63話──かわいいは正義
砂煙や木材の破片を噴き出して崩れる瓦礫の山。
ガラガラと崩れ、辺りが埃っぽく煙る。
「……ふぅー。やったか?」
手応えはあった。流石の四天王と言えども、あの一撃は相当堪えたはずだ。
いや、つうか死んでねえよな? オニックスの奴もけっこう頑丈だったから、今回はけっこう本気でやっちまったんだが……。
──ガラガラ……──
「!?」
「ぐ、ぐうぅ……ち、ちくしょう、が……」
マジかよ。
信じがたい事に、あれだけの猛攻を食らって、しかもバトル漫画みてえに派手にガレキ山に爆発突貫したにも関わらず、立ち上がりやがった。
が、しかし。流石にボロボロで、どうやら立ってるだけでもやっとのようだ。
「こ、こんな……こんなふざけたガキ……に、俺が……負ける訳が、ねえっ……」
フラフラと歩き出すジェイド。
あちこちから血を流し、体を支えてる足がガクガクと震えている。
「こ、この俺がぁ……四天王の俺が……」
「あー、えーっと。もう、勝負は着いたから降参しない?」
ここは相手を刺激しないようになだめなくては。
「ほら、えー、貴方はよく頑張ったし、ほんと私もあとちょっとでやられるとこだった。良い勝負だったね。うん。だから、ここはお互い気持ちいいとこで潔く負けを認めよう」
よし、相手の健闘を称えつつ、勝敗は時の運だったと謙遜。しかし、結果は明らかだという事をそれとなく伝える魔法少女ムーヴ。
これでジェイドも投降するはずだ。
「ふっ、ふっ……ふざけてんのかあっ! テメエええ!!」
めっちゃキレた。
「く、クソガキがぁ~っ……調子に乗りやがって~……」
どうやら逆に煽っちまったようだ。俺に交渉は向いていない。
だが、もう説得の必要すらないだろう。見た感じジェイドは戦闘不能どころか逃走も不能だ。このままなら兵士の誰かが捕まえる事になるだろう。
「す、すごい! あの四天王を倒した!」
と、ここで。いつの間にか集まったのか、大勢の兵士達が俺らを取り巻いてざわついていた。
「な、なんて力だ、魔法少女!」
「まさに伝説の通り!」
「伝承に語り継がれる最強の戦士っ……!」
「すげえ! 本当に伝説の戦士が俺らの味方になってくれたんだ!」
「しかもめっちゃ可愛い!」
「魔法少女ばんざーい!!」
「こっち見てくれーー!」
ワーワーと勝鬨なのか何なのかよく分からん雄叫びを上げる野郎ども。
そして興奮した様子で周りに集まってくる。
「うおおおっ?! ま、マジでかわええ!」
「こ、こんなにちっちゃいのにあのパワー?!」
「サ、サイン下さい!」
「握手してくれ~!」
「む、むほほっ! か、彼氏は居るんですかぁ?!」
あー。早く帰りてえ。ていうかちょっと怖えんだけど。野郎に迫られる女の子ってこんな気持ちなのか。
「あ、あはは……あの、それより早く四天王を捕まえなくていいの?」
「はっ!? そうだった!」
我に返ったアホ達がやっと離れてくれた。
「よし! あいつは帝国軍の四天王だ! 捕まえろ!」
隊長らしき奴が命令し、兵士達がどどっとジェイドへと押し寄せていく。
これで俺の役目も終わりだ。まあ、後は兵士達に任せるか。
そう思って踵を返したその時だった。
──バチイッッ──
「!?」
──ズダアンッ──
「「「うわああ!?」」」
ジェイドと兵士達の間に突然目も眩むような稲妻が落ちた。
「なっ、なんだ!?」
「落雷?!」
──ゴオオッ──
と思ったその次には巨大な火柱がいくつもその場に立ち上がり、さながら炎のカーテンのようにジェイドと兵士達を分け隔てた。
「っ! な、なんだ?」
熱風と、炎が兵士らを阻む。
──ヒュッ──
「?」
その時、何か黒い影が炎の中へ飛び込んだように見えた。
そう思った次の瞬間には炎はフッと消え、そこには焦げついた地面だけが残されていた。
ジェイドの姿も無い。
「なっ!? 四天王は?!」
兵士達が動揺し、騒ぐ。
「き、消えたぞ!?」
「探せ! 今の隙に隠れたのかもしれん!」
慌ててガレキの山などを探し出す兵士達。焦りの声が互いに喚き散らされ、もう消えてしまったジェイドを求めてさ迷う。
オニックスの奴も消える技を持ってた。多分、ジェイドもそれで逃げたんだろう。
そっとその場を後にする。どこかで変身を解除しねえとな。
「いや……」
けど、その前にセイディやアイリ、ハトエルが無事かどうか気になる。まずは確認だ。
なんていう風に俺らしくもない事を考えていると、少し離れた所で座り込んでいる三人の姿が目に入った。ハトエルが大きく手を振っている。
「お~いっ! ポープー! こっちでーすっ!」
ピョンピョンと元気よく跳ねるチビ天使。同じように手を振ってるアイリ。
そして、そんなアイリに介抱されるかのようにして座るセイディの姿も見えた。
三人の元へ歩み寄ると、ハトエルとアイリは怪我もなく元気そうだった。と言うか、もう大興奮状態であった。
