54話──あわや全滅?
「それでは皆さん、また。わっちはしばらくこの辺りでなんらかの商売をしてますんで、よかったらまた寄ってください」
「そんじゃあな。商売頑張れよ。借金したくなったら俺んとこ来い。トイチで貸してやる」
「ハ、ハハ。もう借金は勘弁……」
なんか闇深そうな言葉を残したリンの店を後にし、俺らは帰る事にした。
「ふんふふんふ~んっ、らんたった~」
「ふふ。ハトエルちゃん、ご機嫌だね」
「はいっ! パパがこんなに素敵な物をプレゼントしてくれましたから!」
「お花畑なお前の頭に蝶が寄せられたんだろ」
「えへへ。ちょっとくらいの悪口ならいいですよ」
ニコニコ笑顔は少しも陰ることなく、ハトエルは鼻歌ステップで進み続けた。
「ふふふ。ハトエルちゃん本当に嬉しそう」
「だなあ」
「ノゾムさんもなんだかんだ言って一人娘は可愛いんですね」
フェイクファミリーだなんて言えないな。
「あの、差し支えなければなんですが、その。奥さんは?」
「え? あー、えーっと。今は居ない」
元から居ない。というか、ずっと居ない。一度も居た事ない。
「そうでしたか。すみません」
「いや、いい。まあ、けどあれだ。ハトエルもああやって元気に育ってるし、悪くないさ」
それっぽいことを言っておく。今後のために、妻は死んだって事にするか、それとも離婚したって事にするかハトエルと相談しておいた方が良さそうだ。リアルにいくなら、博打のやりすぎで逃げられたってのがいいだろう。
「パパ! 今日はこの後どうしますか?」
バザー市場から出た辺りで、ハトエルが聞いてきた。
「そうだなあ。ちょっと散財しちまったし、クエストでも行くか」
「それなら私も行きます。付き合ってもらいましたし」
「おお、助かる」
アイリが居れば少し背伸びしたクエストでも行けるだろう。短時間で大きな稼ぎになりそうだ。
「そんじゃあ、ギルド行くか」
「はい」
ギルドに着いた俺らは、早速掲示板の今日のクエストを確認した。
ギルドにはそれなりの冒険者が居て飯を食っていたが、会話の内容に耳を立てると、こんな事を話していた。
「なあ、あの噂知ってるか? 魔法少女が現れたっていう」
「ああ、聞いた。変な噂が流行ってるな」
「けどよ、サンセットレイクに大量のモンスターが現れて誰かがみんな倒したのは確からしいぜ」
「ねえ、聞いた? 昨日、東の市場でもさ、帝国軍の四天王とかいうのが現れたって」
「聞いた、聞いた。しかも、魔法少女が現れて大暴れしたらしいよ」
「ちげえよ、助けてくれたんだってよ」
「魔法少女ってめちゃくちゃ可愛いらしいぞ」
「手から爆裂魔法を乱射出来るそうだぞ」
「なんでも魔法少女は蟹が好物だとか」
「伝説の人物とは別人なのか?」
「実は魔法少女って今でも生きてるって話だぜ」
なんだか事実無根な事も話されてる。フェイクニュースとか噂ってのはこうやってあること無い事をどんどん雪だるま式にして大きくなっていくんだろう。
「魔法少女の噂が段々拡がってきましたね」
「なんだか話が少し違うような気がするけどな」
「うう、みんなに私の見た事を話したい。それに、魔法少女の正しい知識も教えてあげたい……」
「日が暮れるから止めとけ」
まさか当の本人がこんなとこに居るなんて思いもよらないだろうな。しかも、男だとは。
「そんな事より、クエスト選ぼうぜ」
「はい。えーっと。あ、これなんかどうですか?」
“討伐クエスト。西フロントーチ砦倉庫のベンラット討伐。期限、春の第2節の20日まで。適正レベルルーキー以上。報酬、一匹につき20リルク。(報酬受渡は五匹以上から)上限2000リルクまで”
「お、ベンラットか。こいつらなら俺でも倒せる。西の砦って何だ?」
「町から出て、歩きで20分かそこらの所に砦があるんです。そこのようですね。私もここではクエスト受けた事が無いんで、詳細は向こうに着いてからでしょう」
新しい場所でのクエストか。しかし、討伐対象は最弱のベンラットだ。しかもこっちにはアイリも居る。
「よし。こいつを受けよう」
「分かりました。報酬上限は個人の上限ですので、二人で2000リルク越えても大丈夫です」
「なるほど。それなら上限いっぱい稼ぐか」
「パパ、アイリさん、頑張りましょう!」
