68話──ボーナス招待
──チュンチュン、チュン……──
「う~ん……」
小鳥のさえずり。朝だ。
「ふぁ~…………よく寝たぁ」
俺は朝は苦手なタイプだが、今日は気力が充実してるのが分かる。体にエネルギーが満ちている感じだ。
「おお、今日はなんかやる気がみなぎってきたぜ」
昨日、美味しい食事を腹一杯食ったからだろうか。
身支度を整え、居間に入ると既にハトエルが飯の支度をしていた。
「おはようございます、望さん」
「よ、朝飯は何だ?」
「昨晩の残りになってしまいますが、パンを細かくしてボルボーロに浸して、チーズを乗せてオーブンに入れた物です」
「ほお、グラタンみたいなもんか。美味そうだな」
昨晩の残り物を上手くアレンジして、違う料理へと改良するハトエル。
「何点ですか?」
「うん。なかなかだ。78点」
「花丸くださいよ~」
昨日は有意義な一日だった。アイリは昼飯だけではなく夕飯まで作ってくれ、三人でたらふく食ったんだ。
アイリはアイリで、普段は母親と二人っきりだから三人の食事は賑やかで楽しかったらしい。張り切って多めに料理を作ってくれたので、残飯が出た。
この家には冷蔵庫が無い。(一応、似たようなマジックアイテムは存在するらしいが、一般家庭はあまり所持してないそうだ)だから、作った物はなるべく早く食うに限る。朝飯は残飯アレンジだ。
だが、それでも元の料理が美味いからか今朝の飯はかなりイケる。
飯も終わり、また日稼ぎ労働の始まりだ。
「さて。また金を貯めねえとな。ハトエル、この後すぐにクエスト行くぞ」
「はいはーい。じゃあ、洗い物済ませちゃいますね」
皿や鍋を持って外へ行くハトエル。
台所には流しもあるにはあるのだが、小さいし水は出しっぱなしに出来ないので、皿が多かったり大きいと洗いにくい。
そんな時は洗濯用に使ってる外のたらいが一番便利だ。
「さてと、一応、剣でも研いでおくか」
──パタン──
「望さん」
「ん?」
外へ出たハトエルがすぐに戻ってきた。
「どうした? さっさと洗ってこい、置いてくぞ」
「いえ、王城から執事さんが迎えに来てます」
「なに?」
言われて外を見ると、小さな馬車が庭先に停まっていた。
──ゴトゴトゴトゴト……──
「お待たせ致しました」
馬車が止まり、外へ出る。王城内の裏庭だ。異世界初日に来た場所だ。
「アルメ王女の元へご案内致します。どうぞこちらへ」
「おう、頼むわ。えーっと……セ、セバスチャン」
「オーネットでございます」
「そうそう、オーネットさん」
秘密の裏口から入り、城の中を歩く。
急に迎えが来て、王城に呼び出されたから何かと思ったら、最近の俺の活躍を受けてアルメからお礼がしたいとの事らしい。
サンセットレイクの一件から、市場、砦とたまたま居合わせて戦っただけなんだが、結果的には多くの人命と拠点を守ったという事で、アルメから非公式ながらご褒美が出るそう。そう、ボーナスだ。
ついでに、これまでの戦いの詳細なども直接聞きたいとの事だ。
まあ、俺もタダ働きする気は無いからな。この機会にたっぷりとボーナスをふんだくってやる。
歩きながらオーネット爺さんが話しかけてくる。
「お二人のご活躍は私めの耳にも届くところでございます。大変な戦いを制しておられるようですな」
「はいっ。でも、活躍してるのはホープこと望さんです。本当に凄いんですよ!」
「はい。噂では、空を飛びながら湖の水を飲み干し、蟹を百人前は平らげながらモンスター達を屠り、傷ついた兵士達を愛くるしい姿で癒し、砦ほどの熊を素手で塵にした後、続けて四天王を握手しただけで満身創痍にし、その後に兵士達を可憐な姿で魅了しながら空へと飛んでいったとか」
「なあ、情報元どこだ? 多分なんだが、それは別人の活動記録だぞ」
「おや、そうでしたか……?」
つうか、歪曲し過ぎていて俺が化物みたいになってるんだが。
「噂ってすげえな。大目に見ても二割くらいしか真実が伝わってねえぞ」
「そうですね。本当は望さんがカッコよくて、かわいくて、すんごい強かったのに~」
「可愛くては余計だが、まあそんな感じだ」
「やはり人伝の話は正確性に欠けますな。ぜひ、ご本人であるノゾム様より王女へお話をして下さいませ」
そんな世間話をしてる間に、転移初日ぶりの王女の部屋に着いた。
