62話──VSジェイド
あれ程圧倒的に暴れ回っていた熊怪獣ことイクリプスは、サラサラと塵になって消えていった。
そして、俺の足下には砕けた水晶が転がっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、よ、よし」
またまた撃破だ。めっちゃ硬かったけど、あのマナなんちゃらとかいう結晶体を素手で粉砕だ。
「さ、流石に疲れるよな……手もいてえし……」
「なあっ?! ま、負けた?! イクリプスの奴消えちまったぞ!」
ジェイドが懐からあの妙な道具を掴み出す。オニックスが持ってたのと同じ、通信機と思われるアイテムだ。
「おいガルネット! おいっ、居ねえのかオイ! チッ! あの野郎クソでもしてんのか?!」
どうも相手が不在だったらしく、忌々しげに通信機をしまったジェイドが俺を睨みつけてくる。
「まあ、いい。要は簡単な話だ」
ゆらりと辺りに漂う殺気。すぐに周囲がピリピリとした空気に包まれた。
「イクリプスが勝てねえなら、俺が直接倒せばいいだけだ。王国の切り札とかいうお前と勇者さえ倒しちまえば俺らの勝ちってわけだ」
「そんな単純な話じゃないと思うけど……」
「細けえ事はいいんだよ」
好戦的な笑みを浮かべて、構えるジェイド。
「あのバケモンは見かけ倒しだったみてえだし、最初から俺が相手すりゃよかった」
「居たぞー! あそこだ!!」
俺らの間にヒリついた空気が充満し始めた頃に、兵士達が駆けつけてきた。
「あれだ! 騎士殿が言うには帝国の四天王らしい!」
「捕まえろ! 抵抗するなら殺しても構わん!」
「砲撃用意!」
さっき準備していたであろう大砲をこちらに向けてくる兵士達だったが、俺の姿を見るやその動きを止めた。
「あ! 待て! あの子はさっきの……!」
「魔法少女?」
「くっ! 待てっ! 砲撃はまだするな! 魔法少女っ、後は我々がやる! そこから逃げろ!」
そう呼び掛けてくる兵士ら。
もうイクリプスは倒したし、後は任せるか。
「邪魔すんじゃねえ!!」
──ドンッ──
なんて風に、ありがたく下がらせて貰おうとしたところで、ジェイドが激昂して散弾のような魔力の弾を兵士達へと放った。
「ぐわああっ!?」
「うわっ?!」
「がっ!!」
ゴルフボール程の弾だが威力は凶悪で、集まった兵士達は空きカンが銃に撃たれたかのように弾き飛ばされていった。
──ズガガッ──
大砲もその攻撃によって土台が壊れて、砲身が重たげに転がった。
「ぐっ……」
「うぐぐ……くそ……」
兵士達のほとんどが今ので戦闘不能になったようだ。
仕方ない。
「動かないで! 私が戦うから、あなた達は下がって!」
「し、しかし……」
「そうは言ってもっ……」
「女の子に戦わせて我らが伏してる訳には……!」
カッコつけてねえで消えろお! こちとら恥ずい演技しながらお前らの面倒なんて見てらんねえんだよお!
「よそ見してんじゃねえ!!」
「?!」
ダンッという地面を蹴る音がし、振り返った瞬間すぐ目の前にジェイドが迫っていた。
「っ! 速っ……」
「おらあっ!」
ビュンッと風を切って飛んでくる拳。寸でのところで腕をクロスしてガードする。
「オラオラオラオラっ! オラオラアッ!」
──ズドドドドッ、ドドドッ、ズドオッ──
高速回転するブローの嵐。左右上下、縦横無尽に拳が飛んでくる。
「ううっ?!」
ガードの届かないボディにはモロに食らう。息もつかぬ連打。
「あばばばばっ!?」
あまりにも早い拳速で、身体がガタガタと振動するほどだ。
「らあっ!」
──ドンッ──
「うっ!」
一際強めなパンチを食らって浮いた体勢を立て直し、着地する。
「ハッ! 防御は硬いな! けどなあっ!」
体勢をぐっと沈めて獣のように駆け出すジェイド。
「守ってばかりじゃ勝てやしねえぜ!」
しなやかな体重移動と、足運び。まるで豹やチーターを思わせるような俊敏性。
「速いっ?!」
「シャアッ!」
──ベシッ──
バネが弾けたように身体をしならせ、俺の頭上よりも高く跳躍しながらの蹴り。
辛うじてそれを防ぐと、相手の姿が視界から消えた。
「っ! いないっ……!?」
「ここだ!」
「!!」
背中から聞こえた声に振り向くと同時に鋭い突きが飛んでくる。今度はガードが間に合わず、鳩尾に思いっきり奴の拳が突き刺さった。
「うべっ!?」
防御姿勢が整ってなかったせいで、後ろへ軽く吹き飛び尻餅をついてしまう。
「ハッ! どうした? 伝説の戦士様よお!」
座り込んだこちらに容赦のない追撃を仕掛けてくるジェイド。俺もすぐに立ち上がって構える。
「っ! せいや!」
こちらからも右ストレートを放つが、それは軽く避けられた。
「おっと! なかなか良いパンチだ。けどなあっ!」
こちらの一発に対して十発のカウンターが返ってくる。
「どんな攻撃も当たんなきゃ意味ねえよなあ!?」
