49話──俺は気まぐれ魔法少女
「ど、どうしたんですか? どこか痛いんですか?」
ハトエルが気遣わしげに尋ねると、少女は泣きじゃくりながら首を横に振った。
「そ、そうじゃないんですっ。も、申し訳なくて、情けなくてっ……」
「え?」
少女はボロボロと涙を流しながら言った。
「わ、わっちは生まれてからこの方ずっと人様に迷惑ばかりかけて生きてきたんです……だ、だからせめて自分の事くらいは自分でどうにかしようと……で、でも今日だって周りに迷惑ばかりかけてっ……そ、そんなわっちを、あの伝説の魔法少女が助けてくれたなんて、嬉しいし、申し訳ないですしでっ……わあ~んっ!」
言葉の通り、嬉しいのか悲しいのか分からない泣き声を上げ続ける少女。
「わ、わっちには、そんな恩人に返してあげられるお礼が何にも無い……」
「そ、そんな。そんなの必要ないですよ。見返りなんて。ね、ホープ?」
少女の背中を撫でながら、ハトエルが俺を伺うように見た。
「……」
まあ、事情は知らんが……。
なんだか苦労してきたみたいだな。
『3000リルク払え!!』
つうか、俺も絶賛苦労させてる最中だったか。
「……ちょっとここで待っててね」
「あ、ホープ」
「ホープさん?」
「すぐ戻るよ」
一旦その場を後にして、露店の間を歩いて回る。
「たしか、この辺だったよな。あ、あった」
さっき外して放置しておいた俺のポーチ。
そこからパンマッシュを取り出す。
「……」
そして、少女達の元へと戻った。
戻ると、そこではまだ泣き止まない少女をアイリがあやしていた。
「ぐすっ、ご、ごめんなさい……貴女にもお礼を言ってやせんでした……ありがとうございやす……」
「ううん、気にしないで」
「お姉さん、泣かないで。ね?」
同じく慰めていたハトエルが俺に気づく。
「あ、ホープ。あれ? その手にあるのは……」
「……」
俺は少女の傍らに屈んで、その肩をポンっと叩いた。
「お嬢さん」
「ずずっ、は、はい」
「よかったら、これどうぞ」
「え?」
「えっ!?」
俺が少女にパンマッシュを差し出すと、少女が驚き、ハトエルはもっと驚愕した。
「これ、とても貴重なキノコらしいの。売れば結構なお金にもなるらしいよ。貴女にあげる」
「そ、そんなっ! 助けて貰ったのに、その上そんな貴重な物なんか受け取れません!」
驚きと戸惑いを交えて拒否する少女。
「いいの」
その手を取ってパンマッシュを乗せる。
「なんだか今の貴女には必要な気がしたから」
「で、でも、でもっ……」
「……人生って、辛い事とか悲しい事とか沢山あると思う。でも、良い事とか嬉しい事もきっとたくさんあるから。だから、元気出して。ね? これが貴女にとって良い事でありますように」
そっと渡すと、少女はまだ信じられないように、瞬きもせず俺をじっと見つめていた。
「……それじゃあ、私はもう行くね」
出来てるかは分からないが、笑いかけてみる。少女はまだ俺を見つめていた。
「アイリとハトエルも、元気でね」
「もう行ってしまうんですか?」
アイリが悲しそうに言った。
「もう少しお話したいです……」
「ごめんね。そろそろ行かなきゃいけないから。でも、きっとまた会えるから」
「……はいっ」
「それじゃ、また」
長居は無用だ。
さっさとどこかに行って変身解除だ。
「あっ、あのっ!!」
立ち去ろうとした俺の背に、少女の震える声がかけられた。
「このご恩は一生忘れやせん! わ、わっちの名前はリンと言います! あ、貴女の名前を教えて下さい!」
「……私はティアラ・ホープ」
「ティアラ・ホープっ……」
「みんな、気をつけてね」
今度こそその場を離れる。
──タンッ──
「あっ!」
一足で一気に森へと跳躍する。後ろにアイリの驚く声がした。
誰も居ない森の中に入りながら、思わずため息を吐いた。
「何やってんだか。俺……」
まあ、ともかく。
元に戻るか。
──ヒュイイーンッ──
──ベキベキッ、ボキッ──
──ドサッ──
「ウオエエエエッ!」
木の根っこに直接肥料をぶっかけてやる。俺の朝飯と昼飯ブレンド肥料だ。すくすく育ちやがれ。
「オエッ……ふぅ、ふうっ、ち、ちくしょう、本当に栄養失調になっちまう……」
割りとマジで堪えるぜこの変身の負担はよお……。
