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72話──とんぼ返り

 




「出たなっ、こってりツンデレエルフ少女! 言っておくがな、お前のようなツンデレはとっくに情報解析、研究が進んでるんだ。つまり、俺は簡単には墜ちないぜ?」

「ねえ、殴っていい?」


 いきなりなご挨拶だな。こいつ、事あるごとに俺に敵対するが何か恨みでもあるのか。


「はぁ。まあアンタみたいな馬鹿はほっといてと……」

「あ、今バカって言ったな。バカって言う方がバカなんだぞこのツンデレエルフ」


 今度はシカトされた。


「アイリ、それと……えっと、貴女の名前は?」

「私はハトエルですっ」


 まだ自己紹介をしていなかったハトエルが元気よく名前を告げると、サラ少女のツンっとした頬がほろっと崩れた。


「ハトエル……天使の名前ね。でも、本当に天使みたい」

「えへへ~、そうですか~? 私、天使みたいですか?」

「ええ、もう、本当に。はぁ~……かわいい」


 早速というかナチュラルにハトエルの頭をナデナデして頬をふにふにするサラ少女。

 ロリコンの変態め。勝手に人の愛娘を無遠慮に愛撫してくれやがって。


「おいロリコンエルフ。父親の前で娘に淫らな事すんな」

「はあ?! これのどこが淫らなのよ!」

「お姉さん、気にしないでください。パパはいつも口が悪いだけで悪気は無いんです」

「それは悪質ね」


 俺には嫌悪感いっぱいのガンつけ、そしてハトエルにはデレデレ笑顔を向けてナデナデを継続するサラ。しかし、何か思い出したのか、ハッとして名残惜しそうにハトエルから手を離した。


「そうだ、こんな事してる場合じゃなかったわ」


 そう言って、さっきと同じようなキツい顔つきに戻った。


「あんた達、何しにここへ来たの?」

「見りゃ分かるだろ。楽しい紅葉狩りだ。家族団欒の一時を邪魔しないでくれよな」

「いや、今は秋じゃないし……ちょっと待ちなさいよ。え? もしかして、アイリ。あんたが奥さん? えっ、その歳で母親でしかもハトエルは九歳くらいありそうだし……何歳で産んだの?」

「ち、違いますよ。私は未婚ですっ」

「ふ、恥ずかしがる事ないぞアイリ。そうだ、俺らは熱々オシドリ夫婦だ。どうだ、理想的な家族像が羨ましいか?」

「もうっ、ノゾムさん!」

「てのは冗談で、アイリは再婚相手の後妻だ」

「それも違います!」


 羞恥か怒りか、アイリが顔を真っ赤にしたので冗談はほどほどにしておいた。


「真面目に答えると、俺らはクエストに来てるんだよ」

「クエストに?」

「ああ。最近ここらにモンスターが頻繁に出没してるようなんでな。王家から駆除して欲しいって依頼がギルドから来てるんだ」

「そう……」


 サラは何か考えているようだったが、真面目な顔でこんな事を言った。


「あんた達、ここら辺は危ないから村へ戻りなさい」

「なんだよ藪から棒に」


 山道の先を指差すサラ。


「さっき上の方でモンスターの集団を見かけたわ。このまま進むと鉢合わせになるわよ」

「ほう。ネギしょったカモどもが行進中か。よし、ボーナスステージだぜえ」

「馬鹿っ! あんたらにどうにか出来る数じゃないって言ってるの!」


 叱りつけるようなサラの剣幕。


「いい? この間バングリズ一体に全滅しかけたあんたらなんかじゃ手に負えない数が居るのよ。ここは山中だし、圧倒的に不利なフィールドよ。馬鹿でも引き際くらい分かるでしょ?」

「おい、さっきから馬鹿バカ言いやがって。暴言も大概にしやがれ、毒舌ツンデレおっぱい馬鹿エルフ」


 ──ゴスッ──


「ぐぼおっ?!」


 サラちゃんの素敵な笑みが見えたと思った次の瞬間、鳩尾に鋭い衝撃が突き刺さった。


「ぐごご……」

「ごめんなさ~い。あたしにも我慢の限界ってのがあるの~。ついプツっときちゃって~」


 このツンデレエルフめ。理不尽暴力系ヒロインでもあったか。


「ぐ、ぐぅ……た、ただの高飛車ツンデレかと思ったら絶滅危惧種の天然記念物だったか……なるほど、冷静な思考力と寛容な精神はその胸に養分として溶け込んじまったんだな。可哀想に」

