70話──南へ東へ西へ、んで北へ
「はぁ……」
「望さん~、そんなにため息ばかり吐かないで。幸せが逃げていってしまいますよ?」
「不幸の根源が偉そうな事ぬかすな」
「なんで?!」
ギルド提携の馬車に乗りながら、北の山を目指す俺とハトエル。
お使い場所は所要時間30分ほどのヌーンタイド山だ。
「たく。南へ行って、東へ西へ。んで今度は北かよ」
「すごいですね! 東西南北制覇! 望さんは王都の守護者ですね!」
「黙ってろ」
「冷たくないですか?!」
これが観光旅行なら俺も少しは楽しめる。だが、今さっき王女様からの手厚~~い手当てを頂いた後でのオーダーではやる気なんて起きん。
「何が東西南北制覇だよ。あーあー、それが三枚ずつありゃあ大好きな寿司なのにな~」
「??? また壊れちゃったんですか、望さん」
「黙ってろ、フリ天使」
「??? フ、フリ天使?」
あまりのやる気の無さに脳死で訳分からん事を口走ってしまった。
アルメいわく、北の山の頂には歴史的価値ある神殿があり、麓にはそれを管理するミッディ村が存在するそうだ。
その近辺にモンスターがやたら出現するようになった。ついここ二、三日の事らしい。
時期からしても帝国軍の仕業とも考えられ、万が一のために調査して欲しいそうだ。
「要するにだ。ただのモンスターの大量発生で、帝国軍に関係なさそうだったらそのまま帰っていいって事だよな?」
「そうですけど、どちらにしろ村の人達が困ってるはずです。ここは魔法少女らしく、愛と平和のためにモンスターを倒しましょう」
「……しばくぞ」
「なんで?!」
今の俺は絶賛不機嫌荒くれモード中なんだ。そこへクソボケ頭フラワーガーデンな事を言われると殺意が湧いてきちまうぜ。
「望さ~ん、そんなにヘソ曲げないで。ね?」
「こんな冷待遇受けてヘソ曲げねえ奴の方がヘソ曲がり野郎だ」
「も~。しょうがないなぁ」
ゴソゴソっとポケットに手を突っ込むハトエル。
「なんだ、パンツでもくれるのか?」
「あげません! そんなエッチい事しません! そうじゃなくて、これ」
コロンっと丸い紙の塊が俺の手に乗せられた。
「なんだこれ?」
「あめ玉です。王女様がくれたんです。おやつにどうぞって」
「……安く見られたもんだな」
紙がくっついて剥がしにくいが、口に放り込んだ瞬間ハチミツのトロリとした甘さが広がった。
「あめー。うめー」
「ほんふぉれふね、おいひいです」
隣でニコニコしながらコロコロ飴を転がすハトエル。
「ほら、こういう冒険も悪くないでしょ?」
「飴玉で買収される冒険がか?」
「そうじゃなくて~」
笑ったり、困ったり、最後はやっぱり笑うハトエル。
「こういう小さな幸せを味わいながら、天使と旅する冒険です」
「……」
天使と旅ねえ。
それはあの世への片道って事かね。
「ま、元からあの貧乏姫には期待しても仕方ねえからな。怒る方が野暮ってもんか」
「素直じゃないけど、偉いっ。アメもう一つあげますね」
二人してコロコロ飴を舐めながら、馬車に揺らされる。
麗らかな陽気と、伸びやかな空。ゆったりした風が流れてきて、頬を撫でていく。
まあ……。
確かに悪くないな、こういう冒険も。
なぜだか知らんが、懐かしいような感じさえしてくる。
飴が底をついた辺りで目的地の村に到着した。
「へえ、ここがミッディ村か」
少々雰囲気が今までとは異なる村だ。入り口の門から山へと一直線に伸びた大通り。それを挟むように左右に建物が規則正しく並んでいる。
どれかというと、西部劇に出てくる決闘の舞台になる町のようだ。
「なんか土産屋っぽいのが多いな」
「はい、それにお宿も多いみたいです」
「ここは観光村だからね」
俺らを送ってくれた御者のおっちゃんが言う。
「あの山の頂上には神殿があって、昔から巡礼に来る人が多くてね。それで、元々は登山する人間のための山小屋とか管理小屋的な施設しか無かったんだけど、そこに目をつけた商人が出店するようになってね。時を重ねてどんどん発展したんだ」
「ほー、なるほど。詳しいな」
「御者は観光案内も仕事の内みたいなもんだからな。じゃ、頑張ってな」
馬車が去っていき、俺とハトエルで村へと入った。
