77話──蛇と悪の女幹部と
──ポイッ、ドサっ──
「ウオエエエェッ、オエッ、ウップ……プハッ、はぁ、はぁ、はぁ、よ、よし……」
「は、はい、ホープ、ハンカチ!」
「おう、ナイス」
口回りのゲロを拭き取ればあ~ら、素敵。またまた完成しました、変態アラサーニートのキュンキュン魔法少女。
「クソが」
「でも、偉い! 自分から進んで変身するなんて! 花丸いっぱいあげますね!」
その場で腕を大きく輪っかにするハトエル。
不覚にもちょっとかわいい。
「それじゃあ、あとは任せたぞポンコツ天使」
「ひどいっ!? やっぱり花丸あげない!」
花丸は取り消しになっちまったが、吐き気もおさまった。さっさと蛇駆除に行くか。
──ギイッ──
外へ出る。イクリプスはまだそこに居る。
「アイリを回復させたらすぐにここから離れろよ」
「はいっ! ホープも気をつけて!」
「ふっ!」
──ダンッ──
地面を蹴って、唸り声らしきものを上げているイクリプスに向け、跳ぶ。
通りの上空高くに飛び、戦況を確かめる。どうやら既に大勢は決したようだ。
ついでに、イクリプスの巨大な全貌も明らかになった。
「アリ、熊、次は蛇かよ……」
うねるように動くその巨大な影は長く、大地を這いずっている。
しかも純粋な動物の姿ではなく、より凶悪に変異したような化物。可愛げない。
すでに兵隊はやられたのか、砲撃もないし怒号も聞こえない。化物大蛇が不気味に佇んでいるだけだ。
風の抵抗を受けながら落下する。このまま脳天直撃キックで奇襲してやる。
「! あいつは……」
その頭部に、四天王サフィラが立っている事に、この時初めて気がついた。
「ん?」
俺の気配に気づいたのか。こちらを見上げて驚きの表情をした。
「!? あんたは──」
「でやあああ!!」
イクリプスの鼻先へ落下速度も加えたメテオストライクキックをお見舞いする。
──ベキィッ──
『シギイイィィッ……』
「わわっ……!」
イクリプスが大きく傾いて、上に乗っていたサフィラが投げ出される。
電車みたいな巨体が地響きを立てながら、倒れ、俺はそのお膝元に着地した。
「コアは……」
たしか上の方だった。今ならイクリプスも地面に横たわっている。
地面に落ちた頭の方へと走る。まだ起き上がっていない今がチャンスだ。
「あれか」
幸いにもコアはすぐに見つかった。
よーし。後は魔法少女の聖なる拳で粉砕してやるだけだ。
──バチッ──
「!?」
そう意気込んだ時。何か殺気のような、嫌な予感がし、その場で止まった。
その次の瞬間、足下に目も眩むような白紫の電光が落ち、鋭い破裂音を上げた。
「うっ?!」
光は一瞬辺りを引き裂いて消え、後には黒く焦げて抉れた地面が残されてるばかりだった。
「なるほど。あんたが例の魔法少女ね」
上の方から声がした。見上げると、イクリプスの胴の上に立ったサフィラが俺を見下ろしていた。
その手は俺に向けられ、妖しい光が宿っていた。
「ふーん。確かにかわいいじゃない。いや、それより、本当にあんたみたいのが伝説の戦士?」
「……多分ね」
しばらく、俺らは視線を交えあった。
サフィラの目はこれまでの二人より敵意もなく、こちらに好奇心を持ってるように見受けられた。
「自己紹介しておきましょうか。あたしは帝国軍四天王の一柱、サフィラ。貴女は?」
「通りすがりの魔法少女、ティアラ・ホープ」
「通りすがり、ね。そのわりにはあたしの仲間が続けて痛い目に遇わされたみたいだけど?」
静かに言葉を交わしているが、俺らの間の空気はゆっくりと張りつめてきていた。
「……一応聞くわ。ここに来たってことは、あたしの作戦を邪魔しに来たってことかしら?」
「そうだと言ったら?」
サフィラは目をスッと細めた。
「なら、倒すしかないわね」
──バチッ──
彼女の手元が光った。
と思ったら、肩辺りにピチっと軽い痛みが走った。
「痛っ?」
静電気のアレによく似た痛みだ。あるいは輪ゴムでパチンっと弾かれたような。
──バリバリバリッ──
「いたたたっ?」
それが連続で体中に飛んでくるので、とりあえず飛び退いて距離をとった。
サフィラは元の位置に立ったまま、目を丸くしてこちらを見ていた。
「うそ……え、アレで無傷なの?」
