56話──別視点⑧〈二人の四天王〉
ふと振り返った少女は、今しがた出会った妙な三人の背中を見送った。
三人は何か楽しそうに話しながら歩いていった。
「……変な奴ら」
「何やってんだよお前」
そこへ一人の青年が近寄る。
筋肉が引き締まった、しなやかな痩身の青年であった。
鋭い目つきや、大きな傷跡の付いた頬などはとても温厚な人物像を連想出来そうにない。
その痩せた身体といい顔といい、その青年は飢えた肉食動物のような印象を与える。
一般的な町人の衣服を着ていたが、シャツは胸元のボタンを外したり、裾を捲って日に焼けた腕を露にしたり、だらしなく着崩している。
耳に派手なピアスを入れ、首には鎖のようなアクセサリーを垂らしていたが、指に着けたリングだけは落ち着いた意匠の一品であった。
歩き去っていく三人の影。望、ハトエル、アイリらを遠目にして青年が鼻で笑う。
「はは~ん。さてはお友達でも作ったのか?」
「ばっ!? んな訳ないでしょう?! ここは敵地、あいつらは敵よ?」
少女が顔をしかめる。
「あんたがチンタラやってるから余計な仕事が増えたのよ!」
「ああ?! 人のせいにすんなよ! てめえがアホなだけだろ!」
「なんですってー!?」
『おい、二人とも。聞こえるか?』
言い合いになりかけた二人とは別の声がその場に生まれた。
青年がかったるそうにポケットの中に手を突っ込み、アミュレットを引き出す。
「んだよ、何か用かよ」
「何よっ。用件なら早くなさいよね!」
少女も懐から同じアミュレットを引き出して、口を尖らせる。
「あんたさあ、オニックスの奴が今日来るって言ってたのに、まだ来てないんだけど。どうなってんのよ」
『実はオニックス用のリングが作動不良でな。今コリエが調整しているから合流は明日になる予定だ』
「どーでもいいんだけどよ、この指輪の趣味が俺に合わねーんだが」
『そこはコリエのセンスだ。我慢しろ。それより、ジェイド。変身能力自体は良好か?』
そう聞かれ、青年こと帝国軍四天王の一人ジェイド・ウォルフは不敵に笑った。
「ああ、完璧だぜ。あのチビにもよくやったって言っておけ。けど、リングのデザインはもっと凝るようにも言っておけ」
『一応伝えておこう。サフィラは?』
「あたしは元々必要ないから使ってないわ」
そう言って答える少女、サラことサフィラ。
帝国軍四天王の一人サフィラ・マーコートである。
「だからコリエには別の注文をしておいたのよ。逆に、トワールの標準的な姿になるようにしてくれって」
『なるほど。つまり、普段はそのままで、事を起こす時のみリングを使うと?』
「ええ。実はあたしのリングは結構前に作って貰ってあってさ。戦場で戦う時はそっちの姿だったわ。だからあたしの素顔知ってる奴は王国側には居ないはずよ」
『そうか。確かにお前は元々王国に居ても珍しくない種族だ。そっちの方が良いだろう』
通信アミュレットの相手、ガルネットが会話を続ける。
『だが、王国での暮らしには細心の注意を払え。特にジェイドは魔昌石の供給ルートに気をつけろ』
「ちっ、めんどくせえな。今さら隠密行動なんかしたって仕方ねえだろ。オニックスの野郎が派手に暴れたんだからよ」
「そうよ」
サフィラが不満そうに同意する。
「王都だって兵士やナイトがあっちこち歩き回ってるのよ。流石に町全体に探知魔法はかかってないからバレてないけど、その内警戒体制が強化されるわよ。もうさっさとパパーッとやった方が良いんじゃない?」
『言いたい事は分かるが、王城への攻撃は慎重にやらなくてはならない。特に、水晶の機能は俺達も完全に把握していないからな。実験は完璧に行っておくべきだろう』
ガルネットの考えに二人は不服そうなままだった。
「あんたの計画ってさあ、ちょっと雑過ぎない? 隠密、隠密~とか言いながら最後は結局、派手にいこうって作戦じゃん。て言うか、もう隠れるのも意味薄いと思うし」