村は活気があり、多くの旅人らしき人間や兵士で賑わっていた。
旅人はおそらく観光やら冒険者なんだろうが、兵士はモンスター事案に対応するために割り振られた戦力だろう。
「少し仰々しいな」
「すでに近隣で事件が立て続けに起きてますからね。王女様が迅速に対応したのでしょう」
とは言え、そこらを行く人々からはあまり悲壮感や緊張感は感じない。
村の奥の方に大きめの古い建物が見える。おそらく、御者が説明した最初の管理施設だろう。
「楽しそうなお土産店が多いですね。あ、お面屋さんだっ。新しいお面買おうかなあ」
「あのひょっとこ面でいいだろ。似合ってるぞ」
「えへへ、そうですか~? かわいいですか」
アホっぽいって言いたいんだが、通じてねえな。
「ふーん。なんか俺がガキの頃に行った山にも似たようなのあったな。麓に屋台とかズラーっと並んでるんだ。信仰のある山だから、登山客が多くてな。どの世界でも人間の考える事は変わんねえんだな」
「信仰心が全世界共通なのは良い事です。後で私達も神殿に行きましょうかっ」
「断る」
この歳で登山なんかまっぴらだ。
「んな事よりとりあえずギルド行くぞ。簡単な依頼を受けつつ、帝国軍の仕業かどうか調べてみる」
「はい。今日も頑張りましょうね!」
ギルドマークを探してみると、すぐ近くにあった。
「お、早くも発見だな」
「今回は二人だけですからね。気をつけていきましょう」
「だな」
今日はアイリも居ないからクエストは無難な物に限られる。薬草の採取クエストがあればいいんだが。
「あーあー。こんな事になるなら初めからアイリを連れてくるんだったな」
「それ良いアイディアですねっ。王女様も魔法少女に関しては深い愛情があるみたいですから、今度はアイリさんも交えて魔法少女トークなんて楽しいかもしれません」
「んな事したら俺が魔法少女だってバレちまうだろう」
「あ、そうでした。危ない、あぶない。アイリさんの夢を壊す訳にはいきませんよね」
間違ってねえけど、腹パンしてやりてえ。
「けど、アイリさんが居ないと寂しいですね」
「まあな。あいつは戦力になるのはもちろんだが、やっぱあの容姿よ。異世界美少女。まさに異世界転移物の醍醐味だもんな。この世界で唯一俺の癒しになってくれる貴重な人間でもある」
「むう。私は癒しじゃないんですか?」
「お前は疫病神だ」
「ひどいや、ひどいや~!」
このポンコツ天使じゃなくて、アイリが俺の相棒だったらなぁ。
と、アイリちゃんに想いを馳せている時であった。
「あれ? ノゾムさん、ハトエルちゃん?」
「ほら、アイリは声まで癒しだ。分かるだろハトエル。お前との差ってやつが……ん?」
あれ、今アイリの声が。
思わず振り向く。すると──
「お二人もこの村に来てたんですね」
「アイリさんっ」
そこには能天気聖人こと、異世界美少女冒険者アイリが居た。
「アイリ! やはり俺の想いに応えて来てくれたか!」
「え?」
「いや~、そうかそうか! やっぱお前は違うと思ってたぜ。よっ、この頭フラワーガールの能天気聖女!」
「の、能天気って……」
「パパ! どうして貴方はいつもいつも余計な言葉を紡ぐんですか!」
アイリがパチパチと目を瞬いて俺らを見比べる。
「お二人とも、もしかしてここの緊急クエストを見て来たんですか?」
「あ? 緊急クエスト?」
「はい」
アイリがなぜここに来たかと言うと、王家がギルドに要請しているモンスターの駆除依頼の話を聞き付けたからだ。
「正直迷ったんですが、回復役の冒険者は数が不足しているので私でも役に立てるかなと思いまして」
「おいおい、まーた他人のためかよ」
「はい。自分でも変だなとは思うんですけど、何故かじっとしてられなくて」
「……」
早死にするタイプだなと真面目に心配になってきたぜ。
「それなら話は早いです! アイリさんっ、私達と一緒にクエストしませんか?」
渡りに船な展開にハトエルが勢いづいて申し出ると、案の定というかアイリが頷いた。
「うん。私なんかでよければ」
「なんかなんて事はないぜ。万人力だ」
こうして、俺らは再びパーティーを組む事となった。
お疲れ様です。次話に続きます。




