57話──砦の食堂にて
「おお、ここが食堂か」
砦の食堂。
物々しい入り口で検査を受けた後、俺らは冒険者である証明をして砦の中へと入った。
流石に軍事施設なのでほとんど立ち入り禁止となっており、俺ら冒険者が出入り出来るのはトイレと食堂、そして依頼のクエストエリアである食糧庫周辺のみだ。
こんな中世ファンタジーな軍事施設なんて衛生観念も無い進化した縦穴式住居くらいなものかと思ったが、意外にも中は綺麗なので驚いた。食堂も掃除が行き届いているのが分かる。
「ギルドの酒場の方が汚ねえくらいだぞ」
「冒険者は荒くれな人も多いですから……」
流石に照明器具はまだまだ未発達なので室内はやや薄暗く、石の壁や床が渋い雰囲気を醸し出しているが、それでも薄汚れた感じはしない。
「せっかくだし、ここらで飯でも食ってきてえな。食わせてもらえんのか?」
「どうでしょうか。聞いてみましょうか」
厨房と繋がってるカウンターから中のコックに声をかける。
「すみません、私達は民間の冒険者なのですが食事は注文出来ますか?」
アイリがそう尋ねると、
「ああ、大したもんはねえけどな」
というぶっきらぼうな答えが返ってきた。
「あんたら冒険者か? なら料金は貰うぞ。旅人や冒険者などの民間人も利用出来るが有料となってるんでな」
「はい、それはもちろん」
「すまんなアイリ。いつもお前の財布に頼って」
「え? あ、はい。大丈夫ですよ」
「パパっ! 少しは遠慮って物は無いんですか?」
「たしかにそうだな。すまん、アイリ。奢ってくれるのは俺の分だけでいい」
ハトエルがポコポコと殴ってくる。
そのままカウンター席に着いてメニューを選ぶ。壁に掛かってる札に今日の献立が記載されていた。
さて、何を食うか。
「なになに。豆のスープにチーズ入りパン。三種の獣肉グリルにチキンソテー。やはり肉だな……」
「オススメは熊肉のワイルドフライか。午後は訓練もあるし、精のつく物にしとくか……」
「そうだよな。がっつりしたもの……ん?」
「ん?」
すぐ近くから聞こえた聞き覚えのある声に振り向く。
俺らの後ろのテーブル。こっちに背を向けて座っていた人物が同じく振り向いて目が合った。
「ああっ?!」
「あっ!?」
俺らがハモるように驚きの声を重ねると、続いてアイリも声を上げた。
「セイディ?」
「アイリ? どうして君達が……」
「何で通り魔が堂々と食堂にいんだよ」
「私は騎士だ! 君こそ、なぜ悪党が堂々と軍の施設に居る?!」
「悪党だとぅー?! 3000リルク払えー!」
「ノ、ノゾムさん! セイディもっ!」
バチバチに睨み合う俺らをアイリが制した。
ややして、運ばれてきた料理をセイディと同じテーブルに着いて食う事になった。
「そっか。セイディも大変だね」
「ああ。しかし、これくらいの事は騎士の使命だ」
どうやらセイディはこの砦に演習に来たそうだ。正しくは『稽古』だが。
「最近は物騒な事件が多いし、モーニング市場には帝国軍の将までが現れたと聞くからな。そこで私達騎士団に各兵団との特別演習が命令されたという訳だ」
「ふーん。つまり、お前は師範ってやつか?」
「そんなに大仰ではないが似たようなものだ」
町での巡回指示を部下達に出した後、一人でこの砦に来たと言う。
「てゆうか、お前って強かったのか。もしかしてエリート?」
「はい。セイディは王国精鋭の“蒼き鷹”の団長を務めてますから」
「蒼き鷹~?」
中二なのか単純なのか判断しかねるネーミングセンスだ。
しかし、こんなガキに王国の精鋭隊長を務めさせるとは。よほど人材不足なのか。
「お前ってこの国の最強騎士だったのか」
「いや、蒼き鷹はあくまで青年騎士団。18歳以下の若い騎士達の団だ。本当の精鋭は近衛兵でもある“片翼の鷲”だ。私は青年騎士団の団長に過ぎない」
正直に答えるセイディ。とは言え、それでも十分凄いが。
「しかし、お前みたいな通り魔でも団長務められるなんてなあ。この国は平気なのか?」
「確かに私が未熟なのは事実だ」
お? 案外怒らずに素直に認めやがった。
「だが、君のようなクズには言われたくない!」
「クズだとぅー?! このエッ女騎士が! 脳ミソ筋肉の異世界ジャック・ザ・リッパーめ!」
「言ってる意味は分からないが、斬る!」