「うっ……でいっ!」
思いっきり回し蹴りをしてみるが、それは空を切ったのみ。
またもや頭上を飛び越えたジェイドの嘲笑う声が降る。
「へっ、パワーには自信があるようだが、いくらパワーがあっても相手に当たらなきゃノーダメ。つまり、テメエの強さはゼロだ!」
なんなん、そのカロリーゼロ理論みてえなの。
だが、確かに。当たらなければ意味がない。
「しゃっ! オラッ! はあっ!」
「うっ、わっ、ほ!」
燕のように翻り、隼のごとく襲いくる。カマイタチのように鋭い手刀が伸び、鞭のような蹴りが変幻自在に全方向から飛んでくる。
「ていっ! やあ!」
「へっ!」
そして俺の攻撃は全て虚しく風を薙ぐのみ。
「当たらない……」
「ハッ! ノロマが!」
再びしなって伸びてくる連打。俺と奴とではリーチにも差がある。俺のレンジ外からいくらでも攻撃が飛んでくるから、防ぐか避けるしか出来ず、カウンターをとろうにも速過ぎて当たらない。
「こいつで終わりだ!!」
ジェイドの拳が光る。オニックスの時と同じ魔力の塊を生成したようだ。
「消えな!!」
──ドオオッン──
「わっ!?」
光が目の前で弾けた。と思った瞬間には、爆風によって吹き飛ばされていた。
──ドシャアッ──
「いてっ」
何メートルか後方にケツスライディングしながら飛ばされる俺。
「たくっ、ほんとこの世界の男どもは男女平等過ぎるぜ。容赦なく吹っ飛ばしてくれやがって……にしても……」
「クハハハハッ! 手も足も出ねえみてえだなあ?」
もうもうと立ち込める煙からジェイドが現れ、勝ち誇ったような笑いを浴びせてくる。
「リヒトにしちゃあ頑丈だな。そこは流石は伝説の戦士様ってとこか。けど、もう勝負は着いたみてえだなあ?」
「えーっと……」
「クク、命乞いしたら許してやんねえ事もねえぜ? 雑魚を殺したって面白くもねえしな」
「それはそれは……」
あれだ。確かにコイツは強いし、俊敏でスピードもある。
が、しかし。攻撃があんまし強くない。
オニックスとの時よりは明らかに被弾してるが、あいつのよりは痛くない。
つまり、はたから見ると、めっちゃ押されて負けてるようだが、実際はほとんど効いてない。
「……マジで強いわ」
俺が。
「へっ、なんだ今さら気づきやがったか?」
お前じゃねえよ。
ジェイドが余裕しゃくしゃくで構えをとる。
「んじゃ、そろそろフィニッシュだ」
「……」
スピードは厄介。だが、まともに食らっても大した事のない攻撃。
となれば、後は簡単だ。
「らあっ!」
ジェイドが突進してくる。俺を脅威と見なしてないのだろう。真っ直ぐこちらに向かってくる。
「死ねえ!」
「せやあっ!」
オーバーな動作で拳を振り上げ、渾身の一撃らしき物を繰り出してくる。俺もカウンターを繰り出す。
「けっ!」
俺のカウンターは、嘲笑と共にあっさりと躱された。
──ズドッ──
懐に潜り込まれ、鳩尾に拳を捻り込まれた。
ニヤっと勝ち誇ったようにジェイドが笑う。
「へっ、残念だったな。カウンターは失敗したぜ?」
「──いや、そうでもない」
「なに?」
──ガシ──
「!? な、なにっ?」
「こんな言葉がある。『肉を切らせて骨を断つ』」
ジェイドの腕を両手でしっかりホールドする。
「て、テメッ! わざと避けなかったのか?!」
まあ、もっとも。
こちらは肉を切られてすらいねえけどな。
「せやっ!」
相手の腕を拘束したまま蹴りを繰り出す。
「くっ! うぅっ?!」
逃げようと身を捻るジェイド。しかし、俺の掴んだ腕はびくともしない。
──ベキッ──
「があっ!?」
奴の膝に蹴りが入る。爪先にミシッと嫌な感触が伝わった。
「ぐっ、ぐがあっ?!」
ガクンッと膝から崩れるジェイド。
低くなったその姿勢なら──
「せいっ!」
──ドフッ──
「ぐぼっ!?」
そのまま今度は腹に蹴りをめり込ませる。
「ぐえぇ?!」
相手の力が弱まり、動きが止まる。もう捕まえておく必要はない。
両手を離し、腹を押さえて固まっているジェイドに右ストレートを放つ。
「せいっ!」
「うっ?! クソがあ!」
膝にきてるのだろう。回避行動に移れず、俺の拳に合わせてカウンターを突き出してきた。
──バキッ──
「ぐあっ!!」
正面衝突する俺らの拳。
ジェイドは苦痛の声を漏らして手を引っ込めた。
今だ。隙ありだ。
「らああああっ!」
──ズドドドドドドドドドドドッッ──
連続マシンガンパンチを容赦なく浴びせる。ジェイドは咄嗟にガードに入ったが、そのガードの腕や肘からミシミシッと音が伝わった。
「がああああっ?!!」
「おりゃあ!」
そして止めのフィニッシュブロー。俺の名も無き必殺パンチ。
──バッギイィッ──
「ぐわあああああ!!?」
ジェイドの身体がボールみたいに吹っ飛んでいき、城門の瓦礫の山へと突っ込んだ。
お疲れ様です。次話に続きます。