驚愕とも言える声を漏らして、その表情が引き締まる。
「それなら、手加減なしよ!! サンダーバースト!!」
──バリバリバリッ、ズダアーンッ──
またもや目も眩むほどの閃光が辺りを真っ白に感光させ、鋭い衝撃が全身を襲った。
「あ痛っ!?」
静電気が全身にバチッと走るような感覚。そして、体が軽々と宙に舞った。
「っ、よっと!」
それほどの重い衝撃ではなかったので、すぐに体勢を立て直して着地する。
俺がさっきまで立っていた一帯の地面が黒く焦げている。
「うわあ、すげえ威力」
まさに落雷だな。
「……これも無傷なんて」
と、落胆したようなサフィラの声が届く。
こちらを見るその表情が険しいものになっている。
「やっぱり、普通じゃないわね。まさに伝説の力……いえ、もはや化物ね」
「それほどでも……」
「なら、毒には毒を。化物には化物ね」
サフィラが飛び立つ。それと同時に地面に横たわっていたイクリプスが首をもたげた。
「やりなさいっ、イクリプス!」
『キシイイイィッ……』
耳障りな声を吹き出して大蛇がその大口をぱっくりと開く。俺の足くらいありそうな牙がズラリと並んでいる。
「あれには噛まれたくないな……」
『シャアァァッ』
見た目の大きさに反して、素早い動きで毒牙を繰り出してくるイクリプス。
「わっ!」
鞭のようにしなやかで、雪崩のような圧迫感を伴ったアギトが今の今まで立っていた地面に食らいつく。
少し避けるのが遅かったら餌食になっていただろう。
『シイイイイィィ』
ギョロリとこちらを睨む、生命の光が抜け落ちた眼。
「蛇に睨まれたカエルの気持ち、か」
なんか嫌な気分だ。
──ズオオオッ──
「え? おわあっ?!」
なんて呑気な事を考えていたら、巨大な尻尾が唸りを上げて迫っていた。
まるで土管のような太い尾に思いっきり打ち付けられる。
「べへっ!?」
体が勢いよく弾かれ、風を切って吹き飛ぶ。
──メキイッ──
「いった?!」
木に叩きつけられ、背中に鈍い痛みと衝撃が走り、折れた幹がのし掛かるように落ちてきた。
「いてて……毎度吹っ飛ばされる度に樹木君には迷惑かけるな」
ノックバックする度に環境破壊しちまう。
『キシャアアアァァッ』
休む間も与えずにイクリプスが地響きを立てながらこちらに這いずってくる。腹這いで移動してる割にはかなりのスピードだ。
「どいつもこいつも、こんないたいけな少女(♂)を痛めつけてくれやがって。リョナラーどもめ、痛みを思い知れ」
迫りくる大蛇にこちらから一気に距離を詰める。
「せいやあ!」
頭上からギロチンのごとく落ちてくる上顎に迎撃アッパーを食らわせる。
『キャシイイッ』
肉が弾け飛び、折れた牙が宙へと打ち上がる。
「よっと!」
──タッ──
軽く跳んで敵の突進を避けつつ、空中で牙をキャッチする。
「おりゃあ!」
それを握りしめ、落下速度を乗せてバスケットボールサイズの目玉に突き刺す。
『ギシャアアアッ』
ヘドロのような血を噴き出して、大蛇が頭をブンブンと振るが、突き刺したままの牙をしっかり握ってしがみつく。
「でや!」
しがみついたまま、空いてる手で鼻面をぶん殴る。
──メギャッ──
なんとも形容しがたい音を出して、イクリプスの顔面がべっこりと凹み、そのまま地面にめり込む。
「よっ!」
頭からサッと下りて、コアのある胸の辺りへと滑りこむ。
「おっ?」
止めを刺そうと下りた俺の事を絡めようと思ったのか、真っ赤な舌がピロピロと伸びてきた。
ロープのようなその舌をガシっと掴む。
「おりゃ!」
『キシィィッ』
力任せに引っ張ると、イクリプス悶えながら俺の意のままに首を上下左右にぐるんぐるんと動いた。
「ほっ、だりゃあ!」
僅かに浮いた下顎を蹴り上げる。
その反動で大きく後ろへ仰け反り、コアが丸見えとなった。
「よしっ、このまま……」
──バシュッ、ドオンッ──
「あいたっ!?」
お決まりのラッシュでフィニッシュを飾ろうと思った矢先、後頭部に何かがドンっと当たった。
「いっつつ……」
「あたしも居るのを忘れないでよね!」
思わず振り向くと、サフィラが魔力の弾をこっちへと撃ちまくってきていた……。
お疲れ様です。次話に続きます。




