53話──小さなプレゼント
バザーと言っても、青空市場がオーソドックスなこの世界では普通の店とあまり見分けがつかない。
色んな露店が並んで、色んな商品が売られている。それだけだ。
しかし、どことなく雰囲気が違うような気がする。
「ティーカップセットでーす。カップが一つ紛失していますが、三人分はありまーす。人助けも出来てカップも手に入るお得なセットでーす」
「古くなったコートだが、汚れも落ちてる。安くなってるから買って損はないさ」
「冒険者の引退品のポーチだよ。冒険者の人はここで安く手に入れるのも手さ」
「貴方のお買い上げが子供達の明日を救いまーすっ。ぜひお立ち寄りくださーいっ」
商人。と言うよりは、素人の集団がほのぼのと売ってるゆるい空気だ。
「なるほど。チャリティーな感じだな」
「パパ、人間は素晴らしくてユニークな事を考えつきますね。不用になった物を、それを必要とする人に売って、そのお金を必要とする所へ恵む。不用品を処分したい人も、安く物を手に入れたい人も、お金が欲しい人も、誰かに使って欲しいと思ってる品物も皆幸せになれる愛に満ちた営みです」
「愛に満ちた営みってのはな、すっ裸になって互いに相手を貪り合う行いを言うんだ」
「それも愛ですが、これは精神的で文化的な愛じゃないですか」
「どうだかねー。俺にはお涙ちょうだい合戦の桶狭間に見えるね」
「もう。本当に素直じゃない」
だが、安く物が手に入るなら俺にとっても悪い話ではない。
少し見回ってもいいな。
「アイリは何を買うんだ?」
「私はポーチを買おうと思って。今使っているのはモンスターと戦うのを目的にした物なので、薬草とかの素材を入れるのを目的とした大容量の物を買おうかなと」
「なんだ、冒険者辞めるのか?」
「あ、いえ。ただ、もう無理して高い報酬のクエストを受けなくてもよくなったので、薬草の採集などのクエストを細々としていこうかなーと思って」
「そうか」
さっきも言ってたな。お母さんの病が治ったと。前に聞いた話では、この子は母親の薬代を稼ぐために冒険者になったようだから、もうそんなに荒稼ぎする必要もないんだろう。
「なら、これからはお母さんの傍に居て、孝行してやんなくちゃな」
「はいっ。そのつもりです」
本当はもっと俺のクエストを手伝って欲しかったが、まあ仕方ない。モンスターの討伐クエストなんて危険な仕事してるんじゃあ、母親も心配だろう。
アイリの薬草クエストに、俺も参加させて貰ったりくらいはするか。
「お。あそこに冒険者の装備っぽいのが売られてるぞ。あそこならあるんじゃないか?」
「そうですね。行ってみましょう」
ゴザのような物を広げて防具や武器を並べた店。店主は壮年にさしかかったくらいのオッサンで、いかにも元戦士ですって感じの顔とガタイをしていた。
「よ、冒険者だな。ここは俺が昔使ってた冒険者用の装備が置いてある。ゆっくり見てって損はないぞ」
「引退されたんですか?」
「ああ、もう歳だからな。けど、昔はパワフルな冒険者だったんだぞ。Aランクだからな」
「凄いですね! 私なんて半年かけてやっとDランクです」
「はは、普通はそんなもんさ。十年かけてBに行けば上出来ってくらいなんだからさ」
そうなのか。俺の知る冒険者って大体一ヶ月かそこらでSランクになるんだが。
「あ、このポーチ、採集用ですね」
「おう。俺が駆け出しの頃に使ってたんだ。容量も大きいから一回のクエストでかなりの採集が出来るぞ。もっと本格的に素材集めしたいなら、こっちのバックパックもお勧めだ。万が一の戦闘にも邪魔にならない大きさだし、素材を小分けに入れられる形をしてる」
「どうしようかな。じゃあ、こっちのポーチを下さい」
「まいどっ!」
オッサンが俺にも目を向ける。
「兄ちゃんも何か買ってくかい? ここなら冒険者の良い品が安く手に入るぜ?」
「そうだなあ。実を言うと何が必要かわかんねえんだ」
「得物は剣かい? なら、これがお勧めだ」
オッサンがスマホサイズくらいの金属製の板を指差す。
「こいつは輝甲石ってモンで作られた砥石でな。普通の砥石よりも頑丈だし、長持ちするぞ」
「70リルクか」
普通の砥石が50くらいだったはずだが、見た目からして上質そうだ。これはお買い得だろう。
「買った! 落札だ!」
「はっはっは! 変わった宣言だな。まいど!」
思わぬ収穫だ。
「良かったですねノゾムさん」
