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4話──変身しかねえよな?

 






 ──コッ──


 石コロは軽々し過ぎる音を立てただけで、そのまま意味もなく地面に落ちた。


『グオオオォ……』


 いや、意味はあった。最悪過ぎる意味が。


 ドラゴンが首をもたげて俺の方へ向いた。


 改めて見たその顔はまさにドラゴン。

 ギョロリとしたヤバめ目力マックス眼光と、槍でも生えてるのかという牙。


 そして、熱いラブコールのような殺気。



「は、ははは。初対面に投石の挨拶は失礼だったよな。うん、反省してる。許してペロリンコっ!」


『グオオオオオオッ』


「ノオオオオーッ!!?」


 当然ながらドラゴンの怒りが俺に襲い来る。


「ちくしょうがあああーっ!!」


 一目散に逃げる。木の間を縫って。



 マジで何やってんだ俺。


 考え無しの軽はずみな投石のせいで、今まさに生まれたて二周目人生が風前の灯火だ。


『グゴオオオオオッ』


 後ろから追いかけてくるドラゴンの大顎。噛まれたら食いちぎられるどころか、一瞬で小間切れになるだろう。見た目だけでも即死技なのが分かる。

 そんなのが木々をバキバキ弾き飛ばして追ってくるんだから、もう絶望しかねえ。


「うおおおおおっー! モンスター映画の主人公になった気分だぜええー!! こんなん死ぬ気しかしねえええええー!!」


『グオオオオオオオッ』


 ──ベキィッ──


 やべえ、地響きがどんどん近づいてきやがる。



 がむしゃらに走っていたら、いつの間にかさっきのエンカウント地点にまで戻ってきてしまった。



「うっ?! しまった、一周してただけか!」


『グルルルル……』


 追いついたドラゴンが目の前で止まる。

 もう逃げ場が無い俺を追い詰めたつもりなのだろう。ジリジリと蛇のように忍び寄ってくる。怒ってんのか、腹減ってんのか知らんが、牙を剥き出して血のように真っ赤な舌をピロピロっと出してやがる。


「マジかよ……異世界でドラゴンに食い殺されて終わりかよ……」


 アニメやゲームだと討伐対象の花形なのに、いざ目の前にしてみると無理ゲー過ぎる。


『グオオオオオオオッッ』


 全身がビリビリするほどの雄叫び。そして唸りを上げて迫る牙。



 こんなとこで終われるかよ……。



「駄目ですーーっ!!」



 暗い感情が頭を支配しかけた瞬間、いやに子供っぽい叫びが響いた。


 ハッとなって顔を上げると、背中から翼をはためかせるチビ──ハトエルが俺の前に降り立った。


「ハトエル!?」

「ホーリー・バリアー!」


 奇妙な呪文らしき声と共に、光の膜のような物が発生した。口を開けて突っ込んできたドラゴンの顔面が膜に激突する。


 ──ズガアッ──


「ううぅっ……!」


 ドラゴンの突進は止まった。見えない壁に阻まれるようにその場でつっかえてる。ハトエルが幕を支えるかのように両手を大きく広げているが、その身体はプルプルと震えていた。