ギルドを後にし、先ほどのマーケットをそのまま通り抜けて西門から町の外へと出た。
街道に出て、後はゆっくり歩いていけばいいだけだ。
「今回のクエストは近場で助かるな。しかし、あのネズミどもどこにでも沸くんだな」
「ベンラットは普通の動物とあまり変わらないモンスターですから」
「うっ。嫌な事思い出しちまった。あの馬鹿女騎士に証拠品をいくつか駄目にされたんだ……」
「そ、それは……。今度セイディにちゃんと謝るように言っておきますね」
話してる内に、すぐ砦が見えてきた。
「あそこだな」
「はい。あ、軍の施設に入るにはギルドのメンバーズカードが必要となります。持ってますか?」
「おう、あるぞ。ついでに名誉市民権の証明書もある。怖いものは──」
「あっ!」
と、そこで。
途端にハトエルが声を上げた。
「なんだ、また──」
「違いますっ! おトイレじゃありません!」
流石に俺の言葉を先読みするハトエル。
「モンスターです! すぐ近くに!」
その言葉とほぼ同時に、近くの林から大きな影がガサッと出てきた。
『グオオウッ』
「うおっ!? なんだあ?!」
「バングリズ! 中級モンスターです!」
叫んでアイリが杖を構える。
俺らの前に現れたのは、熊のようなモンスター。少し毛色を変えて、顔つきが凶悪な感じになったヒグマのような奴だ。
「気をつけて下さい! 見た目よりも俊敏で、一撃で人間の骨を粉砕するほどの怪力の持ち主です!」
「もろヒグマじゃねえか!」
ライフルも無え、魔法も射てねえ、オラには剣しかねえ。このままじゃ肉弾戦。
「お、俺はこんなファンタジーやだ~! こんな戦い方やだ~! チートをくれ~!」
「パパ! そんな事言ってないで! あっ、来ます!」
『ゴオウッ』
アイリの言った通り、見た目以上に素早い動きで襲いかかってくる。
「ウォークライ!」
アイリの補助魔法が体に流れ込むのと同時に、振り下ろされた剛腕の一撃を剣で受け止める。
──ガッキイッン──
目の前で火花が散る。
「うおおっ?! な、なんて威力!」
『ゴオオウ』
とんでもない怪力だ。肉体強化魔法をしてもらっても、やっと防げたレベルだ。
それすら、今にも押しきられそうに刃がギリギリといっている。
「ぐっ、うう!? ち、力強っ……!」
『ゴオウッ』
再度振り上げられる必殺熊パンチモーション。
「くっ! おらあっ!」
それが繰り出される前に、こっちから攻撃を加える。
──ガッ──
「いいっ?!」
『グオオウッ』
俺の剣を毛むくじゃらのぶっとい腕が防いだ。怪力だけじゃない。体毛や身体そのものが相当に硬い。
『ゴオオウッ』
──ズイッ──
「うおっ!?」
はねのけられるように、剣を押し返され、今度は頭から突っ込むように体当たりを繰り出してきた。
予想していなかった攻撃に、俺は対処が遅れた。
──ドゴッ──
「がっ……!?」
脳が揺れるような衝撃。
自分の身体が呆気なくポーンッと吹き飛ばされるのが分かった。
そんな事を理解したと同時に、ケツから地面に叩きつけられる感覚。
「いって?!」
『グオオウッ』
クマモンスターがよだれを振り撒いて突進してくる。
「うわああっ!?」
「ノゾムさんっ!」
「あっ! アイリさん!」
その瞬間、アイリが俺の前に飛び出してきた。
彼女の華奢な体の何倍もありそうな巨体が勢いよくぶつかる。
──バキッ──
「きゃああっ!?」
「アイリ!」
地面から足が浮いて吹き飛ぶアイリ。
それと一緒に、折れた杖が地面に落ちた。
「あぐっ!」
背中から落ちるアイリ。
『グオルルルル……』
バングリズが獰猛な牙を見せて身構える。
「っ! アイリ!」
狙いは俺じゃない。横に倒れるアイリだ。
「アイリさんっ!」
少し離れた所に居たハトエルが駆け出すが、間に合わない。
駄目だ。なりふり構ってられない。
こうなったら──
『サンダー・ダーツ!』
「!?」
ポケットの中のクリスタルに指をかけたところで誰かの声がした。
そして次の瞬間。どこからともなく発光する矢のような物が飛んできた。
それは俺の頬を掠めると、飛び上がりかけていたバングリズに当たり、
──バチイッ──
目も眩むような紫色の光で弾けた。
お疲れ様です。次話に続きます。




