表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/139

76話──やはりお約束の変身回

 




「くっ! 降参などするか! 撃て!」


 隊長らしき兵士が声を張り上げて命令を下すが、ほとんどの兵士達は戦意を喪失しているようだ。じりじりと後退し始めている。


「な、何をしている!? おい、逃げるな!」

「む、無理だ、こんな化物……」

「し、しかも四天王だなんて……」

「勝てる訳が……」


 大砲などの大型の兵器は壊れてるし、負傷者も多い。最初の激突で王国側は主戦力をやられたと見ていい。


 対する相手はイクリプスだ。さっきのダメージなんてノーカンみたいなもんだ。四天王のエロサキュバスも健在だし。



「くそ! いくら化物と言えども相手は一匹と一人だ! 総員、構えろ!」


「っ! 止めろっ、そんな事しても意味はない! そいつは不死身の化物だ!」


 思わず叫んでみたが、隊長はこちらに振り向いて怒鳴り返してきた。


「なぜ一般人がここに居る! ここは戦場だ!」

「俺は一般人だがイクリプス──その化物を何度か見てる! そいつは普通の攻撃じゃ倒せない相手だ!」

「素人は黙っていろ! 訳の分からない事を言って兵達を困惑させるな! 市場でも砦でも撃破したと報告は受けてるのだ!」


 それは俺がやったんだよ石頭野郎。


「バカね。そっちの馬鹿の言う事に少しは耳を傾ければいいのに」


 そんなサフィラの冷たい声がした後、イクリプスの巨体が蠢いた。


「あんた達に勝ち目は無いわ」


 ──ズオオオオォッ──


 電車の六両編成くらいはありそうなイクリプスの巨大な尻尾が地面を削りながらしなり、未だに隊列を保った兵達の上に落ちる。


 ──ズドオオオンッ──


「「「ぐわああああああ!?」」」


「ぬおわあっ?!」

「わわあっ!?」

「きゃああ!!」


 砂利と土の混ざった波がこちらにまで押し寄せ、俺らも吹っ飛ばされた。


「ふおおっ?!」


 手足が空を泳ぐ。内臓がゾワッとする浮遊感が襲い、すぐに地面が目の前に迫った。


 ──ズシャッ──


「いって!?」


 生身で落ちる地面はやはり痛い。


「いってててて……く、ハトエル! アイリ! 大丈夫か?!」


「な、なんとか~」


「わ、私もですっ……」


 離れた場所で座り込む二人。大した事はないらしい。


 しかし、兵士達の方は壊滅状態のようだ。半分近くが戦闘不能になり、無事な者も腰を抜かしている。



「もうこれで分かったでしょう?」


 砂ぼこりの向こう、頭上の方からサフィラの声が落ちてくる。


 妖艶で、しかし冷たい目がこちらを見下ろしていた。


「あんた達王国ではあたし達には勝てない。大人しく降伏してアルメ王女を差し出しなさい。そうすれば他の人達は悪いようにはしないわ」

「アルメを?」


 思わず俺が聞き返すと、サフィラがこっちに振り向いて頷いた。


「あたし達の標的は王女だけ。王国を滅ぼす気はない」

「おいおい、嘘つくなよ。お前らは魔王の手下どもなんだろ? ヒャッハー、血が飲みて~!とか、ぶっ殺すの楽し~!とか、世界は我ら魔族の物だ、人間は絶滅だ~!みたいな蛮族ばっかじゃねえのか?」

「んな訳ないでしょうが馬鹿! あんたトワールの民を何だと思ってんのよ!」


 普通に怒られた。

 サフィラがギロリと睨んでくる。


「あんたってほんっとうに馬鹿なのね! 脳ミソちゃんと機能してるのかしら?」

「んだとぅー?! それが目上の者に対する礼儀か? このエロサキュバスが。そのムチムチお肌とエロコスの隙間に俺のグルメな舌を潜り込ませてやろうか?」


 めちゃくちゃ嫌悪感いっぱいの表情で身を引くサフィラ。ついでにハトエルとアイリの方からは『最低過ぎる……』というような小声が聞こえてきた。


「はぁ……。なんかこいつは普通に殺しといた方が世のため人のためみたいな気がしてきた」


 俺の事害虫か何かと思ってんのか。


 いや、それより……。

 このサフィラとかいう四天王は前の二人に比べれば冷静で話が通じるタイプのように見える。


 ならば、ちょっと聞いておきたい事がある。


「おい、四天王のお嬢ちゃん。お前らの目的は何だ? 魔王とかいう奴の手下なら、世界の滅亡とか世界征服が目的か?」


 そう問いかけると、怒りのこもった答えが返ってきた。


「そんな野蛮な目的ある訳ないじゃない。それに、魔王だなんてよくもそんな侮辱的な名前で呼ぶわね。女王は……クイーン・ディアマンテはそんな破壊的な事考える人じゃないわ」


