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52話──奇妙な縁

 





 俺の窮地に現れたのは、能天気聖人ことアイリ。


「ノ、ノゾムさん。それにハトエルちゃん? 一体何が……」

「たっ、助けてくれアイリ!」


 すぐさまアイリを盾にして──もとい、アイリの背中に隠れる。


「イカれた刃物女に因縁をつけられたんだ! なんか、誰でも良いから無性に斬りたくなったとか言って!」

「え、ええっ!?」

「パパ! 嘘つかないで下さい! パパが騎士さんに屈辱的な挑発を繰り返したからでしょう!」


 余計な事言うなアホ天使。んなもん言わなきゃバレねえんだよ。


 と、ここで、アイリは驚くと言うより、妙な反応をした。


「え、えっと。とにかく……セイディ、一旦落ち着いて話そ? ね?」

「え?」


 アイリがそう騎士少女に語りかけると、少女は急に大人しくなった。


「う、うん。まあ、アイリがそう言うなら……」






 なんと。


 あの聖人アイリと、この沸点が低温殺菌牛乳くらいの積極的くっころ女騎士は知り合いだった。


「彼女とは幼馴染みでして。亡くなった私の父とセイディのお父さんが友達だったんで、年も近い私達はよく遊んだりしてました」


 お菓子が売られている店先のベンチに並んで座る俺ら。他の騎士青年達は見回りに行ったため、俺、ハトエル、アイリ、そして女騎士ことセイディ少女の四人で雑談にふける。


「小さい頃はよく遊んだなあ。最近はあまり会えてなかったけど」

「私も心配したぞアイリ。アイリは戦いに向いてないのに冒険者になったなんて聞いたから」

「うん。お母さんの病気の事もあったから。でも、もう大分良くなったから戻ってきたの」

「そうか。それは良かった。おばさん、元気になったのか」


 頬をほころばせるセイディ。

 最初会った時も、さっきまでも、印象としては近寄りにくいカタブツだと思っていたが、その表情は柔らかかった。普通に年相応の可愛らしい女の子の顔だ。


「でも、セイディ。なんでノゾムさんの事を斬ろうなんてしたの?」

「うっ。そ、それより。アイリこそ、こんな不届き者──失礼。こんな変態──失礼。こんなクズ──失礼。こんな──」

「おい、ワザとだろ」


 言い換える度に酷くなりやがる。絶対ワザと言ってやがる。王女みてえな事しやがって。


「ともかく。こんな男と知り合いだったとは……何か弱味でも握られて……いや。違うな」


 ふっと苦笑するセイディ。


「アイリは相手が誰であろうと優しいからな。きっとこの痴れ者に目を付けられてしまったのだろう」

「間違ってはねえんだが、そこまで正々堂々と言われるとムカつくんだが」

「私は嘘は嫌いだ! 君はクズだ!」

「一週回って清々しいぜ!」


 まあ、一割くらいは俺の自業自得でもあるし、仕方ねえか。


「私とノゾムさんはついこの前サンセットレイクで知り合ったの。昨日もクエストを手伝って貰ったりして、お世話になってるの」

「という事は君……ノゾムと言ったか。君も冒険者なのか」

「様を付けろ女騎士。その剣で服剥いでやろうか?」

「アイリっ、やっぱりこんな男と馴れ合うのは止めろ! こいつはいつか不幸を招く!」

「だ、大丈夫だってー」


 あははと苦笑するアイリ。


「確かに、ノゾムさんは口は少し悪いけど、本当は良い人だから」


 弁護して貰ってありがたいが、この子は人を見る目は壊滅的に悪いらしい。


「それに、ほら。こんな可愛い娘さんのハトエルちゃんだって居るんだもの。ねー、ハトエルちゃーん。お父さんの事好きだよねー」

「え。あ、はい」


 おい、何だよ今の一瞬の間は。地味ながらも一番傷つくガチ反応だぞ。


「まあ、仕方ないか。アイリのそういうところは良いところだし。が、ノゾム」


 セイディがジトっとした目を向けてきた。


「彼女の良心につけこんで悪どい事をするようなら、すぐに私の白刃が君の悪しき心を断ち切るだろう。心しておきたまえ」

「おい。なんかドサクサに紛れて俺への無礼をチャラにしようとしてねえか?」

「さ、見回りに戻らなくては。アイリ、気をつけて。近頃は魔族が王都に侵入しているなんて噂もあるから。また会おう」

「うん。私もしばらく王都からは出て行かないつもりだから、また会おうね」

「そっちの君。ハトエルと言ったか。父親で苦労する事も多いだろうが、くじけちゃいけない。頑張るんだぞ」

「はーいっ」


 言いたい事だけ言って、俺には挨拶もなしにセイディは去って行ってしまった。


「…………いやっ、3000リルク寄越せよ!!」

「パパ、まだそんな事言ってるんですか?」

「あのアマあっ! なんかアイリとの再会とかそういうイベントで誤魔化して俺への謝罪もしないで消えたぞ! クソがっ! 今度会ったらオークを召喚して薄い本みてえにしてやる!」

