表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/139

55話──異世界美少女と言えばエルフ

 





『グオンッ』


 バングリズは小さな悲鳴のような声を上げると、その場で顔面を押さえながら転がった。


「なっ、今のは?!」


『たくっ、情けないわね。そんな程度のモンスターにも勝てないの?』


 そんなクソ生意気な事を言う声は美しくて、美麗な少女の物だとすぐに分かった。


 振り向くよりも先に、横をふわりとした花の香水が通り抜けた。


「ほら、退いてなさい」


 背中をこちらに向けて前に出る人物。魔法使いらしいローブを優雅に靡かせ、一緒に揺れる長い髪は日の光に煌めく薄い金髪。


『グオウッ』

「さっさと森に帰りなさい。死にたいの?」


 その少女がそう言って、手をかざす。

 再び殺意を放ちながら躍りかかってくるバングリズ。


「この馬鹿! サンダー・アロー!」


 少女の詠唱と共にバチッとその手が白紫に発光する。


 ──バリッ──


『グオンッ』


 一瞬、目が眩んだかと思った後、俺の目に写っていたのは、熊モンスターのずんぐりとした体がプスプスと煙を上げながらズシンっと倒れる姿だった。


 バングリズは白目を剥いたまま、起き上がる気配はなかった。


「はぁ……」


 少女が肩を落としてため息を吐き出す。

 そして、こちらに振り向いた。


「あんたら、何してんの?」


 棘のあるような声音で言う少女。


 初めて見たそのご尊顔は、なかなかの美形だった。


 サラッと追従した金髪は細い絹のようで、どこか神秘的な感じがした。

 顔の作りは美人タイプだが、その中でも特にキツめの感じだ。


 ちょっと怒りやすそうなツリ目の間に不機嫌そうな皺を寄せて、ムッと紡いだ口は今にも文句を言いそうに尖っている。


 強気な性格をそのまま隠しもせずに前面へと出力したような顔だった。しかし、全体的なバランスは見事に整っており、美少女なのは間違いない。

 あえて例えるなら……『オタクにも陽キャにも優しくない、群れる事を嫌ってそうな気難しい系高嶺の花(なぜか主人公にはツンデレ)』といった奴だ。


 だが、何よりも特徴的なのはその耳だ。尖り具合が明らかに普通の人間とは違う。


 異世界、ファンタジー、美少女、トンガリ耳という方程式から導き出される解は一つしかない。


 そう、エルフだろう。


「あのさ。初対面の顔をじろじろ見るのは止めてくんないかしら?」

「おっと、失礼。俺は美少女に出会うと、じっくり観察するクセがあるんだ」

「び、美少女って……えっ、それあたしの事?」


 おや?


 意外にも面食らったような反応をする謎の美少女。


「そ、そんなお世辞は要らないわ! と、ともかく、えっと、あれよ、あれ! 怪我とか無いんでしょ? 早く立ちなさいよ。ほら、そっちのアンタも」


 そう言って、少女は俺の横で目を丸くしていたアイリに手を伸ばした。


「ほら」

「あ、ありがとうございます!」


 立ち上がり、謎の少女の手を握るアイリ。


「助かりました。ありがとうございます」

「べ、別に。礼なんて要らないわ。元々助ける気なんか無かったし……」

「えっ?」


 最後の方は小声になっていたが、ツンデレテンプレートみたいなワードは聞こえていた。


「と、ともかく! 怪我無いんならもっとしっかりしなさいよね。アンタら、一応冒険者なんでしょ?」


 俺らの腕章を見て少女がそう言う。


「あんな雑魚モンスターくらいに全滅なんて情けないわよ。三人も居たのに……」


 と、言いかけて。少女がハトエルに視線を移してそのまま止まった。


「……」

「?」


 なんだ?