『ぐむっ……。まあ、それは否定しないが、我々の命運はレイド・ストーンにかかってるのだ。だから、本番で作動しなかった時が一番マズい。そこは慎重にいく。それまでは出来るだけこちらの戦力を悟られない方がいいだろう』
「それにしても……。イクリプスねえ。コリエがそんな物を作れるとは思えないけど」
『コリエはあくまで魔力の凝縮と携帯性を可能にした水晶の設計をしただけで、モンスター達を凶暴化させたりイクリプスを出現させる機能を作ったのは“あの男”だ』
サフィラとジェイドの二人が眉をひそめる。
「あいつか」
「あんな正体の知れない奴の作った物に帝国の命運を委ねていいの?」
『すでにコリエも他の魔道師も性能に問題は無いと結論を出している。あの男の目的は何かは分からないが、我々に協力している事は間違いない。まあ、今はな』
「「……」」
『とにかく──』
沈黙をガルネットの通信が絶つ。
『すでに相手に警戒されてはいるが、まだ我々の戦力や水晶──レイド・ストーンの詳細に関しては知らないはずだ。ここで水晶の力を証明し、駆使して決戦に望む。それまではなるべく王都への本格的な攻撃は控えろ』
「ま、その辺は保証しかねるが。分かったぜ」
「同じく。もっと良い方法とか見つけたらそっちにするわ」
『頼むから前もって連絡はしてくれ……』
そこで通信は終わった。
二人はアミュレットを仕舞い、怪訝な顔を見合わせた。
「ガルネットの作戦にしては雑よね」
「他に打つ手が無いらしいからな。それに、“あの男”いわくレイド・ストーンは王都に近いほど真価が発揮されんだとよ」
「なにそれ、おかしくない? だってあたし達がやる実験って王都でも作動するかどうか確認するためなんでしょ? なのに真価が発揮されるってどういうこと?」
「んなもん俺が知る訳ねえだろ」
舌打ちするジェイド。
「こんな所でこんな意味不明な事なんざしてねえで俺らが戦場に戻りゃいいんだ」
「……とにかく、早いとこレイド・ストーンを使いましょ」
そう言ってサフィラが懐から水晶を取り出すと、それをジェイドが止めた。
「まあ待てよ。先に俺にやらせてくれや。このオモチャが本当に役に立つかどうかだけ見てーからさ」
そう言い、自分の水晶を取り出す。
「うしっ。んで、こいつをどうすりゃいいんだったか?」
「自分から言っておいて知らないの? まったく。それに魔力を込めて『顕現せよ、我らが化身イクリプス・オーブ』って唱えてモンスターと合体させんのよ。まあ、詠唱に関しては意味さえ同じなら何でもいいみたいだけど」
「はーん。面白そうじゃんか。お?」
ジェイドは先ほどサフィラが倒したバングリズの死体に目を止めた。
「あれって使えるのか?」
「分からないわ。まだオニックスがやっただけで、どこまで出来るかも判ってないし」
「なら、これも検証ってやつか。よし」
トンっと跳んで、バングリズの死体の前に降り立つジェイド。
「魔力を込めるんだよな。っし! うおらあああああっ!」
水晶を握りしめ、気合いの雄叫びを上げるジェイド。
その全身から可視化されたオーラが揺めき立つ。
「う、うおおっ?! こ、こいつは思ったよりゴッソリ吸われやがるなっ……!」
「ほら、呪文!」
隣に来たサフィラに言われ、ジェイドが詠唱する。
「出でよ、我らが化身イクリプス・オーブ!」
その声と共に、水晶が一際大きく輝き出して、辺りに黒い影を噴き出す。
それが形を変えて球体へと形成される。
「ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ、で、出来たぞ……!」
「後は合体させたいモンスターに放てば良いだけよ」
そう言って、サフィラも自分の懐から水晶を取り出した。
「さて。あたしも第一の機能実験をしないとね」
「おい、このオーブどうすりゃいいんだ?」
「融合させたいモンスターに放てばいいらしいわ。でも、少し待って。先にあたしがこっちの機能を使うから」
やがて、周囲の森が妖しくざわめき、数えきれない影がゾロゾロと集まり出した……。
お疲れ様です。次話に続きます。




