42話──人助けなんて無駄
「おりゃあー!!」
──ザンッ──
『ギッ』
「そりゃあ!」
──ズドッ──
『ギッ』
次々に襲いくるアント達にマッスルパワーの斬撃を食らわしていくと、かなり簡単に倒せた。
が、しかし。
『ギチギチギチ』
「うおっ!?」
──ガキィッ──
数が多いため、段々と押され始める。一匹のアントの鎌みたいな牙を剣でなんとか食い止める。
──ギリギリギリ──
「くおおっ!? 力つええ?!」
「ノゾムさん! 風よ、刃となりて飛翔せよ! 『ブレイスカッター』!」
──バシュッ──
アイリの方から奇妙な詠唱が聞こえ、俺を食い殺そうとしていた蟻の胴体にぶち当たった。
半透明のブーメランみたいな空気の塊だ。それが蟻を吹き飛ばす。
「さ、サンキュー! 助かったぜ!」
「まだ来ます! 気をつけて!」
アイリが杖をクルクルと回す。
「水の精、逆巻く渦となりて敵を押し返せ!『サイクロンストリーム』!」
──ズアアアアッ──
「うおっ?!」
噴水のような水柱がほとばしり、迫ってきていたアント達を三体くらいを飲み込む。
アントらは水流に押しやられ、地面に叩きつけられた。
「ノゾムさんっ、今です!」
「お、おお!」
地面にもんどり打ってもがくアントの頭の付け根に刃を突き立てる。
どうやら弱点のようだ。一撃で動かなくなる。
「おりゃ!」
もう一体にも同じ攻撃が通ったが、残る一体が体勢を整えて襲いくる。
「うっ!?」
「大地の盾!『ガイアシールド』!」
アイリの詠唱と共に、俺のすぐ前の地面から土が吹き出て、それが一枚岩のようになって立ちはだかった。
──ゴッ──
『ギイッ』
アントが跳ね返され、地面に引っくり返る。
「でやあっ!」
そのチャンスは見逃さず、最後の一体に止めを刺した。
「七、八、九……九体か」
倒したビッグアントらは全部で九体。
「ふぅー。なんとかなったな。やっぱパーティーを組むと違うな。俺一人じゃ明らかに負けてた」
「お役に立てて良かったです」
証拠品になるという顎を切り取って回収する。口の内側の筋を切断すると、案外きれいに取れた。
「こいつは幾らだったか……」
依頼書を確認してみると、ビッグアントは一体60リルクだ。
ということは九体で500リルク以上。二人で分けても300に近い。
「大して苦労もしてねえのにこの稼ぎはでかい。アイリ、パーティーって最高だな」
「はい。私も、戦闘向きではないので、ノゾムさんがアタッカーで助かりました」
「このままじゃんじゃかモンスターを倒していくか。ん?」
証拠品を回収していたら、近くに変わったマツタケみたいなキノコが生えているのを発見した。近寄って手に取ってみる。
「なんだこりゃ? 食えるのか?」
「あっ、それは!」
すると、アイリが驚きの声を上げた。
「凄いです! それはパンマッシュですよ! 滅多に見つからない高級食材で、一つ5000リルクで取引される事もあります!」
「な、なんだってー!?」
まさかの超レアアイテム。
「やったぜー! たまには良い事あるじゃんかよ!」
「良かったですねパパ!」
ポーチの中に入れておく。こいつは大事な収入源だ。
さっきは俺も拗ねて、空気悪くしちまったからな。これを売って二人に何か買ってやるか。
「ハトエル。帰りに綿飴買ってやるぞ」
「わーいっ! わたわた、わた~しは~わたあめ~! わ~た……あっ!」
喜びの舞いを踊っていたハトエルが突然大声を出す。
「こ、これは?!」
「なんだよ、また漏れそうなのか? ほら、さっさとそこの茂みで済ませろ」
「なんで毎回そうなるんですか! そうじゃなくて、なんだか魔力の異常な乱れを感じるんです!」
「なんだと?」
すると、隣に居たアイリもハッと何かに気がついたように後ろを振り返った。
「私も感じた……! 市場の方で何か変な魔力の波動が……!」
俺にはサッパリ分からないんで、二人が電波系不思議ちゃんのように見える。
「のっ、パパ! とにかく市場に戻りましょう!」
ハトエルが飛び付いて耳打ちしてくる。
「サンセットレイクで感じたのと同じ気配です!」
「マジか?!」
だとすれば、ここはヤバくなる可能性大だ。
て言うか、逃げの一択じゃん。
「とにかく、市場に戻りましょう!」
「お、おう。そうだな」
俺らは急いで市場へと戻ることにした。
小走りになって着いた頃には、市場は大混乱に陥っていた。
「ひいい! なんでモンスターが!?」
「に、逃げろー!」
「大群だー! 帝国軍かもしれないぞー!」
