51話──女騎士はただのヤベーやつ
──もぐもぐもぐ……──
「何点ですかっ?」
「うーん。60点」
「ええ~、自信作なのに~」
朝。
それは、元ニートの駆け出しアラサー冒険者と、イマイチ役に立たないポンコツロリ天使が爽やかな食事を楽しむ時間。
「あとよー、スープばっかりだと飽きるぞー。何か凝ったモン作ってくれ」
「むむう。そう思うなら望さんもレシピ勉強して下さいよ」
「俺は食う専門なんだ」
飯が終わり、ハトエルと今日の予定を考える。
「今日はどうしますか?」
「そうだなー。昨日はけっこう疲れたしなー。休みでもいいが……いや。金だ。とにかく金だ。俺が健全なニート生活を謳歌するためにはとにかく金が必要だ。やっぱり今日も働くぞ」
「ふふふ」
「あん? んだよ気色悪く笑いやがって」
「いいえー。口ではお金お金言ってるけど、望さんも人生で一番大切な物は何か知ってますもんね」
「ああ? なんだよ」
「ズバリ、それは……愛!」
世迷い言と共にガタッと立ち上がるハトエル。
「そう、愛に満ちた純粋な心! それに、弱きを助ける正義の心! 悲しみに囚われない自由な心! 誠実で正直な心! それこそ人生で一番大切な物!」
結局どれが一番なんだよ。
「んなもん全部妄想だ、妄想。あるいは幻想だ」
「もーう、そんな事言って~。昨日はあんなに優しかったのに~」
「またそれかよ……」
膝の上に乗ってきて、俺の胸の辺りを指でくりくりするハトエル。昨日からずっとこんな調子だ。
「あれはアイリが居たからだ。あいつはこれからも利用価値があるからな。ああやって信頼度を上げとけば今後も協力してくれるだろ」
「もう、素直じゃないんだから」
「そんな事よりさっさと皿洗いしろ。俺は少し食休みする」
「はいはい」
結局、俺らは朝飯の後にまたギルドへ向かう事にした。
「ちっ。ニートへの道は険しいぜ」
二人で外へ出て、覚え始めた道を歩いていく。
ここへ来てまだ日は浅いが、やがてはこういう光景も俺にとっての普通、日常になってくのだろう。
「? なんか、人通りが多いような?」
「そうですね。兵士の方が多いみたいです」
まだ見慣れない景色にも関わらず、今日は今までと少し違う雰囲気になってるような違和感を感じた。
武装した兵士らしき連中が通りを歩いている。
どことなく殺気立ってると言うか、周囲を睨みつけるような具合だ。
まったく。善良な市民達に因縁つけて歩き回るとは。この国の公務員はギャングばっかりだな。
「何か警戒してるみたいですね」
「そうだな」
おそらく、ここ最近の近辺での事件を受けての警備だろう。特に、敵のお偉いさんが現れたとなれば警戒もやむ無しだ。
『──故に、些細な事であろうとも、見逃してはならない。すれ違う者の中に敵が潜んでいるものと思え!』
『『『はっ!』』』
「ん?」
なんだかやけに気合いの入った声が聞こえる。
見てみると、通りの端で立ち並んでる兵士の一団がおり、そこからの声らしかった。
そいつらは兵士と言うより、もっと精鋭っぽい出で立ちだった。全員腰に立派な剣を差し、かっけえマントをたなびかせている。
たぶん、騎士団だな。ファンタジーお馴染みの。
しかし、どいつもこいつも若い。二十歳いってないくらいのガキばっかだ。
「いいか。王国と王家、そして国民の安心と安全は我々の双肩にかかっている! 気を抜くな! 正義のために命を燃やせ!」
「「「はっ!」」」
リーダーらしき人物は女のようだ。こっちからじゃ後ろ姿しか見えんが、やはり若そうだ。アイリとそう変わらないくらいだろう。
ん?