「お、お前っ……」

「の、望さん! 今の内にあの子を連れて逃げて下さいっ……!」

「えっ?」


 ハトエルの視線の先。そこには木の根元でぐったり倒れている少女の姿。


「な、長くはもちません! 早くっ!」


『グオオオオオオオッ』


 怒り狂ったドラゴンがその巨体を唸らせて光の壁に何度も頭突きしてくる。その度にハトエルが苦し気に表情を歪める。


「お、お前はどうすんだよ!」

「これでも天使ですっ! 簡単にはやられません! でもっ、人間二人を守りながら戦うのは無理です! だから、早くっ!」

「っ……!」


 クールに考える暇もねえ。


「すまん!」


 言われるがまま、ハトエルから離れ、倒れている少女の元へ駆け寄る。


「おいっ、大丈夫か?!」


 その少女はアニメとかでよく見るような冒険者風の格好をしていた。動きやすそうな軽装の上にレザー製らしき防具とかマントのような外套を装備している。


 14、5才といったところか。見事な赤髪を地面に広げて、ぐったりと気絶している。


「くっ、気失ってんのか……!」


 仕方ねえ、なんとか抱えて──


『グルオオオオオオッ』


「きゃあああああっ!?」


「っ?!」


 少女を抱えようと思った矢先、ハトエルの悲鳴が俺の背中を震わせた。


 思わず振り向く。

そこには、光の幕がガラスのように粉々に砕かれ、地面に叩きつけられるように吹き飛ぶハトエルの姿があった。

 ドラゴンの方も、膜が割れた衝撃に弾き飛ばされたのか、もんどりを打って後方の木々に突っ込んだ。


 巨体の倒れた衝撃が地面を揺らし、砂煙がもうもうと巻き上がる。


「おいっ!」


 地面に倒れたハトエルを起こす。

 大した事はないが怪我をしていた。腕から血が流れている。


「大丈夫か?!」

「へ、平気ですっ……それより、早く逃げて下さいっ……」

「お前はどうするんだよ?!」

「ま、まだ私は戦えますっ……」


 とてもそうには見えない。

 怪我ではなく、そもそも体力自体をひどく消耗しているように見える。顔色が悪い。


「私が囮になりますっ! 望さんは早くっ……」

「な、なんでだよ! どうして俺を……」

「わ、私はっ! 確かに天界でしか活動していなかった半人前です! 善人しか相手にしてこなかった世間知らずです! でもっ──」


 ハトエルの潤んだ瞳の中に、俺の姿が映っていた。


「私は善人なら沢山見てきました! 望さんっ、貴方は良い人です!」

「は、はあ?!」

「貴方は自分で気づいてないだけです! 貴方は素晴らしい魂の持ち主っ……他人のために熱く燃えるような心のっ……()()()()()そう叫んでいるんです!」


 何言ってんだ?

 今はそんな訳のわかんねえ話をしてる時じゃ……。


『グルルルルル……』


「?!」


 巻き上がった砂ぼこりが薄くなり、その向こうで巨大な影が動いた。


 俺の胸ぐらを小さな手が掴んだ。


「行って下さい! 逃げて下さい! 貴方が居ればきっとこの世界はっ……うっ……!」

「お、おい!」


 苦悶の表情を浮かべるハトエル。


 起き上がる唸り声。


 ドラゴンの足踏みによる地震。


 猶予の無い一刻。


「くそっ……!」


何とかならないのか。

どうにか出来ないのか。

何か、なんとかしなければ……。




 俺に。


 俺に残された道は──



 ──ピィン……──


「?!」


 焦りと混乱に頭の中が支配されかけた時。


 脳天に直接伝わるような、不思議な音がした。


 ガラスのコップを軽く弾いたような、透き通った光のような。

 小さなベルを鳴らしたような、明るく可愛らしいような。


 例えようのない、そんな不思議な音色だ。


 その音と同時に、俺のポケットから眩い光が溢れだした。


「?! な、なんだあっ?!」

「!! こ、この光はまさかっ……!」


 ポケットに手を突っ込む。光の源らしきそれを手に握って取り出し、ゆっくり指を開く。


 手の上にはあのハート型の宝石があった。

それが今は眩い光を放って輝いている。


「そ、それは?! “リンク・クリスタル”!?」


 ハトエルが叫ぶ。


「望さんが持っていたんですね! それさえあれば、なんとかなります!!」

「なんだと?!」

「それは魔法少女になるための変身アイテムです!」

「やっぱりかよ!」


 もう見た目がそれ以外の用途なんなのってくらいだからな。


「てことは、こいつで……」

「魔法少女に変身して戦えば助かります!」


 マジかよ。

 これで変身? マジで魔法少女コスプレしなきゃなんねえのか?


『グオオオオオオオオッ』


 ドラゴンの咆哮。


 もう迷ってる暇はねえな。


 ひじょーーーーーーーに不本意だが、もう背に腹は変えられねえ。やるしかねえ!!


「おいっ、ハトエル! こいつでどうやって変身するんだ?! 教えろ!」

「っ!! はいっ!!」


 喜びに表情を満たしたハトエルが俺の腕に飛びついた。


「そのクリスタルを胸の前に掲げて下さい!」

「こうか!?」


『グオオオオオオオオッ』


「それで『シャイニー・リンクル』と叫んで下さい!」


 くそ、微妙に恥ずかしいが迷ってなんかいらねえ。


「こうなったらヤケだ! どうにでもなれ! 男は根性だあ! 『シャイニー・リンクル』!!」


 高らかに叫んだ。


 その瞬間、クリスタルの輝きは一層強まり、それが視界一杯、世界一杯に溢れた。


「うおおおおおおおおおおっ?!」



 目の前いっぱいの洪水のごとき光。



お疲れ様です。次話に続きます。

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