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48話──撃退成功

 





 ──カランッ……──


 イクリプスの身体はサラサラと崩れていき、最後は塵のように霧散して、砕けて壊れた水晶だけが地面に残された。

 それはオニックスが持っていた物だ。


 辺りは静けさを取り戻し、先ほどまで怪物が暴れていたのが嘘のように穏やかな風が吹いている。


「ぜえ、ぜえ、ぜえ、ぜえ……」


 流石に疲れた。息が上がるほどのマジ渾身ラッシュコンボだった。



「くっ?!  負けたのか?!」

「う、嘘っ?! 魔法少女の力を使わずに浄化した?!」


 驚愕するオニックス。そしてもっと驚くハトエル。


 オニックスは凄まじい形相で懐に手を突っ込み、あの通信機らしき道具を取り出した。


「ぬううっ!! ガルネット! 何が無敵の召喚獣だ! 呆気なくやられたぞ!」

『なんだと?! イクリプスが倒されたのか?』


 激昂する声の報告に、通信相手も驚いているようだった。それに対し、唾を吐き散らしながら再度怒鳴るオニックス。


「ああ、やられた! あれだけ膨大な魔力を注いで召喚したというのに、負けた! 何が帝国の切り札になり得る駒だ!」

『そんな馬鹿な……俺は作成に携わったわけではないが、原理は知っている。イクリプスを倒すには水晶の魔力を消すしかない。しかし、凄まじい魔力を込めた魔法などを使用しなければ水晶の魔力は浄化できないはず……やはり伝説の通り、魔法少女の放つ魔法は凄まじいということか』

「そんなもん使ってないぞ! ティアラ・ホープは拳と蹴りのみで水晶を破壊したぞ!」

『な、なんだと?! 魔法を使わずに素手で? まさかそこまでの破壊力を持っているとは……いや、待てオニックス。今なんて言った?』

「なんだっ、ティアラ・ホープは拳と蹴りしか使ってないと言ったんだ!」

『そうじゃない、その後だ!』

「水晶を破壊した」

『な、なななっ……なんだとー?!』


 こちらにも伝わるような絶望的な叫びが通信機から放たれる。


『こ、壊れた?! レ、レイド・ストーンを壊してしまったのか?!』

「お、俺じゃないぞ! 魔法少女が壊したんだ」

『あ、あれ一個作るのにどれだけの費用がかかっていると思ってるんだ!? 城の一つや二つどころじゃないんだぞー!? な、何て報告すればいいんだ?! ま、また女王に始末書の山を押し付けられっ……ぐ、ぐああっー!?』

「お、落ち着け。何も一つしかない訳でもないだろう」

『三つしか無いんだー!! それすらやっとの思いで降りた予算で作成したんだぞー! 女王陛下を説得するのにどれだけ苦心したと思うんだー!!』

「お、おう、そうか。大変だな……」


 相手の発狂ぶりに、オニックスも狼狽していた。


『と、とにかく! 壊れた水晶を回収してすぐに戻れ!! いいか?! 拠点じゃないぞっ、本国にだ!』

「わ、分かった……くそっ!」


 オニックスは通信機を仕舞うと、俺を激しく睨みつけてきた。


「勝負はお預けだ! ティアラ・ホープ!」


 そう言って手を掲げると、砕けた水晶がふわりと浮かんで、オニックスの巨大な手へと吸い込まれていった。


「覚えてろ! この借りは必ず返す!」


 よく聞くような捨て台詞と共に、黒い靄に包まれてオニックスの姿は消えた。



 後には葉の擦れ合う穏やかな自然の音しか聞こえず、その静けさが激戦の終わりを告げる勝鬨となっていた。



「ホープーっ!」


 と、その静けさを破るような弾けた声を上げてハトエルが飛び付いてきた。

 嬉しそうに翼をバタバタはためかせて、ひょっとこ面を外してキラキラした目で見上げてくる。


「す、凄いです! 凄すぎです!! まさか、魔力結晶の集合体を素手で破壊してしまうなんて!」

「おう、そうか。そんなに凄い事なのか?」


 まあ実際に硬かったが。


「凄いなんて物じゃないですよ! 普通、魔力の結晶体──私達天使はマナ結晶と呼ぶんですが、マナ結晶は物理的に破壊するにはとんでもない威力が必要なんです。ホープの知ってる物で例えると、ダイナマイト100本でも傷一つ付けられないないでしょう」


 ダイナマイトの威力なんて知らねえから、いまいちピンとこない。が、まあ硬そうだ。


「それにしても、マナ結晶の召喚獣なんて……まさかこの世界にあんな術式を作る方法を編み出した人が居たなんて」

「ふーん。そんなにすげえのか?」

「いえ、凄いって言う訳でも無いんです。でも、私達天界はほぼ全ての次元の世界を把握しているのですが、あの召喚方法はかなり魔法文明が発達してる世界でないと編み出せないと思うんですよね」


