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45話──市場での対峙

 




 光の帯に体が包まれる。


 そして──



 ──ベキベキッ、ボキッ、バキッ──


 ──ドサッ──


「ぐ、ぐおおっ……ウエエエェッ……」


 ノルマ達成。何度やっても締まらない変身完了の儀式だ。


「うっぷ……うえぇ……ふぅ、よし!」


 気絶している少女を抱っこする。安全な場所へ連れてこう。


 まずはハトエル達を探す事からだ。最初の爆風でどっか別の場所に吹っ飛ばされたらしく、姿が見えない。


 多分そんなに遠くに飛ばされてはないはずだ。そこら辺の露店の陰に居るだろう。


『わあああああー!』


 兵士達の悲痛な叫びが聞こえてくる。悠長にはしていられない。


 そこらの露店の陰を覗いていくと、思った通り二人はすぐに見つかった。


「ハトエルっ! アイリっ!」


 二人とも気を失って地面に倒れていた。

 でも、特に怪我は無いようだ。気絶してるだけだろう。


「たくっ、天使のくせにだらしないぞ」


 少女をゆっくり下ろしてハトエルの頬をペチペチと叩く。


「ほら、起きろ。天使様、寝てる場合じゃねえぞ」

「う、うう~ん……はっ! あ、あれ? あっ! ホープ!?」


 目を覚ますと同時にハトエルは驚きの声を上げた。


「変身していたんですねっ?」

「あー、まあな。ほら、四天王とかいう大物も居るしな」

「あっ! アイリさんとあの女の子は?!」


 すぐに辺りを見回して、近くに倒れている二人に気づくハトエル。


「アイリさんっ! アイリさんっ!」

「う、うぅ……」

「よかった~っ。気絶してるだけですね」

「ハトエル、こっちの少女は怪我してる。診てやってくれ」


 固く目を閉じたままの少女の横にハトエルが寄り添う。


「可哀想に……待ってて下さいね。今治してあげるから」


 清らかな光が滲み出し、それが少女の体へと流れ込んでいく。


「ぅ…………」


 青くなっていた顔が戻り、安らかな寝息を立て始めた。


「これでもう大丈夫。あ……」

「あ、おい」


 後ろに倒れそうになるハトエルを抱き止める。


「大丈夫か?」

「えへへ。私の力を少しこの子に分けたらクラっときちゃいました」

「無理すんなよ」


 ハトエルの小さな体を抱えて、すぐ近くの店の壁に寄りかからせる。


「ほら、ここで休んでろ」


 転がっていたジュースのビンを失敬して、コルクを引き抜いて渡す。


「さ、飲め」

「でも、お金払ってないのに」

「こんな時に気にする事かあ? たくっ」


 半ば無理やりに飲ませる。


「いいか、俺はあのふざけた筋肉達磨をどうにかしてくる。だからお前はここで二人を守っててくれ」

「分かりました!」

「うしっ、やるか」

「……ホープ!」


 その場を後にしようとした俺をハトエルの声が呼び止めた。振り向くと、にこっと明るい笑顔。


「ありがとうっ! 助けに来てくれて」

「まあ、この姿なら勝てるだろうしな」

「そうじゃなくて」


 ちょっとくすぐったそうに上目遣いになるハトエル。


「さっき、モンスター達から助けてくれたこと」

「……行ってくる」

「行ってらっしゃい! 気をつけて!」



 戦闘音のする方へ一気に走る。


 辺りのモンスターの数は減っていたが、兵士や冒険者らも大きく後退していた。

 ジリ貧になっているようだ。


「……あそこか」


 戦闘中のオニックスと王国軍を見つけたが、すでに決着はついているように見えた。


「くっ、もはやこれまでか……!」

「つ、強すぎる!」

「これが四天王っ……」


「ふん。手応えの無い奴らだ。まあいい。そろそろ俺の目的を果たす時か」


「待ちなさい!!」


「「「!!!」」」



 俺が大声を上げると、兵士達とオニックスが一斉にこっちへと振り向いた。


「!! き、貴様はっ!?」


「だ、誰だ?!」

「なんだあの女の子は?」

「君っ! ここは危険だ! 早く逃げなさい!」


 俺を気遣うように叫ぶ兵士達。そして、その向こうで驚愕した顔を浮かべるオニックス。


 オニックスの顔がみるみる内に怒りの形相へと変わっていった。


「現れたな、ティアラ・ホープ……!」


 もの凄い闘気が立ち上る。野蛮で凶暴な殺気が肌にまでビリビリと伝わってくるようだ。


 俺の方からオニックスの元へ向かう。奴が操ってるのだろうか。モンスターらが止まったまま動かない。


 周りの兵士らが俺を引き止めようと立ちはだかった。


「君っ! ここに居てはいけない! 早く逃げなさい!」

「大体、君は誰なんだ?!」

