67話──変わった三人
「あれ? あんた達……この間砦の近くで会った……」
「あっ、思い出したぞ。お前はあの時のツンデレエルフ!」
そうだ。砦近くで遭遇したツンデレエルフだ。
「ふっ、奇遇だなツンデレエルフよ。もしかして早速デレをかましに来たのか? 寝る前の素直シュミレーション特訓が活きるといいな」
「あんたの言ってる意味は全く理解出来ないけど、馬鹿なのとムカつくって事は間違いなさそうね」
「ふ、オーケー、オーケー。その口から出るトゲの裏に秘められた甘い香り。俺の世代には直撃のヒロイン風味だぜ。ガキのくせに色気付きやがって」
「ねえっ、殴っていいっ?!」
「ま、まあまあ。ノゾムさんはたまに変な事を言いますが悪い人じゃないんです」
ピキピキとキレゲージを上げ始めたツンデレ少女をアイリが諭す。
「えっと、サラさん、ですよね。こんにちは」
「ええ、貴女はえっと……アイリ、だったかしら」
相手のツンデレ少女ことサラが頷く。
「奇遇ね。まさかまた会うとは思わなかったわ」
「はい。あ、あの。杖の件は本当にありがとうございました」
「いいわよ別に。大した事ないわ」
つっけんどんなとこが典型的なツン加減だ。
「……」
「ん?」
と、サラのツンデレ具合に懐かしき既視感を覚えていると、別の視線が俺に刺さってる事に気づいた。
サラの連れ。チャラ男君がガンつけるように睨んできていた。
なんというか、ただのチャラ男君というよりは野獣じみた感じっていうか、そういう野蛮な野性味を感じる。例えるなら、いつも血に飢えた狼。そんな印象だ。
そんなチャラ男くんがじーっと観察するように俺を無遠慮に見てくる。
「お前、どっかで見たような……」
「オイオイ、俺に野郎の趣味はないぜ。そんな熱い視線は遠慮してもらおうか」
「俺だってんなモンねえよ。気持ちわりい」
自分から俺の事見つめてきたクセに失礼な奴だ。
「いーや、絶対に俺の事を性的に見てたね。いやらしい目しやがって。お前みたいなのがこっそりと頭ん中でこっちのツンデレエルフの事脱がしたり押し倒したりしてるんだよ」
「はあ?! アンタそんな事考えてんの!?」
「んな妄想するか!! 馬鹿じゃねえのか?!」
取り乱すサラ。そして、チャラ男君はプッツンしちゃったようだ。
「てめえ、喧嘩売ってんのか?」
「ちょっと、止めなさいってば!」
グルルと野犬のように歯を剥き出しにするチャラ男をサラが制止する。
「気持ちは分かるけど、ものすっごい分かるけど! こんなとこで喧嘩なんかして騒ぎ起こさないでよね!」
「チッ……うるせえな、分かったよ」
男がギロリと睨んでくる。
「運がよかったなあ、クソ野郎。俺は忙しくてな。今はテメエみたいなカスを相手になんかしてらんねえのさ」
「カスだとおー?! 人の事カスって言う奴がカスなんだぞ、このカスが!」
「んだとコラぁ?!」
「やーいっ、カスっ、カス~!」
「ちょ、ちょっと、ノゾムさん止めてください。大人気ないですよっ?」
弁舌でけちょんけちょんに貶してやろうとしたところでアイリに止められた。
「もう、駄目ですよ? ノゾムさんは人にザクザクと刺さるような事を言ってしまいがちです」
「アイリ、お前はどっちの味方なんだ?」
「も、もう。味方とかそんなのじゃないです。とにかく、仲良くしましょう?」
向こうでチャラ男を制していたサラが疲れたようにため息を吐く。
「ほんと、男って馬鹿だから一緒に居ると苦労するわねアイリ」
「あ、あはは。いえ。ノゾムさんはこう見えても良い所もありますから」
「こう見えて。こう見えてもかぁ。お兄さん、ちょっと凹んじゃうぞ」
「ケッ、勝手に凹んでろオッサン」
「オッ……?! このチャラ男おぉ~! いかにも考え無しで先走って失敗ばかりしそうな頭軽野郎のクセに~!!」
「んだとこの野郎!? ぶっ殺す!!」
「だから止めなさい!!」
「ノゾムさん!」
野郎二人して少女達に怒られて、とりあえず停戦となった。
「まったく。遊びに来てるんじゃないわよ?」
「あいつが悪いんだ!」
「駄目ですよ。仲良くしなきゃ」
「あいつのせいだ!」
くそ、頭軽そうなチャラ男のくせに生意気言いやがって。
俺らの熱きバトルは少女達の仲裁によって決着がつかずに終わってしまった。
『おお、居たか。おいっ、サフィっ……サラ、エド!』
──ノシ、ノシ、ノシッ──
と、そこへ。
