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66話──これってデートよな?

 




「望さん、掃除終わりましたー!」

「よし。これでOKだな」


 ハトエルと並んで、掃除したての我が家のキッチンを眺める。


「しかし、綺麗にしても元がアレだからあんましピカピカって感じじゃねえな」

「そんな事ないですって。一生懸命掃除した家はどんな豪邸よりもキラキラしてますよっ」

「んな訳ねえけど、ま、いっか」


 とりあえず、女の子の客一人を迎えるにはこんなもんだろう。


「それじゃあ、アイリを迎えに行ってくる。料理の準備しとけよ」

「はーいっ。行ってらっしゃ~い」


 ハトエルに見送られ、外へと出た。


「……なんかちょっと緊張するな」








 3日前の砦防衛戦以降、俺はアイリに手伝ってもらいながらクエストをいくつかこなしていた。


 ほとんどが大した報酬のないクエストではあったが、少しだけ自由に使えるお小遣いも手に入った。


 せっかくなのでたまには豪遊──と言っても要は美味い物でも作って食おうと思ったのだが、その話をアイリにしたところ『それなら、私も手伝いに行きましょうか?』と申し出てくれ、今日これから一緒に買い出しに行くのだ。






「……」


 ちょっと緊張してきたぜえ。


 いや、アイリ的には普通に善意で俺やハトエルを手伝ってあげようくらいのつもりなんだろうが、俺からしたら可愛い年頃の女の子が家に遊びに来るなんてイベントは、ゲームでしか経験した事のないシチュエーションなんだ。


「まったく、真面目そうな面してなんて小悪魔なんだ。おじさんを誘惑しやがって……」


 くそ、勘違いしちまうだろう。距離感ゆるゆる天然聖女が。




 そんなくっだらねえ事を考えながら歩いていたら、待ち合わせのギルド前に着いた。


 約束の時間より10分早めに来たのに、アイリは既にそこで待っていた。


「あ、ノゾムさん。こんにちは」

「おう、早いな」

「ふふ、なんだか楽しみで。つい早く来ちゃったんです」


 相変わらずふんわりとして優しい微笑みで俺みてえなのを迎えてくれるアイリ。


「それではお買い物に行きましょうか。ハトエルちゃんもお腹を空かせて待ってるだろうし」

「急ぐ必要はないぞ。あいつは少しくらい世の厳しさを教えてやった方がいいんだ」

「またそんな事言って。駄目ですよ? 可愛い愛娘なんですから」


 アイリと共に商店街へと繰り出す。日用品が売ってる店から、新鮮な野菜や魚、パンなどを売る露店も集まった区画だ。


「どんなお料理にしましょうか?」

「そうだなー。いかにもこう、豪華~っていうか、オシャレ~みたいなメニューが良いな」

「なんだか難しそうですけど……あ、ではボルボーロでも作りましょうか」

「ボル?」


 アイリが小さく笑う。


「ボルボーロ。知りませんか? 王都では誕生日などのお祝い事の定番料理ですよ」

「お、おう。そうなのか」


 アイリには、俺とハトエルは遠い遠い異国からつい最近引っ越してきたという設定で話してあるから、文化に多少疎くても大丈夫だ。


「七種類ほどのスパイスと、バター。それに鶏肉とチーズ。あとトマトなどが必要です。ノゾムさん、ご予算はどのくらいですか?」

「とりあえず800リルクくらいだ」

「分かりました。パンやドライフルーツなどの類いは私が自前で持ってきました。ですので、メインディッシュの材料を惜しみ無く買いましょう」


 本当にお人好しな子なので、悪い大人に騙されないか心配になってくる。よし、これからはそんな事がないように、クエスト終了後にはそっと後ろに隠れながら自宅まで見送ってやろう。