 このアホ天使にしては小難しくて、壮大なスケールの話をしている気がする。


「まあ、ともかく。そんな奴を正攻法で倒したって訳だな」

「それは逆ですよー。マナ結晶は物理には強いですが、聖なる浄化魔法には弱いから。ホープが必殺技を使えば一撃だったのに~」

「あんなんやれるか」

「そう言えば恥ずかしいって言ってましたよね? どんな詠唱だったんですか?」

「……」


 キュンキュンで慈愛に満ちたような詠唱とポーズだった。俺の感性が1ミリも受け付けないような。

 それこそ、日曜日の朝に放送されるアニメに出てくるキャラが放ったりしたらサマになりそうな技だった。


 つまり、擦れたアラサーの野郎が出来るものではない。


「言わん。墓場まで持ってく」

「え~。見たかったのに~。それに、もしまたあのイクリプスとかいう召喚獣が出できたら苦労しますよ?」

「そん時はまた拳でどうにか解決する」

「もう、野蛮ですよ~」


 不満そうにするハトエル。


「そんな事より。お前、アイリ達をほったらかしにしてきたな?」

「あ、大丈夫です。アイリさんはもう目を覚ましました。だから私が来たんです」


 背中の翼をするすると仕舞って、俺の手を取るハトエル。


「さ、行きましょう!」

「この姿でか? 変身解除してえんだけど」

「アイリさんがホープに会いたがってました。だから、一度会ってあげてください!」


 なんで、そんなファンサまでしなくちゃなんねーんだよ。


 けど、まあアイリには世話になってるしな。


「しゃーねえなあ……」



 ウキウキハトエルに連れてかれ、先ほどの場所に戻ると、気絶したままの少女を膝枕しているアイリが居て、俺に気づいた途端パアッと花咲くように顔を明るくした。


「ホープさんっ!」


 アイリは今にも立ち上がりたそうな様子で、輝く目を俺に向けていた。


「また会えるなんてっ! ああっ、感激です!」

「え、えーっと。あはは、うん、ありがとー。元気にしてた?」

「はいっ!」


 愛想笑いを意識せねばならん。くそ、アイドルとかってこんな微妙な気分なのか?


「また助けてくれたんですねっ? もう、本当になんとお礼を言えば良いのか。ああ、話したい事がたくさんあるのに、何を話せばいいのか分からない!」

「そ、そうなんだー」


 こいつキャラ崩壊してない? こんなにテンション跳ね上がる事あるんだな。


「えっと。アイリ、怪我は無い? 気分とか悪かったりしない?」

「はいっ! ホープさんのお陰で元気です!」

「そっか。うん、安心したよ」

「あっ、と言うか不思議に思っていたんですけど、どうして私の名前を?」


 あ、やべ。またやっちった。


「え、えーっと。それはね。あの、あれ。あれだよ。魔法少女はね、何でも知ってるの」


 我ながらアホ過ぎて何の理由にもなってない。


「そうなんですね! 凄いです!」


 でも鵜呑みにしたよ。この子けっこうアホなのかな? と言うか、魔法少女全肯定系信者かな?


「ああ……何度見てもかわいい……。気高くて、可憐で、凛々しくて……。本当に、何度も想像してたような……」

「あ、あはは。ありがとう」

「ホープさん、ホープさんの正体は誰なの? もしかして、私の知る人?」

「え、えっと。ごめんね、正体は秘密なの。魔法少女のお約束なの」

「そうなんですねっ! ああ、秘密がある所もますますかわいい!」


 あー。もう帰りてえ。可愛いのはお前だよ。


「う、うう~ん……」


 と、適当に別れの挨拶の間合いを測っていたら、あの小麦粉少女が軽く呻いた。


 ぼんやりとした目が開く。


「あ、あり? ここ、は?」

「気がついた? よかった~」

「大丈夫ですか?」


 アイリとハトエルに労れながら起き上がる小麦粉少女。ぼんやりとした眼で周りキョロキョロと見回している。


「わ、わっちは一体……」

「貴女も私も騒ぎに巻き込まれて気を失っていたの。そしたら、この二人が助けてくれたの」


 アイリがそう説明すると、少女は俺とハトエルにペコペコと頭を下げた。


「それは、ほんとにありがとうございました。大変申し訳ないざんす。こんな小さな子に、同い年くらいの……あ、あり?」


 そこで何かに気づいたように少女が目をパチパチして俺の全身を眺めだした。


「な、なんだか、貴女の姿はまるで……」

「この人は魔法少女だよっ」


 アイリがそう教えると、少女は目ん玉ひんむいて驚いた。


「ま、魔法少女!? あ、あの伝説の?! 何百年も前の大災厄で世界を救ったという勇者の?!」

「えーっと。私は別人だよー」


 たぶん。


「そ、そんなお人がわっちの事を……う、うぅ、うぅ…………うわああ~んっ!!」

「「「!?」」」


 少女は何故か、突然泣き出してしまった。




お疲れ様です。次話に続きます。

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