74話──嫌な予感ほど当たるもんだ
「それでホープがセイディに言ったんです。『かわいいは正義。つまり、正義は勝つ』って」
「もう三回目だぞその話……」
しかも言った覚えのねえセリフがやや脚色されてやがる。
「まだ他にもあります! 市場ではリンさんに貴重なキノコを渡して『きっと人生は良い事がたくさんだがら。これで貴女が幸せになれますように』って優しく語りかけてあげたんです! もう、本当にカッコよくて可愛くて!」
「なあ、その話も五回目くらいなんだけどよ……」
「まだ五回だけでしたか。なら、半分もいってませんね。これを機にノゾムさんにもホープの素晴らしさをもっと知ってもらわなくちゃ!」
「勘弁してくれ……」
サラに言われたからという訳ではないが、俺らは麓の村まで下り、少し遅めの昼飯を食う事にした。
サラと別れてから麓へ下山するまで、アイリはずっと魔法少女ホープ(俺の事)を熱心に語り、それが今なお続いており、俺は絶賛ウンザリ中だ。
ここ最近のホープの活躍を間近で何度も見たアイリはすっかりファンになってしまったようで、何度も同じ話を繰り返して語るありさまだ。
ともかくホープ大絶賛信者で、イコール俺の事を褒めまくっている訳ではあるのだが、いかんせんあれは仮の姿だし、演技してる俺の姿なので全く褒められてる気がしない。むしろ良く知ってる別人の話を聞かされてるような気分だ。しかも所々言った覚えのねえセリフまでありやがる。偏向報道どころか捏造報道だ。
井戸の側でゆっくりくつろぐはずが、ブレーキを失ったアイリのホープトークの会に強制参加させられてる始末だ。
「あぁ、ティアラ・ホープ。カッコよくて、可愛くて、勇敢で、凛々しくて、優しくて、可憐で……あれこそ正に理想の人の姿その物です!」
「そ、そうか」
「ノゾムさんは会った事ありませんか?」
「いや、無いっつうか、不可能って言うか、むしろ毎度会ってるっつうか……」
「そうですか。そう言えばノゾムさんはホープが来る現場に居合わせてはいるものの、直接会った事はありませんよね。タイミング悪いなぁ。出来れば一度会ってお話とかして欲しいのに」
「そうか……」
クローンでもなきゃ無理な話だ。
「アイリさんは本当にホープの事が好きなんですね」
辟易してる俺とは違って、ハトエルはニコニコと嬉しそうにアイリの話を聞いている。
「アイリさんの魔法少女への愛がいっぱい伝わってきます。とても素晴らしい愛情ですっ」
「うん! ずっと憧れてたから。子供の頃からいつか魔法少女に会ってみたいなーって思ってたんだ。この歳になって憧れるなんて少し子供っぽいって思われるかもしれないけど」
「いえいえ、そんな事ないですよ。憧れる気持ちや慕う心が強いのは、とても清らかで無垢な魂の持ち主である証拠です。アイリさんにはきっと神のご加護があるでしょう!」
「ありがとねハトエルちゃん。ふふ、こうやって誰かと魔法少女の話をするの楽しいなぁ。これも私の憧れだったんだ」
ハトエルと同じくらい、屈託なくニコニコ笑うアイリ。本当に嬉しそうで楽しそうだ。
「ね? ノゾムさんもホープに会ってみたいですよね?」
「肯定以外の答えは許さんのだろ?」
「はい!」
狂信者かお前は。
「まあ、会ってはみたいかもな。お前がそんなに興奮して知能低下まで起こすような奴だし」
「そうでしょう? ふふふ、いつかノゾムさんも会えるといいなぁ。そしたらきっと、人に優しくしたり誰かのために頑張る事の大切さを理解出来ると思います」
「そいつはどうかねえ」
まあ、こんだけアイリが絶賛するくらいなのだ。俺の演技力もなかなかじゃないか。
「しかし、今日は無駄足だったなぁ。登山装備は整えたのに結局下りてきちまったわけだし」
「そんな事ないと思いますよ。冒険者なら山道や森の奥深くまで赴く事もありますし、今日揃えた装備も決して無駄にはなりませんよ」
「まあ、そうだな。先行投資ってやつか」
しかし携帯食料は早めに処分しねえとだな。
