたあめ、わたあめ~!」

「しょうがねえなぁ。棒だけ買ってやるよ」

「意地悪っ!」


「あ、ノゾムさん、ハトエルちゃん」


 と、そこに。

 すっかり馴染んでしまった声がした。


「この声は……」

「アイリさんだーっ!」


 振り向いたそこには、我らが異世界案内人アイリちゃんがいらっしゃった。


「こんにちは」


 そして、変わらず穏やかで優しげな微笑みで挨拶してくる。この世界に来てから、俺にとっての唯一の癒しの存在だ。


「よ、アイリ。やはりお前は異世界唯一の良心だ。タイミングといい、性格といい、容姿も良い」

「え? あ、はい? え、よ、容姿が良いって……」

「アイリさんっ、今日もクエストですか?」


 すっかり懐いたハトエルがその手をとってゆらゆら揺らすと、アイリもあやすように揺らした。


「ううん。違うよ。今日はね屋台とか露店を見て回ってるの」

「それじゃあ、お買い物ですか?」

「んー。買い物もするつもりだけど、下見かな」

「下見?」

「うん。明日から『三限祭』でしょ? お母さんとも回ろうと思って」


 聞きなれない言葉が出た。


「何だそのサンゲンサイって? チンゲンサイが清一色(チンイツ)から大三元(ダイサンゲン)になったのか?」

「え? えっと……す、すみません、どういう意味か分かりませんが、多分違います」


 アイリは困った顔になった。


「あれ? ノゾムさん達も来年が“千年祭”だという事は知ってますよね?」

「千年祭?」


 まだサンゲンサイの意味も聞いてないのに、聞き慣れない単語が増えた。が、名前からして何かが千年の記念祭っぽいな。


「アイリさん。私達はけっこうな田舎から来てまして。もしよかったら、そのお祭りのお話などを教えて頂けないでしょうか?」

「うん、わかった。それじゃあ……あ、あそこのパイ屋さんでお話しませんか?」


 もちろん私が奢ります。なんていうお人好し過ぎる少女の言葉に遠慮なく甘えさせてもらった。


 サクサクのパイ生地にうつつを抜かしながら、アイリの話を聞く。


「まず、千年祭について。千年祭とはその名前の通り、千年の節目を祝うお祭りの事です。このサンライズ王国は今より999年前に建国されたと言われています」


 諸説あるそうだが、一応一般的にも通説的にもそのようになってるそうだ。


「ですので、来年は建国より千年となるので千年祭が開催されるのです。そして、その前年。つまり今年は前夜祭ならぬ前年祭が開かれるのです。それが三限祭です。明日から始まって五日間ほど続くんですよ」

「なるほど。それで通りが賑やかになっていたのか」


 なんとなく浮かれたような空気が漂っていたのはこのためか。


「帝国との戦争もあり、開催は難しいと言われていたそうですが、この日のために準備を続けてきた自治会などの運営員の方達が懇願して、王女様もその熱意に打たれて許可したそうです。ご自身の財産まで売って資金提供したとの噂もあります」

「あいつ、そんな事してたのか」


 貧乏なくせに見栄張りやがって。


「ちっ。俺への報酬は出世払いってとこか」

「報酬?」

「いや、こっちの話だ。しかし、そうか。そんな節目の大きなお祭りだなんてな」


 祭りか。


 ガキの頃は友人とかとそれなりに行ったりはしたな。


 どう考えてもぼったくりなミニマム焼き鳥とか、原価数円のかさ増しかき氷とか、当たりナシクジとか、死に損ない金魚すくいとか。

 そんな物に夢中になった時代もあった。


 今じゃ馬鹿馬鹿しくて祭りの物なんて何一つ買う気になんかならねえが。



 けど。


 楽しかったよな。ああいうのも。




「……なあ、アイリ」

「はい」

「あー。その。いや……」

「?」


 今、なぜか『よかったら一緒に祭りを回らないか?』なんて言おうとした。


 別に変な話じゃないかもしれないが、やっぱりおかしいよな。

 俺みたいな行き遅れアラサーが、まだ大人になりきってもない女の子誘うなんて。

 ましてや、アイリは真っ当な人間だ。俺みたいな人間とは生き方が違う。


 俺に誘いかける資格は無い。


「あ、そうだノゾムさん」


 そんな風に自分で自分を戒めていた時だ。


「よかったら、お祭り一緒に回りませんか? ご存知ないようでしたし、ぜひこの機会に楽しんでいってください」

「……」


 たまに思う事がある。


 俺も、どこかで何か違えば。こんな時に何も負い目もなく素直に頷けたんじゃないかって。

 1ミリも迷う事なく、すぐに笑えたんじゃないかって。



「……いいのか~? アイリちゃんよー。お兄さんと二人っきりじゃ何されるか分からんぞ~?」

「あはは。もちろん、ハトエルちゃんも一緒に」

「はい! わーいっ! アイリさんとお祭りだ~!」

「お前は留守番な」

「なんで?!」

「馬鹿やろうっ、空気読め! 愛しいパパ上が女の子と二人っきりでお祭りに行くチャンスなんだぞ! 応援したいとは思わないのか!」

「アイリさんが心配だから行きますよーだ!」


 アイリは隣でおかしそうにクスクス笑っていた。



お疲れ様です。次話に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