「……私は通りすがりの魔法少女」

「「「えっ!?」」」


 するりと兵士達をかわして、前に進む。


「ま、魔法少女だって?!」

「あの伝説の?!」

「天下無双、史上最強と謡われる?!」

「伝説の戦士?!」


 後ろでどよどよと盛り上がる兵士達。


 ああ、こんな姿じゃなかったら最高にカッケエ登場シーンだってのによ。

 こんなフリフリドレスとぽよぽよリボンを揺らしてるんだからな。


 だが、ここは我慢だ。

 演技せねば。



「みんな。ここは私が引き受ける。だから貴方達は怪我している人達を運んで逃げて」

「し、しかしっ……」

「ほ、本当に魔法少女なのか?」

「我々が逃げる訳には……」


 いーからさっさと消えろよおっ! こちとら恥ずかしいの我慢してこうやって前に出てきて優等生ぶってんだからよお!


 そんな俺の心境など知る由もないオニックスが睨みつけてくる。


「ティアラ・ホープ……こんなにもすぐ会えるとはな。礼を言うぞ」

「……私のファン?」

「違うわ!!」


 ちょっと挑発したらライオンのように吠えた。


「コケにしおってええ! やれ! モンスターども!」


 オニックスの手元で何か水晶のような物が光る。それと同時にモンスターらが一斉に動きだした。


「わあっ!? またくるぞお!!」

「くっ! 急いで防御陣形をっ!」


 くそ、まだ居たのか。


 騒ぎ始める兵士らに一言怒鳴っておく。


「みんなっ、下がって!」


 ──タンッ──


 地面を蹴って跳躍し、突撃してきたモンスターの群れにこっちから飛び込む。


『ギチギチッ』


「せいやあっ!」


 先頭のビッグアントに蹴りを叩き込む。


 ──ズドオッ──


 蹴りが当たったアントの体は弾丸のように飛び出し、後方に蠢いていたモンスターらを一直線に巻き込みながら、何十メートルも先へ吹き飛んだ。


 ──ドオンッ──


 砲弾が着弾するように遠くで爆散する。


『ギチギチッ』


「せいやあっ!」


 ──バキッ──


 飛び掛かってきた別のアントの顎に手刀を叩き込む。鉈のような顎がへし折れ、その勢いで地面にめり込む。


『ブモオッ』

『ギャギッ』

『ジュルルッ』


 全方位から一斉に飛び掛かってくるモンスター達。


 ──ザッ──


「はあっ!」


 それを回し蹴り一回転で薙ぎ払う。


 ──バキャアッッ──


 ヒットしたモンスターの体と、蹴りの風圧によって周囲に群がっていた連中も吹き飛んでいく。


 だが、恐れを知らない軍団はそれでも襲いかかってくる。


「しゃあっ!」


 ──バキッ、メキイッ、ドオンッ、ズババッ──


 オークのようなモンスターを殴り飛ばす。スライムを蹴って爆散させる。アントの顎を投げたらブーメランのようになってモンスターらを何体も貫通していった。


「はっ!」


 群がってきたモンスターらをあらかた片付けて構えをとる。


 辺り一面、モンスターの無惨な屍によって埋められていた。


「なっ、な……」

「す、凄い……!」

「こ、こんな可憐な子が、これ程の力を……!?」

「で、伝説の魔法少女っ……!!」


 後ろで兵士達の驚愕の声がざわめいている。

 まだ居たのかよ。


 巻き込まれる可能性があるし、あんま見られたくもないので、振り向いて叱咤する。


「さあっ、早く! ここは私が何とかするから、貴方達は怪我人の手当てと逃げ遅れた人達の救助を!」

「わ、分かりました!」

「ありがとうございますっ!」

「俺らは退くぞ!」


 兵士や冒険者らは怪我人を連れて退却を始めた。


 それをオニックスは止めようともしなかった。



「ふん。流石だな。そうでなければ話にならん」


 オニックスが水晶を掲げると、モンスターらは憑き物が取れたように森へと帰っていった。


 兵士も、モンスターも。生きてる者は全て去り、俺とオニックスの二人だけになる。


「こんなにも早く再戦を果たせるとはな」

「……」

「だが、今回は手加減せん。油断もな。俺の全力をもってして倒す」


 オニックスから凄まじい闘気が沸き立つ。


「さあっ、覚悟はいいな!!」

「話し合いは無理?」

「ほざけ!」


 秒で交渉決裂。オニックスがグっと体に力を溜める。


「……はぁ」


 仕方ない。


 俺も覚悟を決めて構える。


「行くぞ!」


『オニックス、今何をしている?』


 そんな時だった。奴のではない声が発せられた。


 オニックスがガクっとつまづいて、うんざりした顔になった。




お疲れ様です。次話に続きます。

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