表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/139

75話──女四天王サフィラ

 



 頭に響くように鳴らされるまくる鐘の音が頭上を右往左往し、兵士達が混乱するようにそこらから飛び出してくる。


 その怒鳴るような会話に耳を傾けてみると


「山道だ! そこに巨大なモンスターが現れたらしい!」

「全容はハッキリしていない! だが、かなりの大きさだそうだ!」

「木々の中を縫うような黒い影だと聞いた!」

「油断するな! すでに王都周辺で不可解な事件や四天王による襲撃が起きている! 通達にあった敵の召喚獣の可能性も考えられる!」


 今現在の情報が伝わってくる。


 剣に槍に弓矢。魔法の道具と思われる杖や、うちわのような見慣れない武器を抱えて走る兵士達。さらには台車のついた大砲や大型の弓発射装置のような物も次々に運ばれているが、ハッキリ言って頼りない。


 普通のモンスターなら十分な兵力なのだろうが、実際にイクリプスと戦った者なら分かる。あれは普通のやり方じゃ倒しきれない。


「あの大砲でコアが砕ければいいんだが……」

「それは無理でしょう。コアであるマナ結晶の強度はこの世界の文明レベルの武器での破壊は不可能です。魔法を連続して当てられれば可能性は無くもないですが……」

「……ともかく、俺らの優先目標はアイリの発見と確保だ」


 すぐに、さっきくぐった山道へのアーチが見えた。そこには兵士達がひしめきあっている。


「くそ! やっぱ山に現れたのか!」

「どうします? これでは先に進めそうに……」


「あのっ、通してくださいっ」


「!」


 慌ただしく集う兵士達の中。

 必死に叫ぶ少女の姿が見えた。


「アイリ!」


 その名前を呼んですぐに駆けつけると、周りの兵士達が俺を見た。


「なんだ、お前の娘さんか?」

「俺はそんな歳食ってねえ! いや、んな事はいい。その子は俺の連れだ。急に走り出したから追いかけてきたんだ」

「そうだったのか。ならちょうどいい。さっきから山道に行こうとして聞かないんだ。連れて戻ってやってくれないか?」


 周りで鎧がガシャガシャいう音が行き交う。


「山に何か得体の知れないモンスターが現れた。ここは戦場になるかもしれん。危険だからこの子を連れて避難してくれ」

「待ってください! あの山にも知り合いの人が居るんです。探しに行かないと……」


 まだ諦めきれてないアイリの腕をやや強引に引っ張って兵士達から離れる。


 前線から少しだけ下がって、まだ少し興奮状態のアイリの肩を掴んで落ち着かせる。


「おいっ、優等生の良い子ちゃんのくせに兵隊のお兄さん達を困らせるのは駄目だぜアイリちゃん」

「ノゾムさん……でも、サラさんが……」

「あいつなら大丈夫だろうぜ。見たろ? バングリズを一瞬でぶっ倒したあの戦闘力。それに、ツンデレエルフってのは属性的に見ても大体そこそこ強キャラなんだよ」

「??」

「パパの言葉のチョイスはともかくとして、言ってる事はその通りですっ」


 ハトエルがアイリの手をとる。


「ほんのちょっとお話しただけですが、しっかりしてる方ですし、パパの言う通り強い人です。きっと今頃は安全な所へ避難してるでしょうっ」

「ハトエルちゃん……」


 アイリは何か考えるように俯いたが、コクリと頷いて顔を上げた。


「うん、そうだね。きっと大丈夫。それに、今私が山の中に入ったら兵士のみんなが困るもんね」

「そうだぞ。さすがは優等生冒険者美少女だ。物分かりがいい」


 少し諭しただけでアイリは落ち着いてくれた。とりあえず一安心だ。



「さ、今の内に避難しようぜ。まだ戦闘はおっ(ぱじ)まってないみたいだしな」

「はい」


 とりあえず、アイリを安全な所へ届けよう。

 そうすりゃあ俺だって変身せずに済むかもしれんしな。


「……」

「パパ?」


 だが……。もしあのイクリプスが来たらら……。

 ここの戦力だけではどうにもならないだろう。


 きっとこの村は……。


「……俺が気にする事じゃねえか」

「え?」

「いや、何でもない。さ、早く──」


 ──ズズゥン……──



「!」


 踵を返した足裏に伝わる震動。何か巨大で重たい物が地面に衝突するシグナル。


 思わず振り返ると、山道入り口付近から黒い影がゆっくりと頭をもたげて現れた。


「き、来たぞ!」

