44話──嫌は嫌だが、それでも……
イノシシもどきは俺の不意打ちによって倒せたようだ。
だが、スライムらしき奴とゴブリンっぽい奴のヘイトが俺へと向いた。
「来るなら来やがれっ! てめえらなんか画面の中で1万体以上倒してるぜ俺は!」
『ジュルルッ』
『ギャギイッ』
ゴブリンは木を削って作ったらしいナイフのような物で襲いかかってきた。
「ぬわ!?」
バックステップで緊急回避する。ゲームみたく華麗にカウンターなんてやる勇気はない。
「っ、でりゃあ!」
だが、ナイフと剣じゃリーチが違うぜ。
一歩踏み出し、上段からの振り下ろしを繰り出す。
──ズシャッ──
『ギャギッッ』
剣先はゴブリンの胸元を大きく切り裂き、紫色っぽい血が舞った。
「っ……·」
『ジュルル』
休む間もなくスライムが飛びかかってくる。
「ちっ!」
避けるのが遅れ、足に絡みつかれる。
ブニョブニョしたゼリーに包まれ、動きにくくなる。
「こんにゃろ!」
──ズバッ、ザシュッ──
自分の足を傷つけないように切りつける。
水なのか体液なのか分からん汁が飛び散り、足を拘束する圧力が段々と弱まっていく。
『ジュ……』
ベチャッと音を立ててスライムが地面に伸びる。
「はあ、はあ、はあ、や、やったか……」
なんとか倒した。
だが、いやに疲れた。足もヒリヒリする。
「お、お前ら無事か?」
後ろのハトエル達に振り向くと、二人とも嬉しそうな顔をした。
「のぞっ……パパ! やっぱりパパは愛と勇気の味方です!」
「んだそりゃ。アンパンで出来たヒーローじゃあるまいし」
「ノゾムさんっ、助かりました! ありがとうございます!」
「ああ。それより、早く逃げるぞ。ん?」
アイリの腕の中にぐったりしている人物。その顔には見覚えがあった。
「あっ。そいつは小麦粉通り魔!」
「アントに襲われて大怪我してるんです! 今、ヒールで傷口はほとんど塞がりましたが……」
完全に気を失っている少女。
「なんだってこいつもこんなとこに……」
「……分かりません。でも、何か商品を取りに来てたみたいで」
「……ともかく、長居は無用だ。二人とも、早く逃げるぞ!」
『おおおおおおおおおお!!』
その時。市場の方から大勢の人間の雄叫びが響いてきた。
見ると、町からの援軍だろうか。数十人の兵士らがこちらに駆けてきていた。
「進めー! モンスターどもを蹴散らせー!」
「味方が苦戦してる! 急げー!」
「負傷者の回収を優先しろ!」
怒涛の援軍が俺らの横を走り抜け、モンスターの大群とぶつかる。
すぐ後ろで繰り広げられる乱戦。しかし、援軍の数は十分だ。
まだ安心は出来ないが、これなら避難出来る。
「よし、援軍が来た。俺らは今の内に逃げるぞ」
「でも、まだ戦ってる人達が……」
「まずはその少女を安全な所まで運ぶのが先決だ。俺が運んでく。アイリとハトエルで周囲を警戒しながら援護してくれ」
「は、はいっ」
「分かりました!」
アイリから引き渡されるように少女を抱き上げる。けっこう軽い。
だが──
「っ……。くそ……」
「ノゾムさん、どうされました?」
「いや、なんでもない」
さっきスライムに絡みつかれた箇所がいやに重い。軽い眩暈もする。
「っ! ノゾムさんっ、スライムの毒にやられましたか?!」
「毒?」
アイリが俺のズボンの裾を捲る。エッチ。
「あっ、毒反応が出てる! ノゾムさん、早くヒールしないと!」
「すぐに死ぬような毒か?」
「い、いえ。でも、放っておくとどんどん痛みと倦怠感が強くなって、食中毒のような症状が……」
「なら今はいい。この通り魔娘の安全第一だ。とっとと行くぞ」
「でもっ……」
「ハトエル、先導してくれ」
と、退避しようとした時だ。
ハトエルが大声を上げた。
「ま、待って下さい! 強力な魔力反応がすぐそこまで迫っています!」
「なに?!」
強力な魔力反応?