 じっと見つめられているハトエルも頭に?を浮かべている。


「あの、どうかしましたか、お姉さん?」


 ハトエルがそう聞くと


「か……」

「か?」

「かわいいーっ!」

「「「!?」」」


 突然叫んで抱きつく少女。あのキツめな雰囲気がマッハで雪解けしてデレデレな笑顔でハトエルを撫でくり回し始めた。


「何この子っ、めっちゃ可愛い! あたしが思い描く天使そのものじゃん! まさかこんな可愛い子が実在するなんて! しかもこんな王国に!」

「えへへ~、そんな可愛いだなんて~」


 社交辞令のお世辞も分からねえアホ天使はニヘラ~っとだらしない顔をしていた。


「んーっ! ほんと可愛い~! あたし、こういう可愛いのに目が無いのよ~!」


 そう言って、花畑の頭を撫で撫でする少女。

 どうやら社交辞令の言葉ではなく、この少女自身がちょっと変な奴っぽい。


「は~……癒される~……最近コリエにも会えてなかったから尚更よねえ……はっ!?」


 俺とアイリの視線に気づいたのだろう。少女がハッとして俺らに振り向いた。

 その顔がみるみる内に赤面化する。


「……ごほん! ま、まあ可愛い子ね。子供って無条件に可愛らしいものだし」


 もう手遅れだが、クールさを取り繕う少女。

 しかし、名残惜しそうにハトエルから手を離しているのが丸分かりだ。


「でも、なんでアンタみたいな小さな子供がこんな所に?」

「はいっ。パパのクエストの手伝いに来ているんです」

「パパ? え?」


 少女の目が俺に向く。


「アンタのお父さんってコレなの?」


 コレ扱いされるオレ。


「え? どうやったらコレからこんな可愛い子が生まれてくるの?」

「なあ、どうして初対面の奴はことごとく俺への好感度低いんだ? 俺が何したって言うよ?」


 このメスガキめ。どうにか弱みを握ってそのなかなかなパイオツを堪能してやる。


「おい、このツンデレエルフ。口の利き方には気をつけて貰おうか。お前のような古き良き平成ヒロインなんざ俺は何人も攻略してきたぜ。当然、弱点もなんとなく分かる。いつも素直になれなくて、後で一人ため息つきながら『はあ、どうしてあたしって素直になれないのかしら? 馬鹿っ、あたしの馬鹿!』って言って、一人でブランコをキイキイ鳴らしてるクチだろう? 不器用メンタルティーンエイジャーめ」

「ねえ、こいつケンカ売ってんのかしら?」

「ご、ごめんなさいお姉さん。パパは口と頭と性格が非常に悪くて……」

「それ良い所無くない?」


 ツンデレエルフは俺の事を冷めた目で見やった。


「本当にこの子の父親なのかしら? 悪い大人が騙してるだけなんじゃ?」


 父娘じゃないのは事実なんだが、なんかムカつく。


「まあ、いいわ別に。他人の家庭の事情なんて知った事じゃないし」


 少女が踵を返す。


「じゃ、あたしは行くから」

「あ、はいっ。ありがとうございました」

「別に……。あら?」


 去りかけた少女が地面に転がっている壊れた杖に目を止める。さっきバングリズに攻撃されて折れてしまったアイリの物だ。


「これは……」

「あっ。あはは……折れちゃったかぁ……」


 バツが悪そうに苦笑いしながら拾い上げるアイリ。


「さっきの突進で折られちゃったみたい。新しいの買わないとなあ」


 そう明るく言ってみせるアイリだったが、どこか寂しそうに見えた。

 もしかしたら思い出の品だったのだろうか。


 それを察したのか、少女が尋ねた。


「それ、大切な杖だったの?」

「ええ、一応。お父さんが私の誕生日に買ってくれた物でして」


 思い出どころじゃなくて、めちゃくちゃ重い話の詰まった杖だった。


「…………。ちょっと貸して」

「え?」


 返答する間もなく、少女が杖を取り上げる。


「……命の息吹きよ、形に宿りて甦り、再び戻れ。汝のあるべき姿思い出し、その姿を取り戻せ。命の息吹きよ、形に……」


 そしてブツブツと意味不明の呪文を呟き始めた。

 するとどうだろう。


 ──ポワ……──


「あっ」

「おっ?」

「おお~!」


 杖が色を変えてシュルシュルと再生し始めた。

 まるで、元の木に戻って折れた枝から新しい枝が生えるように、再生していく。


 それほど時間もかけずに、杖が元に戻る。


「はい。もう折るんじゃないわよ」


 そしてつっけんどんにアイリへと返す。

 アイリは驚いたように目を丸くしていたが、それがキラキラと輝きだした。


「す、すごいっ! 今の再生魔法ですよね?」

「まあね」


 興奮するアイリに、少女はツンっとそっぽ向いて答えた。


「アンタもこんくらいは出来るようになっておきなさいよ。せっかく良い杖を持ってるんだから」

「はいっ!」


『おーいっ、サラー!』


「あ」


 と、そこで。遠くから少女を呼んでるらしき声が聞こえてきた。大きく手を振る人影が見える。


 少女がそちらに足を向ける。


「あたし、もう行くわ。待たせてる奴が居るし」

「はいっ! 本当にありがとうございました! あの、貴女の名前は?」

「あたしの? あたしは……サラよ」

「私はアイリです! サラさん、どうもありがとう!」

「べ、別にもういいわよ。礼なんか一回で」

「ツンデレエルフ少女。俺からも礼を言おう。大義であった」

「アンタの礼は普通に要らない」


 いつかスカート捲ってやる。


「じゃ」


 そう言って少女はスタスタと去っていった。


 アイリはその背中に感謝の視線を送り続けていた。



お疲れ様です。次話に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