オーネット爺さんがノックする。
──コンコンコン──
「ノゾム様とハトエル様をお連れいたしました」
『どうぞ、中へ』
オーネットがドアを開け、中へと入る。
「ようこそ。急なお呼び出しで申し訳ありません」
アルメが立って迎え、オーネットはそのまま一礼して出ていった。
「さあ、こちらへ。気の効く物は何もご用意出来ておりませんが、心ばかりのお礼を……」
「ああ、気にすんな。お前が没落した貧乏王女なのはよーく弁えている……ぐぼぅ!?」
鳩尾にボーリング玉の入ったような衝撃。ハトエルの必殺技、エンジェルヘヴン・ヘッドスピンアタックだ。
「ぐ、ぐおぉ……」
「望さん! せっかく王女様が招待して下さったのに失礼ですよ!」
「こ、このクソガキ!」
逃げようとしたハトエルをひっ捕まえて、こちらも必殺技、ボーリングドリル・エクスキューズをお見舞いしてやる。
──グリグリグリグリ~ッ──
「わままま~っ! うわ~んっ! また暴力だ~!」
「このクソバトロリが~!」
「……相変わらす元気そうで安心いたしました」
アルメが柔らかく微笑んだ。
「どうぞ。天使様にはホットミルクとチョコレート。ノゾムさんには紅茶とクッキーです」
「ありがとうございますっ、王女様」
「へえ、財布の底が干からびてる割には気が効くな。この紅い茶は自分の血でも絞って淹れたのか?」
「もう、望さんったら。どうしてそんな失礼な言葉がポンポン出るんですか」
「忘れてねえだろうなハトエル。俺が毎日ドブネズミやクソナメクジどもと死闘を繰り広げるはめになったのは、そもそもコイツがまともな資金を提供しなかったからなんだぞ」
「もうっ、一体いつの恨みを未だに抱えてるんですか! その後、寝込んだ私達を看病してくれたじゃないですか!」
「あんなんでチャラになると思うなよ?」
アルメは苦笑いを浮かべて頷いた。
「言い方はともかくとして、言い分は間違っておりません。その件については私も申し訳なく思っています」
「ほう、話が早い。んで? そんな待遇にも関わらず、各地で獅子奮迅、八面六臂、一騎当千の大活躍をしてる俺に、相応のお礼を用意してくれたんだろうなぁ?」
アルメは困った顔で頷いた。
「は、はい。噂は私の耳にも届いております。ノゾムさん──魔法少女の凄まじい活躍は兵士の間だけでなく、市井にも広まりつつあるとか。しかも、ちゃんと魔法少女のイメージを汚さずに戦っているとも……」
「おう、その通りだ。ちゃんとやんねえと支援を断ち切るなんて脅迫受けてるんだからなこっちは。我が身を人質に取られてのぶりっ子は辛いの~?」
「そ、それは……ですが、私も一国の王女。ノゾムさんが約束を守っているのなら、相応の対価は何とか工面いたします」
「当たり前だ、んなもん。こちとらやることはキッチリやってんだからな。けど、お前さんの支援は見合ってねえぞ~? アルメちゃんよ~、お前さんは言わば俺に借りがあるんだ。まだ最低ラインにも達してない事を自覚してもらわにゃな?」
「うぅ……」
「こらーっ! 望さん!」
──ボゴオッ──
「ぐっぼおおっ?!」
突然脇腹に刺さった鈍い衝撃。ハトエルのヘッドアタックが、俺のレバーを殺しにきた。
「ご、ごごがぁ……」
「王女様が涙目になってるじゃないですか! 少しは女の子に優しくしようっていう気持ちがないですか?!」
「こ、この、やろう……」
く、くそ。毎回毎回、変身によってダメージを受けてる臓器にクリティカル入れやがって。
「う、うぐぉ……い、今のは効いた……こ、このクソ馬鹿天使が~……」
「王女様、望さんもしばらくは大人しくなります。お話を続けてください」
「ありがとうございます天使様。私めのために……感謝してもし尽くせません」
俺にも感謝しやがれ……。
「しかし、ノゾムさんの言う事はもっともです。例え侮辱されようとも、それは当然の報いです。私の事はお気になさらないでください」
「なんて健気なんでしょうっ。ほら、望さん! こんなに一生懸命やってくれてるんだから、茶々を入れないで話を聞いてくださいね」
「ちっ。分かったよ」
仕方ねえ。とりあえず……。
「そのお礼って奴を早速貰おうか?」
「はい……こちらに……」
アルメが小さな箱を出した。
お疲れ様です。次話に続きます。