「森から出てくるぞー! みんな逃げろー!」
慌てふためいて逃げ惑う商人や旅人。せっかくの売り物や珍品が地面に散らばって、それを必死にかき集める店主の姿も。
「ま、まさか! サンセットレイクの時みたいに?!」
「あっ! アイリ!」
人々が逃げてくる方向へと駆け出すアイリ。
「おいっ! アイリ! そっちは危険だ!!」
「怪我してる人が居るかもしれません! ノゾムさんはハトエルちゃんと避難を!」
「馬鹿ッ!! 他人より自分の身を──」
しかし、俺の言葉が終わらない内にアイリは人混みの向こうへと消えて行ってしまった。
「あの馬鹿! チート級に強え訳でもねえのによ!」
「望さん! 早くアイリさんを追いましょう!」
「どんなモンスターが居るのか分からねえのにか?!」
「でも、このままじゃ……!」
くそ。
なんだってあいつはそんなにもお人好しなんだ。なんでそうまでして他人を助けようとする。
他人なんて、どいつもこいつも結局は自分の身が可愛いだけの自己中どもだぞ。俺も含めて。
なのに、なんで迷いなく行けるんだよ、命まで懸けて。死ぬかもしれないのに。
俺はそんなのゴメンだ。
「っ!」
「?! 望さん!」
逃げようとした俺の前にハトエルが回り込んできた。
「どうして逃げるんですか?! アイリさんを追いかけて、一緒に戦って、皆を守りましょう!?」
「ハッキリ言うぞ! 俺は人助けなんかまっぴらなんだ!! 前世で人を助けて良かったと思った事なんか一度もねえ!」
何かトラウマと言うほどの記憶があるわけじゃない。
もっとちっぽけな事だ。
小さな事で誰かを助けても、その場限りの感謝のみ。
自分が困った時、悩んだ時、恩を返してくれる奴なんて居なかった。
ましてや、助けて貰うのが当たり前。そんな態度の奴だって珍しくなかった。
頑張れば頑張るほど、ただ疲れるだけだった。
みんな小さな感謝なんてすぐ忘れる。
助けた側にとっては一生懸命な事であっても、助けられた側にとっては些細な手助けくらいにしか思われない。
それどころか、助けてやった奴に裏切られるような事すらあった。当の本人はそんな自覚すら無いような態度で。
そうやって俺は善行とか優しさや正直なんて馬鹿のやる事だと身をもって学んできたんだ。
そんな事がつもりに積もっただけだ。
「命を懸けて人を助けたところでリターンは何だ?! 『ありがとう』くらいだろ?! 自分の命の代わりになるようなモンでもくれんのかよ!?」
「誰かを助けるのに見返りを求めるなんて!」
「当たり前だ! 慈善事業家でもなければ聖者でもねえんだぞ! 俺はなっ、ただの人間なんだよ!! どこにでも居る、くだらねえ生き方しか出来ねえ、そんな人間だ!!」
「そんなっ……」
「俺の生前プロフィールを知ってるだろ。何も出来ねえで死んだ、ただの負け犬だ。そんな野郎が世界を救う救世主? 伝説の魔法少女? はっ! 下手くそ過ぎるジョークで逆に笑っちまうぜ!」
「……」
ハトエルは今にも泣き出しそうな顔で俺をじっと見つめていた。
「どけ。しばらくしたら兵士でも来るだろ。ここは王都に近いんだしよ」
「…………」
「お前は逃げないのか?」
俺はハトエルの小さな背中に声をかけた。しかし、ハトエルは黙っていた。
「……なら勝手にしろ」
「……信じてます」
「……」
足が止まった。
「私は、望さんの心の奥にある光を信じてます。天使の直感が、貴方の素晴らしい魂を教えてくれている。例え、どんなに自分で蓋をしても、決して偽れない情熱的な光を」
「……」
小さな足音が遠ざかっていった。
振り返ると、ハトエルの姿も人の濁流を遡って行った。
逃げてくる人間の数が随分と減っていた。
「……あいつらはおめでた過ぎるんだ」
最後まで訳のわかんねえ事ほざきやがって。
「……」
──ザッ、ザッ、ザッ、ザッ──
何が光だ。情熱的だ?
──ザッ、ザッ、ザッ、ザッ──
そんな大層素晴らしいモンが俺の中にありゃ、苦労なんてしねえよ。
──ザッ、ザッ、ザッ、ザッ──
俺は自分の事で精一杯なんだ。金貰うために王女様からのオーダーには応えるが、それ以外の事なんて管轄外だ。
「……」
──ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……──
「…………」
あいつらが、他のモブどもがどうなろうと。
俺さえ無事なら……。
「…………~っ!!」
──ザッ!──
お疲れ様です。次話に続きます。