いや、と言うか。あの女騎士。あの青みがかった髪はどっかで見たような……。
「……あっ! ああーっ!! あいつは昨日の通り魔女騎士!」
「なにっ?! 通り魔だと!?」
俺の声に反応して、その女騎士──昨日、俺の報酬成果をぶったぎってくれやがったあのクソ馬鹿ソードガールが振り向いて剣を抜いた。
「どこだっ!? 通り魔はどこに居る!」
「おめえだよ!」
「なにっ? 誰だ、失礼な発言をするのは! 悪戯なら止めてもら……おう、か?」
騎士少女と目が合う。ピタリと気合いが止まる。
「よーう、姉ちゃん。まさかこんな所で会えるなんてなあ? 俺らって、何か特別な運命の糸で結ばれてるのかもー?」
「き、君は昨日の……」
「おう。昨日、騎士の格好をした刃物女によって魔族と間違えられ、大事な、だ~いじな収入源を断たれた哀れな名誉市民様だ。忘れてなんかねえよな~?」
「……ひ、人違いじゃないかな?」
「おい、目がクロール並に泳ぎ回ってるぞ」
露骨に目を逸らし、パチパチとしばたく少女。
うん。人違いじゃねえな。
「おいっ、女騎士様よお! てめえのせいで昨日は散々だったんだぞ! どうしてくれんだ? ああ?!」
「うっ……そ、それは~。その、大変申し訳ない。し、しかし、私も職務上致し方ない部分があってだな……」
「罪も無い善良なる名誉市民様を殺人未遂したくせに仕方ねえだあ?! 誠意ってのを形にして貰いてえなあ?」
「ど、どうしろと?」
よーし。流石は騎士だけあって真面目な奴のようだ。素直に詫びる気がありそうだ。
「そうだな。昨日の損害賠償と慰謝料で3000リルク。それと、心を込めた謝罪だ」
「ちょ、ちょっとパパ! またそんな恐喝みたいなっ……」
またまた邪魔するように腕をぐいぐいと引っ張ってくるハトエル。
「昨日はあんなに優しかったじゃないですか~! なんでそんな台無しにするような事し始めるんです~?!」
「優しいだあ? それはお前のとんだ勘違いだ。あれは社会的体裁のためにやっただけだ。ふんだくれる相手からはたっぷりふんだくる。それが常識よ」
「もうっ! 正義の騎士さんを恐喝なんて非常識極まりないですよ!」
んなごもっともな意見なんざ聞けるか。
とにかく、俺はこいつにムシャクシャしてるんだ。昨日は金を失ったんだからな。
「さあ、どうなんだよお、騎士ちゃんよお!?」
「う、ううっ……さ、3000リルクか」
そう言って懐から小袋を取り出す少女。
「すまない。持ち合わせが2000リルクほどだ。1000リルクは後日でも構わないか?」
「ああ、いいぜ。ただし、トイチな」
「トイチ? トイチとは?」
「十時間で一割増だ。つまり、十時間したら1100リルクだ」
「んなあっ?! そ、それはいくらなんでも……!」
「おいおいっ! 俺は昨日失った金のせいで一人娘を亡くしたんだぞお?! 病で床に伏していた娘に薬も買ってやれず、死んじまったあ!」
「何言ってるんですかパパ! 私なら生きてますよ!」
「ああ、間違えた。双子の姉妹の片割れだ。んで、こっちのバカな方が残ったんだ」
「言い分の全てが酷すぎて泣きそう!」
仕方ねえ。少し妥協してやるか。
「さあ、どうする騎士様よお! 払いたくねえなら、今すぐここで服脱いでそのボインを拝ませて貰おうか? んー?」
「き、貴様!」
「さっきから聞いてれば!」
「我らが隊長になんて暴言を!」
「サイテー!」
「女の敵!」
部下のガキ騎士どもが騒ぎ始める。
「この痴れ者め!」
「不潔!」
「野蛮人!」
「セクハラクズバカオヤジ!」
──ピキッ──
「黙れガキどもおー! てめえらも連帯責任だー! 男はフルチンダンス、女は全員脱げー!」
「パパっ、これ以上生き恥を晒さないで下さい!」
腕を引っ張るハトエルを振り払い、俯く少女に再度迫る。
「おら、騎士様よお。脱げは楽になるぜえ?」
「もう! どうしてパパはそんな意地悪なんですか!」
「相手の足下見て、弱味につけこむのは社会常識だ。なあ、騎士ちゃん」
「……くっ……」
お?
涙目になって、悔しそうに歯を食い縛り始めている。
これは、まさか! この悔しそうな表情は?!
あの有名な女騎士の必殺技『くっ、殺せ!』が放たれるのでは?
薄い本にしか無いと思っていたあの伝説技を生で見れるのか?!
「ハ、ハトエル! くるぞ! 伝説の『くっころ』が!」
「な、なんですかそれ?」
「くっ……こ、こ……」
くるぞ!
「くっ! 殺す!!」
「ええー?! なんで?!」
まさかの能動的な『くっころ』だった。
──ジャキッ──
「こんな辱しめを受けるくらいなら体裁など知るかー! 今ここで諸悪の根元を叩き斬ってくれる!」
「ノッ、ノオオオーッ!? 止めろー?!」
「た、隊長っ! 落ち着いてください!」
「気を確かに!」
「いくら相手がどうしようもないクズでもそれはいけません!」
ありがたい事にクソ騎士達が止めに入ってくれているが、騎士ちゃんの興奮は抑えられない。
「離せー! 天誅だー!」
「ひええええー?!」
『セ、セイディ? 何してるの?』
と、そこへ、俺の救いとなる天女の声が舞い降りた。
お疲れ様です。次話に続きます。