「ちくしょう……誰もこんな苦労知らねえのに、なんで戦わなくちゃなんねーんだよ……」
口回りを拭って森から抜ける。
市場跡に出ると、そこらで兵士が駆け回っていた。町から援軍が到着したのだろう。
その兵士の一人が俺を見つける、
「おお、こっちにも生存者だ! 大丈夫か?」
兵士らに守られながら、市場の内側へと連れていかれる。
そこには他の避難者らが大勢集まっており、ところどころで怪我の手当てなどが行われていた。
「あっ! ノゾムさん! お~いっ、こっちでーす!」
その中にアイリ達の姿もあった。俺を見つけて大きく手を振っている。
「よう、お前ら。無事か?」
「はいっ。ノゾムさんもご無事で良かったです! 姿が見えなかったから心配しました」
「ふ。俺の逃げ足の速さは王国四天王と称えられるくらいだ。問題なしだぜ」
「そうなんですね? ふふ、凄いですね」
嫌味ではなく微笑むアイリ。
その横でハトエルがニコニコと笑っていた。
「なんだよ、ニヤニヤして」
「いいえっ。ただ、今日のパパすごくカッコ良かったなって!」
「そうかい」
くそ。含みのある笑みしやがって。なんかムカつく。
と、その横にはあの小麦粉少女、リンが座っており、俺と目が合うなりビクッと震えた。
「あ、あのっ、わ、わっち、さっきは助けてもらって……その……すみません、いきなり頬を叩いたりして……」
「気にすんな。それより、俺も助かったからイーブンだ」
「へ?」
「お前が突き飛ばしてくれたからな」
「い、いえ。あれは咄嗟というか、なんていうか……」
ゴニョゴニョとどもるリン。
「あ、そ、そうだ。あの、これ」
と、リン少女が俺に何か差し出してきた。
さっきのパンマッシュだ。
「あ、あの。今は現金が無くて……このキノコ、すごく貴重で売れば5000リルクにもなるそうでして……。こちらを差し上げますので今までの非礼を許して頂けると……」
「…………ああん? キノコだあ? おいっ、ヤクチュウヒキニゲムスメ!」
「は、はひいっ! わ、わっちの事ですか?」
「そーだ、てめえの事だ。いいか? 俺はなあ、キノコが嫌いなんだよお!」
「ひっ! そ、そうなんですか?」
「ああ。こんななあ、チ○コみてえなモン口ん中に入れるなんざ我慢出来ねえんだよお!」
「ノ、ノゾムさん……」
アイリが顔を赤らめて俯く。
ハトエルがポコポコ殴ってきた。
「もーうっ! どうして貴方はいつもそんな下品なんですかー!」
「うるせえ! 他人の生き方にとやかくケチつけんじゃねえ。てわけだ、コムギコムスメ」
「は、はいっ」
「そのキノコはお前が好きにしろ。で、金の件だが、お前みたいな貧乏人じゃ当てにならん。他の条件を出す」
「ほ、他の条件?」
怯えるように胸元の襟を引っ張るリン。どうやら、ガン見してたのがバレてるようだ。
「条件は、俺が困ってる事があったら助けろ」
「……え? そ、それだけでざんす?」
「おう。例えばだな、毎晩俺の部屋に来てそっとベッドに潜って──ごっほう!?」
ハトエルヘッドアタック。
「やっぱりそんな事じゃないですか!」
「例えばだ! 例えば!」
「ノゾムさん……」
「おい、アイリなんだその目は?」
「聖女アイリさんの、救いようのないおバカさんを見る目ですよ!」
「んだと、このクソガキ~!」
「わまま~!?」
「……ぷっ、あははは!」
ハトエルにグリグリを食らわせようとしていたところでリン少女が笑った。
「ご、ごめんなさい。でも、なんだか……ははは」
初めて見た笑顔は、なかなか可愛かった。
たく。こっちは苦労した挙げ句、5000リルクのレアアイテムだってパアになっちまったのに、笑いやがって。
けど、楽しそうな笑顔だな。
まあ。
これでいいか。
「それじゃあ、何かあったらわっちが力になりやす。その、出来る範囲で……。あ、申し遅れやした。わっちはリンと言います」
「おう、そうか」
「おじさんのお名前は?」
「おじっっ!!?」
──ピキッ──
「このコムギコムスメ~!! それは禁句だ~!! やっぱ前言撤回だ~! 脱げー! このアマあ!!」
「きゃあああ~!?」
「ノ、ノゾムさ~ん!?」
「止めなさいっ、パパー!」
馬鹿騒ぎしてたら兵士達が来て少し怒られたんで、皆して謝った。
お疲れ様です。次話に続きます。




