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69話──そろそろ堪忍袋の緒が切れるぜ

 





 ──チャリ、チャリ、チャリン……──


「…………」

「私のお小遣いから捻出した分と、幼い頃に使っていた貯金箱に残っていた分を合わせた物です。少ないかもしれませんが、どうか収めて──」

「……うおおおおいっ! 王女様よおおお?!」

「きゃああっ?!」


 思わずアルメの両手首をガッチリ掴んだ。無理やり襲ってるようでオスの本能が刺激されるぜえ。


「ボーナスがたったの1000リルクだあ?! バカにしてんのかコラあぁ!」

「ご、ごめんなさいっ。今の私にはそれがやっとでしてっ……」

「の、望さんっ、落ち着いてください!」

「これが落ち着いていられるか!? 俺の命を危険にさらし、アイデンティティーを生け贄に捧げてあんなふざけた格好であれだけの活躍してんのに、1000リルクだとお?!」


 わざわざ。わざわざ、この魔法少女様(♂)を呼び出してお礼したいだなんて言いやがるから、どんなボーナスが待ってるかと思いきやたったの1000リルク。ギルドの報酬レートでいけばドブネズミ50匹分。ハトエルの好物のわたあめなら30本分。我慢して入れなかった異世界大人のお風呂屋さんなら1/4回分だ。



 ふざけてんのか。


「オイオイオイオイぃっ、アルメちゃんよお!? 最初に貰った金にこれ足しても一ヶ月の生活費にすら届いてねえぜぇー?! もしかして、僕、馬鹿にされてんのかな? どうせこいつ怒ってもライフラインはこっちが握ってるし、とか考えてるのかな? 僕みたいなアラサー独り身お兄さんなんて安給料で社畜のごとく働いてくれるだろうって見積もられてるのカナ? カナカナカナカナカナッ、わっとぅどぅーゆーミーンッ、ミン、ミンミンミンミンミーンッ、こんなのつくづく嫌になるぜっ、ツクツクボウシ、ツクツクボーシッ」

「の、望さんが壊れちゃった……」

「も、申し訳ありません……」



 茶を飲んで、なんとか落ち着いた。


「王女様よぉ……あんたには分かんねえだろうなぁ、男の身でありながらあんなハートでキュンキュン、フリフリぽわわ~んな服を着ながら良い子ちゃんぶる人間の気持ちがよぉ……性転換と若返りのダブルメタモルフォーゼのせいでゲロ吐きまくる苦しさがよお…………」

「……あの……本当にありがとうございます。大変な苦労をされてるにも関わらず、戦ってくださる事、私の我が儘でもある魔法少女像を守る振る舞い、どちらも本当に心から感謝してます」

