64話──騎士のこれから
「ウオエエエエッ!」
薄暗い床にビチャビチャと響き渡る音。今日の掃除係君よ許せ。これも魔法少女を助けるためだと思ってくれ。
「うっ、うえ、オエェ……く、くそっ、なんでいつもいつも戦闘よりこっちで大ダメージ受けるんだよ……」
帝国軍四天王<<<<変身ってどうなのよ。
ともかく、これにて一件落着だ……。
変身解除を済ませ外に戻ってみると、兵士達があちこち駆け回ったり、怒鳴るように報告しあったりして、さっきよりも慌ただしくなっていた。
「捜索隊の編成急げ! 守備隊の指揮は各兵士長に任せる!」
「救護隊、負傷者の搬入が遅れてるぞ!」
どうやら事後処理に追われてるようだ。
まあ、勝ったは勝ったが、肝心の敵の将は取り逃がしたし、王国軍も被害はそれなりだし、砦の前面は防御の要としての機能を喪失してる状態だしで休む暇もないのだろう。
「また何か面倒事に巻き込まれる前にとっとと帰るか……」
さっさとアイリ達を見つけて帰るに限る。
さっきの場所へ行くと、三人はまだそこに居た。
「あっ、のぞ……パパ!」
「うーっす」
アイリもセイディも立ち上がっており、何か話していたようだ。
俺に気づいたアイリがホッとしたように笑った。
「ノゾムさん。よかった、姿が見えなかったから心配しました」
「言ったろ? 俺の逃げ足は四天王並みだと」
「あはは、そうでしたね。でも、聞きましたよノゾムさん、セイディの事助けようとしてくれたって」
「は?」
アイリが優しい眼差しを向けてきた。
「あのイクリプスという怪物が現れた時、ノゾムさんが逃げるように言いに来てくれたって」
「ああ、まあな」
セイディの方を見ると、目が合った。
「ノゾム。君にも礼を言わなければならない。さっきはありがとう」
「ふ、惚れたか?」
「すまない、それは無いが感謝はしている」
正直に言いやがって。お世辞でもいいからカッコ良かったとか言いやがれ。
でも、まあ。素直な礼の言葉が潔よくてちょっと照れ臭いな。
さっきの会話で何かが吹っ切れたのか、セイディの表情は軽くなっていた。少し元気づけられたようだ。
「俺も見直したぜ。さっきのお前の活躍ぶり。まさに一騎当千の女騎士だったな。ただの通り魔かと思ったが、普通につええんだな」
「いや、まだまださ。私はもっと強くなる。正義に勝ち負けも無い。だが、強くなれば正義を貫けるのも事実だからな。自分の正義というものを胸を張って言えるようにするんだ。そして、いつか彼女に伝えたいと思う。魔法少女、ホープに」
「おお、そうか。ま、頑張ってくれや」
そん時まで俺が魔法少女やってるかは分からんけどな。
「それにしても、君のあの弁舌。私には一切理解できなかったが、四天王を困惑させ、激昂させるだけの手際は鮮やかだった。私はああいう舌先の戦いは好きではないが、君の不遜な態度と、人を惑わす実力は見習うところが大きい」
「それって褒めてるんだよな?」
「もちろんだ」
セイディはふっと空を見上げた。
「世の中は広いな。あんな猛者が居れば、あんな怪物も居る。そして、魔法少女が居る。かと思えばノゾムのような人も居る」
「なあ、その引き合いだと俺はダメ側に聞こえるんだが、そうじゃないよな?」
「君がダメなのは事実だ。私は嘘は嫌いだ!」
「俺の苦労を返しやがれ!」
「だが……」
どうやってこの女騎士の甲冑を引き剥がすか思索しようとしたら、穏やかな微笑みが返ってきた。
「少なくとも、クズだというのは私の誤りだった。君は思っていたよりも良い人だ。クズなどと暴言を言ってししまい、すまなかった」
「……そうかい」
「あ、いや。クズに代わりはないかもしれない。いや、でもクズって程では……でも、やっぱダメ人間だし……高貴な心というよりは蛮勇って感じかもしれないが……」
「なあ、上げてから落とすの止めないか? いい加減オレ泣いちゃうぞ」
「ま、まあまあ。何はともあれ良かったじゃないですか」
この女騎士をどうやったら薄い本みてえな目に逢わせられるか真剣に考えようとしたところでハトエルがなだめるように入ってきた。
「魔法少女ももちろん素晴らしい人ですが、パパも今日はとても頑張ってました! セイディさん、これからも仲良くしてあげて下さいね」
「ああ。確かに、ノゾムからは学ぶ事も多そうだ。では、改めて」
スッと手を差し出してくるセイディ。
「ノゾム、よろしく。これからも正義のため、平和のために共に戦おう」
「……ふっ」
俺からも手を握り返す。
「ああ、いいぜ。この俺に任せな」
「良かったねセイディ。ノゾムさんと仲良くなれて」
「何言ってるんだアイリ。仲良くなるのはこれからだ。まずは俺に3000リルクの賠償を支払ってもらわなければならんからな」
「もう、ノゾムさんっ」
「そんな怒んなよ。ちっ、分かったよ。金の件はチャラにしといてやる。その代わり。セイディ、俺が困った時は無償で助けろよ」
「ああ、それは構わないが……ところでノゾム」
「うん? なんだね?」
「そろそろ手を離してくれないか?」
ぐいぐいと手を引っ込めようとするセイディ。
「も、もう挨拶は済んだはずだ。おい、いつまで握ってるつもりだ」
「いや、ついでに体温と脈拍を計ってやろうと思ってな。おお、あったけえ、これが年頃乙女の柔肌の温もりか……」
「ノゾムさん……」
「もーっ! どうしてパパはそんなにお馬鹿さんなんですか!」
うるせえ。少しくらい良いだろ。俺はただ、エロい女騎士の温もりをこの手にじっくりと保温したいだけなんだぞ。
と、ここで。怒って恥ずかしがるかと思ったセイディが不敵に笑った。
「……ふっ。いいだろう、ノゾム。そんなに握手が好きなら、もっと存分に交わそう」
「おっ? 話が分かるじゃねえか。それじゃあ、お言葉に甘えてスリスリさせて──い、いて、いででででででで?!」
──ミシミシミシミシミシッ……──
「これでも筋力には自信があるんだ。男の騎士と競べても引けをとらないんだぞ?」
「があああ?! いででっ、ほ、骨折れっ、ぎ、ギブっ! ギブギブ! 許してくれええ!」
なんて握力してやがる。この鎧を纏った雌ナイトゴリラめ。
痺れるくらい痛めつけられた手を押さえながら、俺は慰謝料としてさらに2000リルクを請求したのだが、アイリとハトエルの仲裁によりそこは我慢してやった。
代わりと言っちゃなんだが、まだ終わっていないギルドのクエストをセイディが手伝ってくれる事になり(もちろん、セイディは冒険者ではないので、無料奉仕だ)、砦の騒動が少し鎮まったところで三人でベンラット駆除を行った。
セイディがめちゃくちゃ強いお陰でベンラットはあっという間に100近く討伐でき、俺達は意気揚々と町へと帰還したのであった。
お疲れ様です。次話に続きます。