「凄いですホープ! またまたイクリプスをやっつけ、しかも四天王の新手を撃破! 誰の手にも負えない極悪エネミーを連続ポポイのポイだなんて!」
「ほんとだね! しかも可愛い! というか可愛い! ほんとに可愛い! あんなに強くて可愛いくてっ、しかも可愛いくて!」
アイリにいたっては、この姿で対面するとIQが溶ける仕様らしい。
「でも、ホープさんは何でこんな所に?」
いきなりIQが上昇しやがった。
その問い掛けに、ハトエルが誤魔化しを効かせてくれる。
「あの、アレですよっ。魔法少女って人々の悲しい声や助けを求める声に反応してやってくるヒーローですから!」
「そっか。うん、そうだね! だって可愛いんだもん!」
やっぱIQが溶けてた。可愛いのはお前だよ。
「あー。えっと。二人とも大丈夫だった? なんか凄い事になってたみたいだけど」
そんな風に話題を振ると、察したのかハトエルが状況を説明するように話してくれた。
「はい。この砦に押し寄せていたモンスターの軍勢は逃げていきました。あの四天王の人が敗れたからでしょう。逆に言うとあのまま攻められ続けていたら厳しかったかもしれません」
「そうだったの」
多分ここを制圧したかったんだろうが、今回は運悪くというか俺が居たんで退却を余儀なくされたってとこか。
「……そうだ。セイディ、おま……貴女の怪我は大丈夫なの?」
さっきから黙っているセイディに声をかけてみる。アイリとハトエルが処置したのか、手当ては済んでるようだ。
しかし、あまり元気が無さそうに見える。少し暗い、神妙な面持ちを上げた。
「アイリとハトエルから聞いた。君はあの伝説の戦士、魔法少女なんだな」
「えっと……伝説かは分かんないけど、うん。私は通りすがりの魔法少女ホープ」
「……さっきは危ないところを助けてくれてありがとう」
姿勢を正し、その場で拝むように手を合わせるセイディ。
「君が助けてくれなかったら私も、この砦も、そして私の大切な物も全て守れなかっただろう。本当に感謝している」
「え、えっと。どういたしまして」
その真摯な姿にちょっとくすぐったい気持ちになった。
それにしても、浮かない顔をしているのが気になる。
「どこか痛むの?」
「いや……」
「なんだか元気が無いようだけど……」
そう言うと、セイディは途端に顔を歪めて歯を食い縛った。
「私はただ……己の未熟さに怒りが抑えられないだけだ。あの四天王とかいう相手に手も足も出ず……」
ギュッと唇を噛んでいる。膝の上に置かれた手が見ていて痛くなるくらい握り締められ、震えていた。
「私は弱い……こんな私に、正義を語る資格なんて無いっ……」
「……そんな事ないんじゃないかな」
「え?」
セイディが顔を上げた。
「正義とかって、強い弱いで変わるのかな?」
「それは……でも、あの男の言う通り負けてしまえば意味は無い。弱い者に正義を口にする資格は無い……」
「……ねえ、セイディ」
そっとその場に屈んでセイディの手をとる。
「あの時、おれ──あの男性を守ろうとした時。どんな事を考えていた?」
「え? あの時……ノゾムを守った時……?」
「うん。イクリプス……あの怪物に勝てると思ったから戦った? 勝算があったから立ち向かったの?」
「それは……いや、ただ、民を守らなければと思って……」
「その行動の尊さって強いか弱いかで価値が決まるのかな」
隣でハトエルが目を丸くしていた。
「そんな事、普通は怖くて出来ないよ。貴女が自分の正義を信じてたから出来た事なんじゃないかな」
「私の正義……?」
「勝ち負けとか、強さで正義が決まるのなら、きっと世界は残酷で、みんな息苦しい。そんな世界……希望も無いよ」
だから──
「強さで正義が決まるなんてあり得ない。そんな曖昧な物差しなんかより、他人のためにボロボロになって戦う貴女の行動こそ正義なんじゃないかな。例え、他の人がなんと言おうと……私はそう思うよ」
セイディは瞬きもせずに真っ直ぐ俺を見つめていた。
「多分ね、あの男性も貴女に感謝してると思う。命を懸けて助けてくれた事に。私が言うのも変かもしれないけど……言わせて。ありがとう」
「……」
そっとその手を離して立つ。
「もう行っちゃうんですね」
アイリが寂しそうに微笑む。
「また会えますか?」
「うん。きっとまた……それじゃあ」
「っ……! 待ってくれ!」
跳ぼうとしたところで力強い声に呼び止められた。
振り返ると、セイディが立ち上がっていた。真っ直ぐ俺を見ている。
「君にとって……正義とは何だ?」
「私にとって?」
「ああ。教えてくれないだろうか?」
真剣なそのセイディの表情は──どこか子供のようにあどけなく、ちょっと可愛いかった。
「……かわいい、かな」
「え?」
「私にとっての正義」
思わず自分で小さく笑うのが分かった。
「かわいいは正義、かな」
「……そ、それはどういう──」
「それじゃっ」
──タンッ──
「あ!」
恥ずかしくなったので、今度こそそこから離れる事にした。
お疲れ様です。次話に続きます。