「おい、それって何かのモンスターか?」
「いえ、これはこの間のアイリさんを拐った──」
──ズガアアンッ──
「「「!!?」」」
後ろで凄まじい爆発音がした。
振り返ると、土や砂が舞い上がり、石ころがパラパラと降っていた。
「「「ぐわあああーっ!?」」」
吹き飛ばされたであろう兵士達が地面に転がる。
『ふん。雑魚が何人居ても雑魚。これではもう一つの機能を試す事も出来んな』
「っ!? あ、あいつは!!」
「や、やっぱり!」
「あの人はっ……!」
砂煙の中から大きな人影がぬっと現れた。
圧倒的で威圧感満載の巨体。全身から漲る歴戦のオーラとでも言うべき闘志。
「ふん。やはりこんな任務は好かんな」
そこに現れたのは帝国軍四天王のオニックスだった。
「さ、最悪だぜ。まさかあの野郎も居るなんて……」
状況が一気に悪くなりやがった。
「っ! あいつは魔族!?」
「魔族だ!」
「ま、待て! あの姿、噂に聞く四天王なんじゃ!?」
体勢を立て直した兵士らに動揺が走る。
オニックスは、腰の引けた兵士らを見下して苦い顔をした。
「貴様ら。男が敵の将を前にしてなんだその弱腰は! そんな情けない気概で戦に勝てると思っているのか!」
ぐわんっと響き渡るオニックスの渇。
「さあ、我こそはと思う者は来るがよい。正々堂々と武人らしく死なせてやる。それとも、降伏するか?」
「くっ! ひ、怯むな! 四天王とは言え、相手は一人だ!」
「ここで倒せば大戦果だぞ!」
「い、いや! 一度下がって援軍をっ!」
「まずは報告した方がっ!」
「モンスターから先だ!」
兵士らは完全にパニックに陥っていた。
「腰抜けどもめ!」
オニックスが丸太のような腕をグッと掲げる。
その手に妖しい光が灯ってバチバチ言い始める。
「!! ヤバい! あれはマズイ!!」
昨日戦った時に見た技だ。
「みんなっ! 逃げろお!! それはヤバいぞおー!! 走れっ! アイリっ、ハトエル!」
兵士らに叫び、アイリとハトエルを連れて逃げようとした瞬間。
──ズドオオオオンッ──
「うわああっ!?」
「わあーっ?!」
「きゃあああああー?!」
とてつもない爆風が俺らを襲った。
体がいとも簡単にふわりと宙に浮き、吹き飛ばされた。
──ズシャッ──
「ぐうえっ!?」
地面に叩きつけられる。腕の中の少女を庇ったせいで、ほとんど受け身もとれずに肩を強打した。
「ぐっ、あ……いっつつ……」
ちくしょう。めっちゃいてえ。
「く、くそ。やっぱり一時的な感情に流されてもロクな事にならねえな……」
「う、うぅ~ん……」
痛みに心が折れかけていたら、胸の中で少女がうめき声を漏らした。
「うぅ……あ、あり? ここ、は?」
薄く目を開いた少女とガチ恋距離で目が合う。アゴクイすればそのままキスになるぜ。
「……」
「……」
うーん、改めて見るとなかなか可愛い子じゃないか。お、今になって体の温もりが意識される。ちょいと細身だが柔らかい。
ちょっとくらいチューしてもいいよな? うん、俺頑張ったんだし。さ、チューしてくれ。
「…………っ!! いやあー!!」
──パシィンッ──
「ごっふぇ!?」
甘いキスの代わりに激辛なビンタが飛んできた。
「や、やめてー! わっちなんて肉付き良くないし、いかがわしい事しても楽しくないざんす~!!」
──ボコボコボコッ──
「ぐへっ! ごふっ! こ、こらあ! この粉ムスメ~!!」
「ひっ、ひえぇ?!」
人の顔をバスケットボールみてえにドリブルしてくれやがって。
「誤解すんなっ。そんなんじゃなくて、俺はお前を助けようとしてだなあ……」
「助け? あっ!?」
「なんだ、どうし──」
──ズオッ──
「!!」
そこへ、流れ弾だろうか。
あの魔力の弾がこっちに飛んできた。
「っ! 危ないっ!!」
「うおっ!?」
少女に突き飛ばされる。
地面に尻を打ったと同時に──
──ドオオンッ──
「ぐわっ!?」
「きゃあっ!!」
その魔力の塊が俺と少女の近くに落ちた。
着弾した魔力弾が爆発し、俺は地面に叩きつけられた。だが、少女が突き飛ばしてくれたお陰で思ったよりは煽りを受けなかったらしい。
「っ!!」
しかし、少女の方は衝撃が大きかったようだ。その身体が軽々と宙へと舞い上がり、近くの露店の陰に落ちていった。
「おいっ!!」
慌てて駆け寄ると、そこには頭から血を流してぐったり倒れる少女の姿があった。
すぐに抱き起こす。
「しっかりしろ!」
「……ぅ…………わっちの……じゆ、う……」
「お前……なんで、俺を……」
「……ご、ご迷惑を、おかけして……わっち、ここ、で……あきない……自由を……」
そこで少女は意識を失った。
「…………」
ポーチを外し、それを枕にしてそっと少女を寝かせる。
「……」
──ドオオンッ──
激しい戦闘音がまだ響いている。
「っ!!」
リンククリスタルの透明な光を胸に掲げる。
「シャイニーリンクル!!」
お疲れ様です。次話に続きます。