「おう。ここに来た甲斐があったな。ん?」
「……むぅ」
帰ろうかと考えていたら、袖を引っ張られる感覚。ハトエルが拗ねたように見上げていた。
「なんだ、トイレか? ほら、あの辺に──」
「そうじゃないですっ。私にも何か買ってくださいよ~。さっき買ってくれるって言ったじゃないですかー」
「馬鹿言うな。俺の予算はとっくに国債まみれの火の車だ。綿飴の一つまみだって買わないぞ」
「ケチーっ。さっきはお洋服を買ってくれるって言ったのにーっ」
「お、グッドアイディアを思いついたぞ。ここのバザーでお前の服を売っちまおう。そうすりゃあ少しはペイバックになる」
「貴方の良心はお金と共に消費されるんですか?!」
「うるせえ! 脱げっ!」
「わーんっ! えっちー!! 止めてー!」
「見られて恥ずかしいもんでもねえだろ!」
「ちょ、ちょっとノゾムさん!」
アイリがハトエルを庇うようにして俺から引き離す。
「ハトエルちゃんが可哀想ですよ。事あるごとにいじめるのは良くないです」
「いじめてなんかいない。スキンシップだ」
「嘘です! あの目は獣の目でした!」
アイリに泣きつくハトエル。
「うえ~んっ、パパは本当にケチで恥知らずで、変態意地悪アラサーです! 私、アイリさんみたいな優しい人の下に生まれたかったー!」
「よしよし、泣かないでハトエルちゃん」
ハトエルをあやしながら、アイリは非難めいた目を俺に向けてきた。
「たくっ。大げさな奴だ」
『あり? あ、やっぱり。お三方ー』
「ん?」
うんざりしている所へ、誰かの呼ぶ声がした。
振り返ってみると、近くに木箱を積み上げてゴザを乗せただけの露店とも言い難い露店があり、そこであの小麦粉娘こと、リンが手を振っていた。
「こんな所でお会いするとは思っておりやせんでした。お買い物ですかー?」
「リンさん!」
「あ、リンさんっ」
三人でリンの店に立ち寄る。
「なんだよ、お前もバザーやってたのか」
「あ、いえ。わっちは普通にフリーマーケットとして出店してやす。心機一転、頑張っていこうかと思って」
少しこそばゆそうに笑うリン。なんだか大分元気になったようだ。
「ずいぶん機嫌が良さそうだな。何かあったのか?」
「はい。昨日は皆さんのおかげで命拾いしましたし、魔法少女にも助けて貰いやした。だから、わっちも精一杯生きてこうって、少し吹っ切れたんです」
「そうか。まあ、良かったな」
くそ。こんなに元気を取り戻すなら、やっぱパンマッシュを受け取っておくべきだったな。
「それより、ノゾムさん。良かったら何か買っていきませんか? ノゾムさんには借りもありますし、特別価格で販売いたしやす」
「お、そうか。だが……」
並んでる商品はどれも俺に必要ない物ばかりだ。
小物が多い。それも、女物の。
というか、これ簪とか櫛じゃねえか? じゃらじゃらした玉とか付いてるが。
「なんだか遊郭とかにありそうなモンばっかだな」
「そうなんです。これらはみんな花街の女郎衆の持つモンでして……」
「えっ。まさかお前って遊女だったのか?」
「い、いえ。わっちはとてもそんな華には……と、ともかく。これはみんな中古品ですが、わっちが少しアレンジしたりしてるので、一般のアクセサリーにもお勧めざんす」
確かに普通のペンダントみたいな物や髪飾りもある。少し和風なテイストは残ってるものの、ここの町娘が着けてもおかしくない。
「ん?」
「……」
──じ~っ──
蝶の形の髪飾りをハトエルがじっと見ていた。
欲しいのか?
「……なあ、リン。この蝶のアクセサリーはいくらだ?」
「本来でしたら300リルクですが、ノゾムさんにはお借りがありやす。100リルクにします」
「おおっ、マジかよ」
めっちゃ安値じゃねえか。
「……」
こっちを見上げるハトエル。
まあ、しょうがねえな。
服は買わなかったが、代わりに。
「リン、これをくれ」
「まいどっ。ありがとうございやす」
買った髪飾りをハトエルに渡す。
「ほら」
「いいんですか?」
「いいも何も欲しかったんだろ? あんな物欲しそうな面しといてシラ切んなよ」
ハトエルは少しの間髪飾りをじっと見ていたが、屈託のない笑顔を上げた。
「ありがとうございます! すっごくかわいい! 大切にします!」
その笑顔は、悔しいが天使のように可愛かった。
まあ、装飾品に100リルクは痛い出費だが、たまにはいいか。
お疲れ様です。次話に続きます。