豪胆な呼び声が、重たげな足音と共に近づいてきた。
「お前ら何処に行ってた。探したぞ」
現れたのは巨人だった。いや、まあ人間だが、いやにガタイの良い大男だった。ガッシリとした身体は肉ダルマで、オークと並べたらオークの方がグラビアモデルに見えてくるだろう。
その山のような大男が髭を擦りながらサラとチャラ男を見下ろす。
「まったく、やはりお前らは子供だな。ちょっと目を離したらすぐ迷子になる」
「アンタが でしょうが!」
迷子になったん
「お前が だろうが!」
声を揃えてツッコむ二人。
大男がノソリとこちらに視線を向ける。
「ん? 誰だお前らは……いや、どこかで見た覚えが……」
「おい、んな事よりオニッ──オックス。早く行くぞ。当分の食料は確保した」
「ええ、そうね。早いとこ帰りましょ」
大男は俺とアイリをマジマジと見つめていたが、「うむ」と言って背を向けた。
「それじゃあ、あたし達は失礼するわ。またね、アイリ」
「はい、サラさんも。また」
「おーい、サラちゃんよ。俺には挨拶無しか?」
「馴れ馴れしく、ちゃんなんて呼ばないでバカ」
「なんだとー?!」
「ギャハハッ! もっと言ってやれ!」
「てめっ、このチャラ男! 調子に乗りやがって!」
サラ、チャラ男、大男の三人は何処へともなく去っていった。
「……なんか変な奴らだったな」
「はい。でも、仲良さそうな方達でしたね」
確かに。何て言うか、不思議な関係性のありそうな奴らだった。上手くは言い表せないが、家族とか友人とかのような普通の関係とはまた違う関係のようなものを感じた。
ま、お気楽な三バカってとこだろう。この辺りに住んでるのか、それとも観光客かは分からんが、目立つ奴らだ。またその内会う事もあるかもしれんな。
「……なんだか変な気持ち」
「うん?」
もう見えなくなった三人の方を見ながら、アイリが呟くように言った。
「今日みたいに穏やかな日もある。でも、この国は戦争真っ只中。しかも帝国軍の四天王が近くに居るのかもしれない。でも、サラさん達みたいな人達がこの町には沢山居て……すみません、上手く言葉に出来ないです。えへへ」
困ったような笑みを浮かべるアイリ。
「つまり、早く戦争なんて終わって、こんな平和な日がずっと続けば良いなって思ったんです」
「……まあな」
ありふれたセリフだが、正にその通りだ。
魔王なんてさっさとぶっ倒して戦争を終わらせる。んでもって異世界のんびりスローライフを満喫した方がよっぽど良い。
少なくとも、アラサーの野郎が下呂吐きまくって、フリフリフリルのスカートとポヨポヨリボンを揺らしながら化物どもと戦う毎日よりは健全だろう。
「んじゃ、そろそろ俺のお腹の飢えを平和にしに帰ろうぜ」
「あ、そうでしたね。ふふ、ハトエルちゃんも待ってるでしょう」
家に帰ると、調理器具と火を万端にスタンバイしてハトエルが待っていた。
「お帰りなさ~いっ。アイリさん、ようこそ我が家へ!」
「お邪魔します」
「廃墟が物置小屋に進化したくらいの所だが、まあゆっくりしてってくれ」
「そんな、良い家ですよ。ノゾムさんとハトエルちゃんの愛がギュッとつまって、生活の温もりが溢れた小さな家庭って感じがして」
「要するに、狭苦しい生活空間って事だな?」
「そ、そういう訳では……」
「もう! パパ! お客さんに失礼なインネンをつけないで下さい!」
「それはそうだな」
買ってきた食材の山と、お土産のお菓子に目を輝かせるハトエル。
「わ~っ! おっきいキャンディ!」
「飯食ってからにしろよ?」
「そうでした。これはデザート兼おやつですっ。それじゃあアイリさん、今日はよろしくお願いしますね!」
「うん。こちらこそよろしくね」
アイリのお料理教室にて、メモ帳にレシピを書いていくハトエル。
二人の女の子が台所に立ってトントンっと包丁を鳴らす後ろ姿は、まるで姉妹の料理を見守ってるような気持ちにさせる。
「パパも手伝ってくださいよ」
「俺は味見が専門なんだ」
「でも、一緒に作れば美味しくなるかもしれませんよ?」
「……ま、暇だし手伝ってやるか」
やがて出来上がった料理を三人で食ったが、驚くほど美味かった。
『お母さんがよく作ってくれた料理ですから』
そう言ってはにかむアイリは、どこか誇らしそうだった。
たしかに。こんな平和な日が続いた方が良いよな。
お疲れ様です。次話に続きます。