「ノ、ノゾムさん。何を言っているのかはよく分かりませんが、彼女にも悪気は無いんです。怒らないで。ね?」


 なだめるアイリにいちゃもんつけてやる。


「おいおい、アイリちゃんよお。お前の友達、礼儀ってもんがなってねえなあ? どんな教育してんだあ?」

「こらっ、パパ!」


 ──ポコポコ──


 ハトエルのぽこぽこパンチ。


「あろう事かアイリさんに八つ当たりだなんて! 恩知らずの恥知らず!」

「うるせえっ、このガキっ!」

「助けてアイリさん!」


 天使のくせに人の子の背中に回って逃げるハトエル。

 アイリはやはり困ったように笑っていた。


「セイディは少し真面目過ぎるとこもあるし、不器用なとこもあるけれど、正義感が強くて良い子なんです。ノゾムさん、よかったら仲良くしてあげて下さいね」

「そいつは考えものだな。が、確かにあのナイスバディだけは捨てがたい」

「ノゾムさん……」


 仕方ねえ。真面目で不器用って言うなら、その性格を逆手にとった仕返しをしてやる。くくく、覚えてろよお? いつか弱みを握ってエロい事してやる。



「にしても。リンといい、さっきのセイディといい、どうして俺がこの世界で知り合うのは変な奴ばっかりなんだ」

「この世界?」

「あ、いや。この世界に生まれてこの方、なかなかまともな奴に会わねーなと思ってな」


 アイリは少し首を傾げていたが、すぐに納得したように頷いた。


「人の出会いって奇妙ですもんね。私とノゾムさんの出会いも、何か奇妙な運命の導きなのかもしれませんね」


 そう言って笑うアイリ。その笑顔がなんだか羨ましかった。



「ところでノゾムさん。今日はこれから何か予定があるんですか?」

「え? ああ。また何かクエストでもやろうかなと思ってな」

「そうですか。良かったら一緒に買い物でもどうかと思ったんですが、また今度に──」

「行く。ちょうどハトエルに新しい服でも買ってやろうと思ってたんだ」

「ほんとですか?! わーいっ! やったー!」


 まさかデートのお誘いだったとは。ふっ、臨機応変に対処したお陰でまたアイリちゃんとしっぽりだぜ。


 アイリは喜ぶハトエルを微笑ましく見ながら歩きだした。


「それじゃあ行きましょうか」

「おう」


 まさかこの歳でJKくらいの少女とデートに行く事になるとは。


 異世界で良かったぜ。これが元の世界だったら俺は警察に通報されるか、援交野郎だと袋叩きにされていただろう。合法無料パパ活女子ゲット。


「どこへ行くんだ?」

「西門市場です。普段はフリーマーケットが開かれている場所なんですが、今日はバザーもやってるはずなんで」

「バザー?」

「はい。よく行くんです。売り上げ金は教会に寄付されて、身寄りの無い子供達のための食事や衣類などに使われるんです」


 そう言ってはにかむアイリ。


「中古の日用品なども多く、安く手に入るので助かってます」

「そうか」


 それなら、下心で咄嗟に出た嘘だったが、本当にハトエルに何か買ってやるか。


「つくづく3000リルクが惜しいな」

「もう、パパったら。お金が全てじゃないんですよ?」

「いいかハトエル。俺が昔聞いた良い言葉を教えてやろう。『金は全てではないが、金は全ての問題を解決するマスターキーだ』。覚えておけ」

「お金よりも、愛が全てを解決します!」

「ふっ」

「むっ。やーな笑い」


 青いな。やはりしょせんは天使か。


「まあ、お前も一度札束ビンタを食らえば分かるさ。金には勝てないってな」

「アイリさん、この分からず屋なパパに何か言ってやって下さい!」

「あはは、まあまあハトエルちゃん。お金も大事なのは確かだから。お父さんも苦労してるんだよ」


 そう言ってアイリは笑いかけてきた。


「これからもクエスト一緒に頑張りましょうね。ノゾムさんが少しでも良い暮らしが出来るよう、私もお手伝いしますから」


 前世では人の出会いになんて感謝した事は無かったが。

 この二回目の人生では感謝してもいいのかもしれない。



お疲れ様です。次話に続きます。

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