「言葉なんて重ねてもよ、いくらにもなんねえんだよ。目の前に金貨の山を重ねてくれ……」

「ぜ、善処いたします」


 当分は金は当てになりそうにない。


「はぁ。仕方ねえなぁ。なら王女様、いや、アルメちゃん。金以外で別の形で報酬を払って貰おうか」

「はぁ。と言いますと?」

「お、おいおい。俺の口から言わせるつもりか?」


 王女はどうしようもない貧乏王族の、ひもじいプリンセスだが、身体は全く貧相ではない。面だって良い。極上玉だ。


「あ、あの。ノゾムさん。そんな目で見られても、流石にそういった事は……」

「ほ~ん? 金は無いから仕方ねえとして、払える手段があっても払う気は無いと?」

「あ、いえ、あの……」

「くっくっく。選ばせてやるぜえ、王女様ぁ。毎日3000リルク払うか、それとも俺のご奉仕メイドとして奉公するか」

「メ、メイドに?」


 こんな美人メイドに世話してもらえたなら異世界生活も悪くない。


「そうだ。当然、ご主人様の命令には絶対だ。朝のお目覚めのチューはもちろん、昼寝の膝枕、それに風呂ではお背中をお流しし、夜は……ぐふふふ」

「そ、それは…………しかし……もし、それで良いのでしたら……」

「マジで?! 話が早ええ! よーしっ、それで手を打とっ……ぐぼおっ!?」


 物凄く良いところでまたまたハトエルによるエンジェル天罰。


「王女様っ、まともに相手しなくていいんですよ! この数日間望さんと一緒に居てよーく分かりましたが、この人は弱味に漬け込んで図に乗るタイプです!」

「は、はあ。しかし、本当に何でそんな人が魔法少女なのでしょう?」

「むむっ……。それを言われると困ってしまいますが……」

「お、俺が、聞きたいくらい、だ……」


 回復してからたっぷりハトエルにお仕置きしてやった。



「はぁ~……まあいい。王女様、あんたも今は金欠なんだもんな。無い袖は振れねえし、怒ったって仕方ねえよな」

「申し訳ありません……」

「王女様、気を落とさないでください。望さんはこんな事ばかり言ってますが、本当はとっても良い人ですから」

「え……」

「おい、ハトエル。王女様がついにお前に対して『え? 何言ってんの、この腐れアンポンタン天使。病院に行って脳ミソ摘出手術して貰った方が良くない?』って顔してるぞ」

「ボロクソ過ぎません?! て言うか、王女様はそんな事言いませんっ、思いません!」


 しかし、こればかりはアルメの反応に同意だ。このバカ天使は人を見る目が壊滅的だ。

 ついでに、ここには居ないが能天気聖人アイリも同じく観察眼が腐ってる。


「まあ、思った程のご褒美はなかったけどよ、あんたが苦労して用意してくれたのは分かった。ありがたく貰ってくわ」

「はい。ぜひお納めください」

「んじゃ、とりあえず茶でもしばきながら俺の武勇伝を語りますかね。何から聞きたい? 湖で蟹パーティーした話か、筋肉ダルマのオニックスをボコした話か、栄養失調野良犬のジェイドをボコした話か」

「例の四天王と呼ばれる人物達ですね」


 アルメが神妙な面で頷く。


「一人一人が強大な力を有した一騎当千の猛者。彼らに対抗できるのは我が国では勇者くらいでしたが……それを二人もあっさり撃退してしまうなんて。魔法少女の力は凄まじいですね」

「ああ。けどよ、魔法少女なのに魔法使えねえのは何でなんだろうな」

「え? そうなのですか?」


 驚くアルメ。


「では、一体どうやって四天王達を倒したのですか?」

「望さんは全部素手で倒してるんです」

「す、すで?」


 今度は間の抜けたような声を出して驚く。


「魔法少女が素手で敵を倒すとは……仕方ないとは言え、少しイメージが……そんな野蛮な方法ではなく、他に何か無いのですか?」

「いいだろ別に。魔法を使わない魔法少女くらい百人に一人くらい居るだろ」

「しかし、子供が見てマネでもしたら……」


 PTAみたいなクレームつけるな。


「天使様、何とかなりませんか?」

「うーん……。でも、魔法を使えば体への負担も大きいですし、問題ないなら今のままの方が良いかもしれませんね」

「そうですか……仕方ありませんね。そこはノゾムさんのやりやすいようにお任せしましょう」


 金は払わねえくせに態度が大きいぜ。


「他にも、正体不明のモンスターが出現し、魔法少女が倒したとも聞きましたが……」

「ああ、イクリプスか。四天王の奴らが出してくる化物だ」


 どうやって召喚してるかは分からないが、あの妙な水晶が関係してそうな事と、コアさえ破壊すれば倒せる事をアルメに説明した。


「なるほど。帝国はそんな魔術まで開発していたのですね。しかし、それさえも倒してしまうとは」

「ま、これが俺の実力よ。んじゃ、報告はもういいか? いいならもう帰るぞ。今日もクエストせにゃならんからな」

「あ……あの~……。実はそれにも関係のあるお話がありまして」


 と、王女がなんだか申し訳なさそうな感じで言った。


「実は、北のヌーンタイド山近くでモンスター達が活発に活動しており、大量発生のレベルに到達しそうなのです。ヌーンタイド山の山頂には歴史的価値もある神殿があり、ここへモンスターによる被害が出ると困り……」

「そうか。大変そうだな。頑張れよ」

「兵は各要所の守りを固めており、人数を割ける状況ではなく……。しかし、モンスターの異常な数からして帝国が関わっているかもしれません」

「物騒な世の中だな」

「……ですので、ぜひノゾムさんに調査へ赴いて欲しく……」

「……ふ、ふふふ。王女様。あんたのその厚かましい神経は尊敬するぜ。今さっき報酬に関して腸が煮え繰り返ってたのをなんとかなだめたってのに、また煮たってきたぜぇ」

「も、申し訳ありません……」

「意地悪ばっか言ってないで、行きましょうよっ。王女様、安心してください! 私達がなんとかしてみます!」



 こうして。


 晴れて俺はまたタダ働き同然に王女の使いっぱしりをする事となった。


お疲れ様です。次話に続きます。

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