 初めて聞いた名前。

 クイーン・ディアマンテ。それが敵の親玉の名前らしい。


「そりゃあ、確かに女王は恐い人よ。暴力的だし、気まぐれだし、部下には高圧的だし、好戦的だし、力で他人をねじ伏せるし、情け容赦ないし……」

「……」

「……」


 サフィラが頭を抱える。


「そう言われれば、けっこう魔王っぽいかも……」

「いやっ、そこは認めるんかーい!」


 なんで自分らの正当性を主張するターンで自爆してんだよ。


「と、ともかく! 女王はそんな馬鹿じゃないわ! 周囲の国の人間を皆殺しにするとか、滅ぼすとか到底ムリな事なんて考えてないわ」

「ふーん。ま、『てめえらなんか皆殺しだ』なんて言ったら王国も死に物狂いで抵抗するから例えそうであろうとなかろうと、そう言うわな」

「うっ、馬鹿のくせに言ってくれるじゃないのよ」


 なんか最近めっちゃ馬鹿って言われまくってんな。


「とにかく! あんたらみたいな雑魚はさっさと王都にでも逃げたら? どちらにせよ、ここはすぐにモンスター軍団を誘引して占領するわ。あと30分もすればここも地獄よ」

「……どうしてそんな事教えてくれるんだ?」

「え?」


 俺らは民間人だが、敵側なのにサフィラからは殺意や敵意らしいものを感じない。


「よく分かんねえけどよ、お前は帝国軍のお偉いさんだし、俺らは王国民だ。別に俺らがどうなろうと知ったこっちゃないんじゃないか?」

「……ええ、知ったことないわ。けど、無理に殺す理由もない。逃げるなら勝手にどうぞってワケ」

「相手側に手の内を見せるのは無理じゃない事に入るのか」

「……」


 じっと向けられた真っ直ぐな眼差し。そこからは感情や思惑は読み取れない。



「! さ、山道にはサラさんが……!」


 と、俺らが腹の探り合いをしていると、途端にアイリが走り出してしまった。


「待てっ、アイリ!」

「山にはサラさんがまだっ……! モンスター軍団が来る前に見つけないと!」


 イクリプスを避けて駆け出すアイリ。

 何故か焦ったようなサフィラの声が飛ぶ。


「あっ! 馬鹿っ、戻りなさい!」


「撃てええ!」


 ──ドオンッ──


 その時。

 突然、怒号と砲撃音が響きわたった。


 ──ドオンッ──


「きゃっ!?」

『ギシイイイィィ……』


 イクリプスの頭から火炎が上がる。サフィラが立っていた辺りだ。


 思わず振り向いてみると、増援が到着したのか、態勢を立て直した兵士らが砲火をイクリプスへと向けていた。


「四天王を倒せばあの化物も止まるはずだ! 撃てええ!」


 ──ドオンッ、ドンッ、ドンッ──


 続けて火を吹く火砲。イクリプスの全身に爆炎が閃き、辺りが火薬の臭いと煙でいっぱいになる。


 逸れた弾が周囲に落ちる。


 ──ドオオンッ──


「きゃあっ!?」


「アイリっ!?」

「アイリさん?!」


 イクリプスのすぐ近くを走っていたアイリの側に砲弾が落ち、アイリは地面に投げ出されるように倒れた。


「や、やめろぉ!! 撃つな!! 近くに民間人が居るんだ!!」


 しかし、俺の声は怒号のような号令や爆音の前では無力で、攻撃は続行された。


「くそっ! ハトエルっ、ここで待ってろ!!」

「望さんっ!」


 頭上で何度も破裂する砲火に耳を塞ぎながら、アイリの元へと走る。


 砲弾なのか、魔弾なのか分からない爆発が周囲で何度も瞬く中、何とか倒れてるアイリの元に辿り着いた。


「おいっ、アイリ!」


 急いで抱き起こすが、アイリは既に意識を失っていた。


「しっかりしろ!!」


 ──バシュンッ、ドオンッ──


 また近くに爆炎が逆巻く。

 ここに居たらいつか殺られる。


「くそ!」


 アイリを抱き上げ、砲火を浴びて暴れるイクリプスから全速力で離れ、近くの日用品店へ走る。


 ──バタンッ──


「ぐうっ……!」


 悪質ショルダータックで扉を破壊して飛び込む。勢い余って躓いてしまい、アイリを庇いながら倒れる。


 ──ドダッ──


「いってえっ……」


 なんか何時も散々な目にあってるな。


「いつつ……。おい、アイリっ! おいっ!」


 床に寝かせて揺さぶるが、アイリは起きない。口元に手をやると、息はしていた。気絶してるだけだ。


「望さんっ、アイリさん!」


 そこへ、同じく飛び込んできたハトエル。横たわるアイリを見て慌てて飛び付く。


「だ、大丈夫ですかアイリさん!?」

「大丈夫だ。気を失ってるだけだ」

「よ、良かった~。今ヒールしますね」


 そう言ってハトエルが祈ろうとした時だ。


「う……」


 と、アイリが微かに唸った。


「あっ、アイリさん! 大丈夫ですか?!」


 しかし、少し唸っただけで起きる気配はない。


「サ……」

「さ?」

「サラ、さん……」

「……」


 そのうわ言の後は途切れて終わった


「……ヒールは待てハトエル」

「え?」


 外からはまだ爆音や怒声が聞こえる。あのイクリプスの巨大な質量がのたうつ音も。


「……。先にアイリを安全な所へ連れていけ」

「? あっ、もしかしてっ……!」


 俺はポケットからリンク・クリスタルを取り出した。


 正直言って、やっぱり変身なんかしたくねえ。


 だが……。


 ──スッ──


「シャイニー・リンクル!」


 ──キュイイイィィンッ──


 不本意ながらも、すっかり見慣れた光の洪水が目の前に溢れた。


 体をさらってゆくような、馴染んでしまった感覚が全身を包む。




お疲れ様です。次話に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