「の、ノオオオオー!? 俺を斬ったらオークに転生して薄い本みてえにしてやるからな!」
「……ハトエルちゃん、ノゾムさんの言ってる意味分かる?」
「分からないけど、きっと凄く失礼でイヤらしい事に決まってます」
このセイディという奴は頭が固く、おまけに沸点も低い騎士のようだ。
「でも、帝国軍の人がもうこの王都まで侵入してるんだよね……。セイディもいざとなったら戦わなきゃいけないんだよね……」
アイリの呟きのような言葉に、剣を抜きかけていたセイディが手を止めた。
「もちろんだ。私は蒼き鷹の団長だ。王都を守護する使命がある。帝国の敵が攻めてきたらこの剣をもって正義を示さなければならない。例えそれで命を失おうとも、正義は守らねばならない」
「正義ねえ」
まあ、相手が魔王って言うなら確かに正義なんだろうが。
けど、果たして本当にこいつらが正義なのかね。まあ、俺にとってはどうでもいいが。
「か、かっこいいです! 正義のために命を賭して戦う! これぞ高潔な人間の姿、ですね!」
能天気天使は大層お気に召したようだ。
「パパ、人間とはやはり素晴らしい精神性を持ってますね。命は大事にして欲しいですが、それよりも優先する物があると言い切れるのは本当にかっこいいです!」
「そうかい」
「ありがとうハトエル。しかし、人間ならば、騎士ならば正義を重んじるのは当然。なぜ人間には正義という心があるのか。それは神が我々に与えられた試練であり──」
なんか語り出した。聞き流しておこう。
俺は生まれてこのかた自分の命と天秤にかけて釣り合った物と巡りあった事なんかねえけどな。
なんていう事を考えながらセイディの正義論に耳を傾けていると、予想外な話が飛び出した。
「それに、あの伝説の魔法少女まで現れたのだ。我ら騎士団が怯む訳にはいかない」
「なに? 魔法少女?」
「セイディもその話聞いたんだっ」
俺なんかよりも圧倒的な食い付き様のアイリ。
「そうなのっ、現れたんだよ魔法少女! ほんとのほんとに!」
「うん、モーニング市場の兵士達からも報告を受けた。噂ではなく事実らしいな。にわかには信じられないが……」
「本当なのっ! 私、何度も会ってるの!」
「何?! 会ったのかアイリ?」
「うんっ」
途端にニッコニッコモードに入って語り出すアイリ。どうやら極度の魔法少女厄介オタクらしい。
「まさに伝説の通りなのっ。可愛くて、清楚で、凛々しくて、かわいくて、華やかで、強くて、優しくて、かわいくて……」
語彙力も溶けるほどの熱心さだ。
そんな幼馴染みの話を黙って聞いていたセイディだったが、やがて神妙な顔で頷いた。
「そうか。アイリが言うなら間違いない。本当に伝説の魔法少女が現れるとは。しかし、彼女は何百年も昔の戦士のはず。人間じゃないのか? それとも別人?」
ご名答。別人だ。なんなら本人は今ここに君らと卓を囲んでいるぜ。
「魔法少女、か……。私も昔は絵本で何度も読んだな。もし魔法少女になれたら正義のためにその力を使いたいと願ったものだ。ふふふ、懐かしいな」
「へえー。お前みたいな刃物女でも魔法少女とか興味あるのか」
「この国に生まれた女子なら誰もが一度は憧れる存在だ。特に小さな子供ならなおのこと」
マジか。と言う事は、俺はこの国のロリ達全てを従える事すら可能という事か。
「アイリ、お前も大きなお友達だったとはな」
「あはは……やっぱり変ですかね。この歳で魔法少女に憧れるなんて」
「そんな事はない」
俺がキメようとしたセリフをセイディが横取りした。
「アイリのような清き心の持ち主なら想いを馳せても当然だ。むしろ私はてっきりアイリが魔法少女なのかと思ったぞ」
「あはは、違うよ~。でも……」
アイリが天井をふわりとした瞳で見上げて言う。
「なれたら良いなあ」
「……」
代わって欲しいわマジで。
と、魔法少女の話題で座が温まってきた時だ。
「あっ!?」
とハトエルが声を上げた。
「なんだよ。トイレの場所は知ってるだろ?」
「だから違いますーっ! そうじゃなくてっ……!」
アイリとセイディの視線を受けてハトエルがそっと耳打ちしてくる。
「あの気配ですっ、サンセットレイクやモーニング市場で感じた……」
「なんだと?」
まさか、またオニックスが……。
──カンカンカンッ、カンカンカンッ──
お疲れ様です。次話に続きます。