「ハトエル。よーく噛み締めて食うんだぞ。こんなに贅沢な昼飯は数年先まで無いかもしんないんだからな」
「はいっ、よく味わって食べます! あー……あぁ!?」
「うおっ、なんだよいきなり」
干し肉を食おうと大きく開けた口から突然大声を出すハトエル。
「こ、これはっ……」
「ほら、あっちの小屋に──」
「だからおトイレじゃありません! それより!」
グイっと俺の耳を引っ張って小声で告げるハトエル。
「またあの嫌な気配です! 多分、イクリプスとかいう……」
「なんだって?!」
すぐに周囲を見回す。しかし、特に何か変化があるようには見えない。
「どこだ?」
「分かりません。でも、それほど遠くはない地点のはずです」
「また四天王とかいう奴が来てんのか? オニックスか、ジェイドか?」
「それも分かりません。けど、あの二人の時とも違うような……」
「二人とも、どうかしましたか?」
こそこそ話していると、アイリが気遣わしげに声をかけてきた。
「なんだか顔色が悪いようですが……」
「い、いや、なんでも。それよりアイリ、そろそろ帰らないか? もうここには用もないし」
「え?」
アイリと一緒にハトエルも意外そうな声を出した。
「ほら、あれだ。えーっと。もし山崩れとか火山噴火とかあったら危ねえからさ、今の内に王都に帰らないかって思ってよ」
「ここ、火山ではありませんけど……」
「いや、つまりだな。どんな危険な事がその身に振りかからないとも限らないだろ? だから早いとこ帰らないと」
俺の言わんとしている事にやっと気づいたのか、ハトエルもハッとして賛成した。
「そうですね! アイリさん、とりあえずここから離れましょう! 近頃物騒ですからね、安全第一ですよ!」
「???」
ともかく、まずはアイリを連れてここから離れねえと。俺が魔法少女になって戦うかどうかはともかくとして、この子の安全確保はしなくては。
しかし、そんな思惑も虚しく。
──カンカンッ、カンカンカンカンッ──
村の櫓から騒がしく鐘を打ち鳴らす音が響いた。
「!? 警鐘?」
アイリが立ち上がる。
「まさか、また……」
「くっ……ハトエル、アイリ」
二人の手をとる。
「ノ、ノゾムさん?」
「もしかしたらまたヤバい事になってるかもしれない。早く安全な場所に避難するぞ」
「でも、もしかしてまた帝国の仕業だったりするのでしょうか?」
「かもしれん。が、わからん」
手を引きながら周囲を観察する。そこらの通行人達が動揺し、兵士達が慌ただしく移動している。
その様子だけではどこで何が起こっているか分からないが、兵士の群れは北に向かってるように見える。
「あっちは……山道の方向だな」
「山道……?…………!!」
途端にアイリが立ち止まる。
「どうした?」
「山道にはサラさんが……!」
「あっ! おい!」
その言葉を聞いて、俺も理解した時には、アイリは既に手をほどいて山道の方へと走り出してしまっていた。
「バカ! 戻ってこい! おいっ!」
「望さん! アイリさんが危ないです! 追いかけましょう!」
「ちっ! これだから青いガキは嫌いなんだよ!」
知り合いの顔が頭に浮かんで安否が気になった途端これだ。後先考えようとする発想すらない。
「ハトエルっ、その暗黒の気配だか闇の気配的なモンはどっちの方角だとか位置とかはまだ分かんないのか?」
「た、多分なんですが山の方っ……アイリさんが走っていった方向かと……」
「くそ!」
どうしてこうも嫌な予感とか想定ばかり毎回ドンピシャで当たりやがるんだ。
急いでアイリの消えた方へと駆け出す。
「いいかハトエル! アイリに追いついたら強引にでも連れ戻すぞ! サラに関しては……いや、それは後だ! まずはアイリを追うぞ!」
「はい! まずはアイリさんの安全からです!」
山道へと俺らも走る。
そして、行く先のその方向から
『シャアアアァァァ……』
という形容しがたい不気味な空気の音のような何かが聞こえてきていた……。
お疲れ様です。次話に続きます。