「全員、構えろ!」


 怒声のような声が辺りに響く。武具の擦れ合う音がザラザラと耳につく。


 集った兵士らが戦闘態勢に入った。



『シイィィィィ……』


 空気を舌なめずりするような音。細くて不快な異音。それが巨大な影から発せられる。


「やっぱりか……!」

「あっ、あれは……!」


 木々の頭から首を伸ばして顔を覗かせたのは大蛇の化物。黒──というよりは、濃いヘドロのような色をした異形。しかし、その頭部は蛇よりもワニに近い。

 大きく裂けるように開いた口の中には恐ろしい牙が詰まっており、ピロピロと踊る血のように赤い舌は幾本にも枝分かれしていた。


 そして、なにより。その首の付け根らしき場所にはあの黒いオーブ、コアがはまっていた。


「イクリプス!」


「砲撃用意!」

「法術部隊っ、前へ!」

「構えーー!!」


『シャアァァァァ……』


「撃てえっ!!」


 ──ドオンッ、ドオンッ──


 号令と共に雷鳴のような砲撃音が空をつんざく。色彩目まぐるしい魔法の火花が目の前でチカチカ点滅する。矢の隊列が真っ直ぐ飛んでいく。


『ギシャアァァァァ』


 イクリプスの体のあちこちで爆炎が上がり、矢が突き刺さっていく。

 皮膚が弾け、肉とも言えない肉が崩れ落ち、血のような汚れた体液が溢れる。


『シイィィィィッ』


「よしっ、効いてるぞ!」


 兵士らがオオオッと士気高らかに叫ぶ。優勢であると自信をつけたのだろう。

 だが、これが優勢でも何でもない事を俺は知っている。


「隊長っ、標的に攻撃の効果あり! しかし、止まる気配がありません!」

「なに?! もっと撃ちこめ!」


 再び吹き荒れる攻撃の嵐。こだまするイクリプスの悲鳴。


 しかし、その身に付いた傷はすぐに何もなかったかのように元に戻っていった。


「き、効いてない?! いや、再生してるのか?!」


『シャアアァッ』


 イクリプスの生気の無い目に怪しい光が宿り、大きく開かれた口から岩の塊がいくつも飛び出した。


 ──ズガガガアッ──


「ぐわっ!」

「うわああ?!」


 まさに砲弾のような塊が大砲を破壊し、兵士の陣形を崩す。


『シギイイイィィ』


 細かい地響きを立ててその巨体を這わせてこちらに迫りくるイクリプス。


「っ! ヤバい! 逃げるぞアイリ!」

「で、でもっ……」


 近くに倒れた負傷者が気になるのか、アイリの足が意思に反して動かない。


「俺らが居ても邪魔になるだけだ! 早く!」


『そう、その通りよ』


「「!?」」


 いきなり、イクリプスが女の声を出した。

 と思ったら、その大蛇の頭の上に人影が立った。


「一般人は下がりなさいな。死にたいの?」


 そんな言葉をこちらに投げ掛けたのは──見知らぬ女だった。


「あいつは……」


 一言で形容するなら、悪魔。もしくは魔族と言った姿の女だ。


 頭にくっついたアンモナイトみたいな角に、尻の後ろで揺れる尻尾。背中越しに見えるコウモリのような翼。露になった胸の谷間や太ももがエロい。肉感的で挑発的な身体つき。誘惑するような妖しげな目元。


 間違いない。男の子のロマン、淫魔だ。


「う、うおおっ! ま、まさにファンタジーお馴染みのサキュバスじゃねえか! マジでエッ!!」

「興奮してる場合ですかパパ!!」

「んな事言ってもよお?! サキュバスだぜ、サキュバス!」


 くそ、異世界に転生したら会ってみたい種族No.1が目の前に居るのに、よりによってこんな時なんてな。


「いや、つうか……」


 待て。

 イクリプスの頭の上に立ってる魔族って事は……。


「も、もしかして、四天王か?」


 俺の声が耳に入ったのか、サキュバスの視線がこちらに向いた。


「ええ、そうよ。あたしの名前はサフィラ。帝国軍が四天王の一人」


「なっ?!」

「あ、あれがっ……!」

「各戦前でいくつもの部隊を撃破してるという……!」


 周囲にどよめきと緊張が走る。目の前には一騎当千の将が居るのだ。


「降伏しなさい、王国軍。そうすれば命だけは助けてあげるわよ」


 イクリプスの巨体がゆっくりと首をもたげ、その淀んだ瞳が俺らを見据えた。


 その不気味な眼に、周囲は息を飲む音に統一された。




お疲れ様です。次話に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