「離しなさいっ、アイリ! こいつボコボコにしなきゃ気が済まないわ!」

「お、落ち着いてくださいっ、サラさんっ」


 またまた暴力をふるってきそうなサラをアイリが何とか押さえてくれた。


「ともかくっ! ここから先は危ないわ。早く帰りなさい」


 アイリの手を振りほどき、俺の事を睨んでくる。


「命あっての物種でしょ? こっちは諦めて、また別の所へ行けばいいじゃない。他にもクエストはあるんでしょ?」

「なんだ、怪しいな。まるでこの先に行かれるのが不都合みたいだな」

「べ、別にそんな事はないわよ」

「いーや、嘘だね。お前みたいなツンデレは言葉に嘘を重ねても面には本音が現れる。何か隠してやがるな?」

「っ?!」


 どうやら図星のようだ。

 となれば──


「あっ! 分かったぞ!!」

「!!」

「さてはお前……」

「っ……」

「この先でこっそり捨て猫か捨て犬飼ってるな?」

「…………は?」


 きょとんとするサラ。ポーカーフェイスが上手いじゃないか。


「ふ、とぼけても無駄だぜ。本当は可愛い物好きなのをバレたくない一心で、隠れて山中で子猫とか子犬を大事に育ててるんだろう。そして、今から楽しいオヤツタイムでも開いてたっぷり可愛がる……違うか?」

「え。あー、えーっと。うん、まあそんなとこ」


 素直に認めやがったな。俺の勝ちだ。


「くくくく! 負けを認めたな!? お前のようなクールを装ってる系のツンデレには致命的な情報漏洩だ! 弱味を握ってやったぜえ」


 何とも言えない顔で困惑しているサラ。俺に全てを言い当てられて狼狽しているようだ。

 この隙に俺らの関係性をきっちり築き上げてやる。


「さあて、サラちゃん。この事を黙って欲しかったら2000リルク払うか、俺のメイドとしてご奉仕するかだ。選ばせてやる」

「パパ! またそんな訳の分からない脅迫して!」

「そうですよノゾムさん。サラさんは普通に山道の危険性を教えてくれてるだけですよ。ここは素直にお礼を言って帰りましょう?」


 ちっ。どいつもこいつも俺に味方しねえ。


「お前ら、こいつは顔を合わせる度に俺の事を馬鹿って言ったり腹パンしてくる暴力系ヒロインなんだぞ? そういう奴はだな、しっかりイニシアチブを握ってやるんだよ。俺に楯突いてこねえようになぁ」

「何を言ってるか分かりませんが、サラさん気にしないでください。パパの言葉を一々気にしてたら人生が破滅します」


 人を疫病神みたいに言いやがって。


 なんか妙な表情のままのサラにアイリが優しい言葉を投げ掛ける。


「飼ってるペットの事は誰にも言いません。だから安心して可愛いがってあげてください」

「え、ええ。あ、いや、えっと……」

「さ、ノゾムさん。ここは引き返しましょう。街道でもクエストは出来ますし、やはり山道での戦闘は不利です。サラさんも困ってるみたいですし」

「おいアイリ。ここは私有地じゃないだろ? 俺がどこへ行こうと俺の勝手だ」

「そうですけど……無理に押し通るほどの理由もないでしょう?」


 せっかく登山装備を固めてきたってのにな。

 だが、山登りが思ったよりダルいし、これで戦闘してまた下山しなきゃなんないかと思うと途端にめんどっちくなってはきたな。


「ちっ、まあいいか。けどなツンデレエルフ。お前の弱味を忘れてやった訳じゃないぜ? 次に僕への悪口を言う時は気をつけたまえ。でないと君のイメージをうっかり滑落させちゃうかもしんないからなー?」

「勝手にすれば? バーカ」

「んだとこのツンデレ! 分からせてやろうか? ああん? 服脱がすぞコラ」

「ノゾムさん……」

「もうっ、パパはお馬鹿さんです! アイリさん、構う事はありません。こうなったらパパを強制下山させましょう!」


 アイリとハトエルに引っ張られる。


「くそ、覚えてろよツンデレエルフ! いつかお前の正体を暴いて、うんっと恥をかかせてやるかな!」

「パパはどうしてこんなにも心が狭いんでしょう……。少しはホープを見習ってください」

「そうですよ、ノゾムさん。ホープみたいな素敵な子を見習えばもっと良い人になりますよ!」

「はぁ? 見習うも何もあいつは……いや、あんなん見習いたくもないね」

「ノゾムさん! 魔法少女の素晴らしさが分からないんですか?! いいでしょう、下りながらたっぷり聞かせてあげます!」

「それは勘弁してくれ……」



 変な視線で俺らを見送るサラに、ハトエルとアイリが手を振って別れを告げた。




お疲れ様です。次話に続きます。

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