 俺が紳士的な決意を固めていると、アイリの明るい声がした。


「あ、ちょうどお肉屋さんが下ろし立てのお肉を売ってます。買いに行きましょう」


 はしゃぐような少女の声に引かれ、俺は店を回った。



「ノゾムさん、お野菜で苦手な物はありますか?」

「いや、特には」

「それなら、ニンジンソテーもやりましょうか。けっこう得意なんです」

「へえ、楽しみだな」



「あっ、あそこにキャンディが売ってます。ハトエルちゃんに買ってってあげましょう。もちろん、ノゾムさんの分も」

「いや、そんな金無い」

「あはは、私が出すから心配しないで下さい」

「……なら、俺はお前の分おごってやるよ」

「え? それは……ふふ。なんだか変なの。でも、ありがとうございます」



「ふう。けっこうな量になりましたね」

「ああ、そうだな……。あー、アイリ」

「はい、なんですか?」

「悪いんだけどよ、こっちの荷物持ちにくいから交換してくれねえか?」

「構いませんけど……。こっちの方が重いですよ?」

「ああ、大丈夫だ」

「では、はい。? 別に持ちにくくないですよ?」

「そうか。なら、ラッキーだったな」

「……。ふふふ……」




 買い物なんてめんどくさいし、義務的な物でそれ以上の意味なんて無いと思っていた。


 だけど、今日は不思議とそんな気持ちにならない。何故か心が和んで、穏やかになる。



「ノゾムさん、他にも何か食べたい物はありますか?」


 前を軽やかな足取りで歩く少女。


 その弾むような声や、日だまりのような笑顔を見ていると、何故か胸の奥がじんわりとして、温かい何かが染み渡る気がした。


「? どうかしましたかノゾムさん」

「いや。ただ……何て言うのか、今日は良い日になりそうだって思ってな」

「そうですね。楽しい日にしましょう」





 必要な物も揃い、俺とアイリは近くの公園で一休みする事にした。たくさんの食材が入った紙袋を抱えたまま歩き回ったので、疲れた。


「たくさん買っちゃいましたね」

「そうだな。これなら晩飯まで作れそうだな」


 のんびりした公園。そこのベンチに並んで座る。


「腹減ったなぁ。さっきのパン摘まみてえな」

「まだお昼まで時間ありますよ。我慢しましょう」

「しかたねえ。アイリ、俺は腹ペコ魔人と化した。帰ったら重労働が待ってると思え」

「ふふふ、頑張りますね」


 ……。


 い~い雰囲気じゃあないかぁ。

 これはイケるんじゃないか? アイリちゃんってば絶対にオジサンに気あるよね?


 だって一緒に買い物して、歩き回って、公園で同じベンチに座って、これから家に帰って夕飯だなんて……。もう夫婦じゃん!


 よしっ! いける! このままチューだ! キスだ! そしてそのまま家にテイクアウトだ!


 雰囲気ある薄暗い部屋の中。潤んだ瞳に吸い寄せられるように肌を重ね…………。


 やったなハトエル、兄弟が出来るぞ。



「ノゾムさん? どうかしましたか?」

「うおあっ?! な、ななんだよお?!」

「ご、ごめんなさい。なんかボーッとされていたようだったんで……」


 家族計画の図面を頭の中で描いていた所でいきなり声をかけやがって。心臓が跳ね上がったぜ。


「何か考え事でもされていたんですか?」

「え、ああ、まあな」


 頭の中で君の服を脱がしていたとは言えん。


「そ、それより、そろそろ帰るか。ハトエルの奴もそろそろ餓死寸前かもしれんし」

「そうですね。早く帰ってお土産を渡してあげましょう」


 危ない危ない。外でいかがわしい妄想なんかしてたらまるでムッツリスケベの変態みたいじゃないか。


 ここは清らかな心の内に家へ帰る事にしよう。


「さ、行こうぜ」

「はい」


 と、そんな幸せな気分に浸っていた時だ。


『アンタさあ、男のくせに女の子に荷物持たせる訳?』

『ああ? 知らねえよ、格下は荷物持ちって決まってんだろ』

『なら、アンタが持ちなさいよ』

『ああ?! 誰が格下だって?』


 穏やかで良い雰囲気をぶち壊すような言い争う声がした。男女の声だ。


 まったくどこのどいつだ。昼間っから痴話喧嘩とは。俺とアイリのような熟年夫婦並みの大人な雰囲気を見習って欲しいものだな。



 そんな風に達観しながら声の方に振り向くと、なんかチャラ男っぽい痩せた男と、アイリくらいの少女が言い争いながらこっちに歩いてくるところだった。


「ん?」

「あっ」


 少女の方には見覚えがあった。


「まったく。やっと怪我治ったんだから、少しくらい今までの借りを返そうとか思わないわけ?」

「ぐっ……あ~っ、分かったよ! オラ、寄越せ」


 少女の荷物を引ったくるようにして持つ男。フンッと勝ち誇ったように鼻を鳴らす少女。


「ん?」

「あら?」


 そんな二人とぱったり出会った。



お疲れ様です。次話に続きます。

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